本気の恋は占術不能

 海堂に白状されて笑ってしまった。押してもランプが点くだけなのだが、元SEの彼は好奇心を擽られるのだろう。彼の素の部分を見たようで嬉しくなる。
「止めませんよ」
「いや、やめておく。子どもたちを押し退けて全部押したくなりそうだから」
「うん。それはやめた方がいいですね」
 そんなどうでもいいやりとりが楽しい。
「あ、見て。声に反応するロボットだって」
 海堂が指す方に目を遣れば、小さなスケートリンクのようになった場所で、身長五十センチほどのロボットが三体動いていた。
「声に反応して向かってきてくれるロボットらしいね」
 だからリンクの周りの子どもたちが懸命に名前を呼んでいるのか。説明文を読んでくれた海堂の言葉に納得して、なんとか自分の近くにロボットを呼ぼうと必死になる子どもたちを微笑ましく眺める。
「はいみんなー、もうバスの時間だから帰りますよ」
 どうやら団体ツアーだったらしく、教師か添乗員の女性の声でリンク周りの子どもたちが去っていった。向かい側でカップルの女性がロボットを呼んでいるが、残りの二体は仕事の中休みというように、リンクの中央でくるくると回っている。
「呼んでみないの?」
 三体にはメカ、ロボ、メタルという名前がついていて、今休んでいるのはロボとメタルだ。
「子ども相手の激務を終えたばかりだから、少し休ませてあげたいなって」
 思ったことをそのまま言えば彼に笑われてしまう。
「優しいね」
「……すみません。機械が好きな人にとっては意味不明な思考ですよね。機械に感情がないってことは分かっているんですけど」
 メルヘン思考に呆れられてしまったかと頬に血が上るが、彼からは意外な言葉が返ってくる。
「機械の感情っていう考え方好きだな。人工知能なんてものまであるんだし、そのうち感情を持つようになっても不思議じゃない。想像すると楽しいし、優しい気持ちを向けられれば機械だって嬉しい筈だよ」
「そういう非現実的な話は嫌いかと思っていました」
「そんなことないよ。それに、神崎さんの人にも機械にも優しいところが好きだなって思う。芯から優しいから、どんなときでも隠せないんだよね」
「そんなこと」
 過ぎる褒め言葉に困ってしまった。そんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。せいぜいよく働く部下で、藤原のピンチに手を貸してくれる都合のいい存在。だが神崎が想うよりずっと状況はよかったらしい。
「大型ロボットを見に行こうか。団体さんが帰ったから、今は空いている筈だから」
 そう言って、さりげなく彼が腕を引いた。はっと顔を上げるが、彼が腕を離すことはない。ロボットを見たままの神崎を動かそうと思っただけだ。それでも恋人のように腕を絡められれば錯覚しそうになる。海堂にも心変わりすることがあるのではないか。藤原への気持ちに見切りをつけて、神崎を好きになってくれることがあるのではないか。
「すみません。ぼんやりして」
 慌てて腕を離せば彼が目を細めて笑った。その顔が苦笑のようにも策士のようにも見えて、彼が何を思っているのか分からない。分からないが、ふと、彼は神崎の気持ちに気づいているのではないかと思えてくる。
「割と強情なんだね。不確かなものに惑わされないって感じ」
「……なんの話でしょう?」
「ううん。あ、ほら見て」
 建物と繋がった屋外展示スペースでは、この施設メインの大型ロボットがポーズを取っている。実写ものに出てくるロボットそのままで、これなら子どもを連れてきた父親だって楽しいだろうと思う。色はシルバーとブルーで、テレビに出てくるロボットより少しだけ大人向けのデザインなのもいい。
「海堂さんの車が変身したみたいです」
「確かに色はそうだね。ふふ。男の子の夢だよね。車検のときに困りそうだけど」
「そんな夢のないこと言わないでくださいよ」
 言い合ううちに直前のおかしな空気は消えていた。安堵する気持ちと、あのまま続けていたら何か掴むことができただろうかと思う気持ちで困惑している。ただ、神崎がこれまで頑なに守ってきたものを解放してもいいのではないかという、そんな感覚がある。彼を想って辛い思いをしてきたのは、想いが叶わないと知っていたから。もし受け入れてくれるというならこれほど嬉しいことはない。
「……っ」
 そこで背中に衝撃が走った。子どもの写真撮影に夢中になっていた男性が背中でぶつかってきたのだ。悪気はないし危険なことでもないと瞬時に理解できたが、理解と裏腹に脳の指示が間に合わない身体が前に倒れていく。
「わ……っ」
 転ぶ! と思った瞬間、目の前の彼に抱き留められた。転ばないように支えてくれただけの筈が、そのまま腕に力が籠もる。
「海堂さん……?」
 胸に顔を押しつけるような姿勢になって、彼が今どんな表情をしているか分からない。
「海堂さん、あの」
「すみません! 写真に夢中になっていて」
 ぶつかった男性が詫びてきたところで漸く解放された。
「いえ、大丈夫です」
 笑って応じれば、もう一度頭を下げた彼が子どもの手を引いて去っていく。
「……ありがとうございます。助けてもらって」
42/64ページ
スキ