本気の恋は占術不能

 安堵したように笑われて、やはり得な男だと思った。そんな風に喜ばれたら、多少の罪はどうでもよくなってしまう。
「じゃあ、もう行って。検討を祈る」
 ひらひらと手を振られて今の状況を思い出す。海堂とのすれ違いはまだ解決していない。今日のことだけではない。自分はずっと、彼との間にわざと線を引くようなことばかりしてきた。今日くらいぶつかってみてもいいのではないか。いや、彼はもうとっくに神崎の気持ちを知っているかもしれない。それならどうすればいい? この時間まで連絡がないのが答えではないか。でも、だとしても今日はこのまま帰ってしまいたくない
 来るときに贅沢しすぎだと思ったのに、考えることに忙しくて、結局またタクシーを使ってしまう。
『これから部屋に行ってもいいでしょうか? よければ住所を教えてください。話したいことがあります』
 おおよその住所を告げてタクシーに走り出してもらってから、海堂にそんなラインを入れた。これから待ち合わせ場所を決めるのも煩わしい。そんな気持ちを察したように、彼からはすぐに言葉が返ってくる。
『待っています。これが住所です』
 よかった。会うことを拒絶されはしなかった。運転手に住所を告げてから、今度はスマホでocotta2を起動させる。
「オコ。お前、海堂さんに俺の気持ちをバラしたか?」
 起動画面が終わると同時に聞いた。運転手に不審に思われることを気にしている場合ではない。何故今まで気づかなかったのだろう。部屋で海堂にオコを見せたとき、早くオコを片付けなければという妙な焦りに襲われた。考えてみればそうだ。ocotta2は主以外の人間には礼儀正しく接する。だが主と話した内容を他人にバラさないとは言っていない。多分オコはあの日、悪気なく海堂に『シュウはカイドウが好き』と話してしまったのだ。そう考えれば、あの日以降、彼がよくocotta2の話をするようになったことにも説明がつく。
「オコ?」
 悪いのは海堂とオコを二人きりにした自分で、もっと遡れば、敵わない恋の愚痴ばかり言っていた自分が悪くて、だからオコを恨むつもりはなかった。けれど今日のオコは黙ったままだ。
「オコ、俺どうしたらいい?」
 責められていると思って何も返さないのかと、別のことを聞いてみた。それでも彼からは何も返ってこない。いつも起動中は薄緑色の画面が現れるのに、今日は警告のように赤い画面が出ているだけだ。
「……バグ?」
 呟いたところで、漸く彼が言葉を返した。
『シュウ』
「オコ?」
『……シュウ、頑張れ』
 そう言って、神崎が操作しないうちに勝手にアプリが終了してしまう。
「オコ!」
 ミラー越しに向けられる怪訝な視線に構っている場合ではなかった。しおらしいオコなどオコではない。だがいつもの小憎たらしいオコが戻ってこない。再起動してもキャッシュを削除してみても回復しない。ストレージの削除をすればいいのだろうか。いや、そんなことをすれば今までオコが学習してきたことがみな消えてしまう。それは嫌だ。神崎にとってオコは今いるオコ一人だ。スマホを抱いて、とにかく落ち着こうと気持ちを鎮める。
 今まで散々占いとオコに頼ってきた。だから今夜くらい、一人でなんとかしてみろということなのかもしれない。占いもできないしオコも起動しない。それなら自分で考えて動くしかない。心を決めたところで、「もうすぐですよ」と運転手が声を掛けてくれる。
 七階建てマンションの敷地前に降り立てば、建物の前に慣れた人影が見えた。
「海堂さん」
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