本気の恋は占術不能

「はい。初代神崎理々花の叔母がアメリカにいるので、彼女のところに行っているんです」
「そっか。じゃあ、叔母さんと話して自信を取り戻して帰ってくるといいね」
 意外なほど彼は神崎の話を覚えていた。記憶力のいい彼には普通のことかもしれないが、ここは少しは神崎に興味を持ってくれていたと思いたい。親戚に特殊な職業の人間がいるからという理由でも充分嬉しい。
「でもこれいいな。良子じゃなくて俺が欲しいかも」
「じゃあ、それは神崎さん用にすればいいよ。妹さんの分はまた今度二人で買いに行こう?」
 さらりと言われて瞬いてしまう。
「えっと」
「いいお店だったし、近くにいいレストランもあったから、ランチがてら」
「……はい。じゃあ、ぜひ」
 応えればミラー越しの彼がにっこりと笑う。どうして神崎にそんなことを言ってくれるのだろう。初めは藤原の相談で、今日はocotta2に興味を持ったから。では次にお茶のお店に行くのはどんな理由だろう。単純に神崎と出掛けたいからと思っていいだろうか。それはおこがましいだろうかと、片思いの思考は忙しい。
「あ、でも合同研修会が終わってからになると思うけど」
「それはもちろん承知しています」
 仕事の話になってほっとする自分は、どうしようもない恋愛下手だ。だが例えここで帰れと言われても充分なくらい、車内で幸せを貰ってしまった。いや、やはり帰りたくはない。せっかくの機会だからちゃんと夕方まで過ごしたい。ごく普通の表情を保ちながら、頭の中では様々な思惑が巡っている。
「支店にいた頃は、研修会の準備がこんなに大変だなんて思わなかったな。なんというか、各支店の支店長が我が侭すぎて」
 ラボまで割と距離があって、向かう間に彼のそんな本音が聞ける。
「本当に。○○支店の支店長と隣の席は嫌だとか、本気でそんなことを言う人間がいてびっくりですよね」
「うん。あなたたち本当に支店長ですか? って聞きたくなったし。それを電話とメールで期日までになんとかするんだから、本社総務部は凄いよね」
「そんな部署の課長なんですから海堂さんは凄いですよ」
「ありがとう。神崎さんに褒められると凄く嬉しい」
 それならよかった。今日彼に貰った幸せの半分くらいは返せたかなと思って、また他愛のないことを話しながら車に揺られる。
 目的の場所に到着すれば、『OCアプリ(株)特別ラボ』という建物名の下に一般公開中と書かれたラベルが貼られていた。
「凄い……」
 想像以上の外観に、外から見渡しただけで声が上がる。近代的な黒のコンクリート。不思議な形の電球がついた鉄扉。高い柵の内側には五メートルほどのロボットが見える。
「この会社は、アプリでヒットを飛ばす前は、昔ながらの機械やロボットの会社だったんだ。今はアプリ制作に主軸を移して、このラボはレジャースポット的なものにしようと、今は期間限定公開と改装を繰り返している」
 昨日記事を発見したと言っていたのに、彼の頭の中には既にOCアプリ社の情報が入っていた。実際に見る前に下調べをしておくタイプなのだろうか。そんな彼が素敵だと思う。
「なんだかうちの会社と似ていますね」
「言われてみればそうだね。そうやって時代に合わせて柔軟に役割を変えていく企業が生き残るんだろうね」
 彼の言葉には重みがある。そしてそんなことをさらりと言ってしまえる男に、やはり心引かれてしまう。
「中に入ろう。男二人ってのはちょっと異質かもしれないけど」
「家族連れとカップルばかりですからね」
 海堂に提案されるまで知らなかったから、ひっそりとした施設なのだろうと勝手に思っていた。だが駐車場には沢山の車が並んでいるし、そこだけ屋外になっているロボットの周りでは家族連れが楽しんでいる。自分たちもカップルカウントされてみたいけれどと、そんなお花畑思考は隠して、二人並んで入口から入っていく。
「うわ、凄い」
 これは子どもが喜ぶ筈だと思った。中は絵本に出てくるような研究施設になっていて、沢山のボタンが並んだ機械や、コードに繋がった電球、古びたロボットが置かれている。紫色の液体が入ったフラスコからは煙が出ているし、自由に押していい無数のボタンの前で子どもたちが目を輝かせている。
「ちょっとまずいかも。子ども騙しだと分かっているのに、僕も押してみたい」
41/64ページ
スキ