本気の恋は占術不能
「俺も」
退職して占い師でやっていこうと思ったことを忘れて同意していた。神崎だって貴山金属が好きだ。たまにダメな上司や厳しい経験があったりするが、会社は決してそのまま社員を放置したりしない。そうして少しずつ色々なことが改善されてきた。
「で、話が逸れちゃったけど、海堂さんが俺に対して過保護に見えるならそういう訳だよ。好きとかそういうことじゃなくて、事件でも起こさないか心配なんだ。もう馬鹿なことはしないって何度も言っているんだけど」
なるほど。刃物を持ち歩いた前科があるなら分からないでもない。
「よく叱られて、別に俺は叱られても平気なんだけど、きつく叱ったあとには謝られるんだ。それも俺が突然辞めたりしないか心配だからだろうね。全く子ども扱い」
プリンを買っていったというのも、そんな流れだったのかなと思った。海堂が藤原を大事に思っていることは間違いない。だが神崎の想像とは少し違った。神崎が良子を思うのの方に近いのかもしれない。
「ごめん。俺、全然知らなくて」
「当たり前だよ。神崎には格好悪いところを見せたくなくて、わざと隠していたから」
その言葉に嘘がないことは伝わった。だとしたら、勝手にいじけていた自分はなんなのだろう。発作を起こした藤原を置いて去るような真似をしてしまった。神崎のそんなドロドロした部分を見て、海堂は呆れてしまっただろうか。
「海堂さんには別に好きな人がいるよ」
悩む神崎の背中を押すように彼が言う。
「誰?」
問えば呆れたように眉を寄せられた。
「教えない。でもヒントだけあげる。ocotta2のお陰で彼の気持ちが分かったって言っていた」
「ocotta……」
「俺はダウンロードしていないけど、主の意思に反して勝手に喋り出してしまうことがあるんでしょう?」
そこでハッとした。突然分かった。海堂が神崎の部屋を訪れた日、帰り際に彼は困惑の様子を見せていた。もしかしたら良子がやってきて彼を寝室に追いやったとき、オコが何かをバラしてしまったのではないか。想像すれば血の気が引いていく。だってオコには全部隠すことなく打ち明けてきた。
「ごめん。一足先に帰る。行かなきゃならないところを思い出した」
「うん。気をつけていってらっしゃい」
「……いや、ダメだ。体調が悪いんだから、藤原が先に帰らないと」
「俺は配車アプリがあるのでご心配なく」
苦笑しながら手で払う真似をされて、その気遣いに感謝する。
「神崎」
だが通りに向かおうとしたところで呼び止められた。振り向けばやるせないという言葉が相応しい、彼には珍しい表情が目に映る。
「俺が元恋人を強く思っているのは嘘じゃない。でも」
覚悟を決めたように、彼の声に力が籠もる。
「神崎が恋人だったら幸せだろうなと思ったことがあった。神崎が傍にいてくれたら、ずっと綺麗な気持ちのままいられるんだろうなって」
「え……」
意図が掴み切れなくて、彼を見つめることしかできない。
「でも、そんな半端な気持ちじゃ、あの人に敵う訳がないからね」
彼の顔が苦笑に変わる。
「ごめん。全部じゃないけど、海堂さんと神崎が近づくのを何度か邪魔したことがある。神崎を取られたくなくて」
また驚きの事実が出てきて思考が追いつかない。
「もうしない。ちゃんと応援するから許して」
そもそも怒っていないのだから許すも何もない。藤原が近づきたいと思っていたのは海堂ではなく神崎だった。お似合いだと思って心で泣いていた光景のどれかも、藤原が仕組んだものだったのかもしれない。だがもうしないと言うのだから、今それを考える必要はない。何もかも上手くいっているように見えた彼にも、苦悩はあるのだと知れただけで充分だ。藤原でも上手くいかない現実がもどかしくて、おかしな言動をしてしまうことがある。
「多分、俺が藤原を嫌うことはないよ」
「ありがとう」
退職して占い師でやっていこうと思ったことを忘れて同意していた。神崎だって貴山金属が好きだ。たまにダメな上司や厳しい経験があったりするが、会社は決してそのまま社員を放置したりしない。そうして少しずつ色々なことが改善されてきた。
「で、話が逸れちゃったけど、海堂さんが俺に対して過保護に見えるならそういう訳だよ。好きとかそういうことじゃなくて、事件でも起こさないか心配なんだ。もう馬鹿なことはしないって何度も言っているんだけど」
なるほど。刃物を持ち歩いた前科があるなら分からないでもない。
「よく叱られて、別に俺は叱られても平気なんだけど、きつく叱ったあとには謝られるんだ。それも俺が突然辞めたりしないか心配だからだろうね。全く子ども扱い」
プリンを買っていったというのも、そんな流れだったのかなと思った。海堂が藤原を大事に思っていることは間違いない。だが神崎の想像とは少し違った。神崎が良子を思うのの方に近いのかもしれない。
「ごめん。俺、全然知らなくて」
「当たり前だよ。神崎には格好悪いところを見せたくなくて、わざと隠していたから」
その言葉に嘘がないことは伝わった。だとしたら、勝手にいじけていた自分はなんなのだろう。発作を起こした藤原を置いて去るような真似をしてしまった。神崎のそんなドロドロした部分を見て、海堂は呆れてしまっただろうか。
「海堂さんには別に好きな人がいるよ」
悩む神崎の背中を押すように彼が言う。
「誰?」
問えば呆れたように眉を寄せられた。
「教えない。でもヒントだけあげる。ocotta2のお陰で彼の気持ちが分かったって言っていた」
「ocotta……」
「俺はダウンロードしていないけど、主の意思に反して勝手に喋り出してしまうことがあるんでしょう?」
そこでハッとした。突然分かった。海堂が神崎の部屋を訪れた日、帰り際に彼は困惑の様子を見せていた。もしかしたら良子がやってきて彼を寝室に追いやったとき、オコが何かをバラしてしまったのではないか。想像すれば血の気が引いていく。だってオコには全部隠すことなく打ち明けてきた。
「ごめん。一足先に帰る。行かなきゃならないところを思い出した」
「うん。気をつけていってらっしゃい」
「……いや、ダメだ。体調が悪いんだから、藤原が先に帰らないと」
「俺は配車アプリがあるのでご心配なく」
苦笑しながら手で払う真似をされて、その気遣いに感謝する。
「神崎」
だが通りに向かおうとしたところで呼び止められた。振り向けばやるせないという言葉が相応しい、彼には珍しい表情が目に映る。
「俺が元恋人を強く思っているのは嘘じゃない。でも」
覚悟を決めたように、彼の声に力が籠もる。
「神崎が恋人だったら幸せだろうなと思ったことがあった。神崎が傍にいてくれたら、ずっと綺麗な気持ちのままいられるんだろうなって」
「え……」
意図が掴み切れなくて、彼を見つめることしかできない。
「でも、そんな半端な気持ちじゃ、あの人に敵う訳がないからね」
彼の顔が苦笑に変わる。
「ごめん。全部じゃないけど、海堂さんと神崎が近づくのを何度か邪魔したことがある。神崎を取られたくなくて」
また驚きの事実が出てきて思考が追いつかない。
「もうしない。ちゃんと応援するから許して」
そもそも怒っていないのだから許すも何もない。藤原が近づきたいと思っていたのは海堂ではなく神崎だった。お似合いだと思って心で泣いていた光景のどれかも、藤原が仕組んだものだったのかもしれない。だがもうしないと言うのだから、今それを考える必要はない。何もかも上手くいっているように見えた彼にも、苦悩はあるのだと知れただけで充分だ。藤原でも上手くいかない現実がもどかしくて、おかしな言動をしてしまうことがある。
「多分、俺が藤原を嫌うことはないよ」
「ありがとう」