本気の恋は占術不能
「流石です。多分、最後まで笑わずに耐えられる人はいない」
「うん。端川さんも藤原さんも笑っていたね」
そこでDVDが停止したので、ディスクを取り出しに立った。
「俺で最後ですよね? 片付けは引き受けます。部長に提出する大真面目な報告書でも作りましょうか?」
「お気持ちだけいただくよ。それより少しだけここに座って」
隣の椅子を指されて素直に従う。落ち着かないから一つ空けて座っていたのに、勧められるまま傍に座ってしまって、失敗したなと思う。
「色々ありがとう。作戦は第二弾、第三弾と考えているから楽しみにしていてね」
彼の穏やかな微笑みに、小さなことはどうでもよくなった。
「B部長の続編DVDもあるし」
「なんだか総務部がお笑い番組の現場みたいになりそう」
思わず笑ってしまえば彼が更に目を細める。顔に性格が出るというのは本当なのだろうと思った。仕事ができる男なのに、彼は部下の気持ちの奥に入り込むような優しさも備えている。だがそこでしみじみとした思考は中断させられた。何を思ったか、海堂が神崎の頬に手を伸ばす。そのまま包み込むように触れられて、石化魔法を掛けられたみたいに動けなくなる。
「神崎さんは心がとても綺麗。でもそれが足を引っ張ることもあるんだね」
髪を耳に掛けるように動いた手が、離れることなく頬に戻る。これはハラスメント研修の一つだろうか? だとしたらどうするのが正解だ? 逃げる? 引っ叩く? 外部機関に通報する? 色々考えて、自分が海堂にそんなことできる筈がないと思い直す。
「あの、海堂さん……」
「ん?」
神崎の疑問に応えるフリをしながら、彼の顔が近づいてくる。このままだと額がぶつかってしまう。いや、それより先に唇が触れてしまいそうだと思ったところで、コンコンと会議室のドアが叩かれた。びくりと震えた神崎の肩を落ち着かせるように撫でてから、漸く彼の手が離れてくれる。
「海堂さん、金属部門からお電話です」
土田だろうか。彼女がドアを開けなくて心底助かったと思う。
「分かった。すぐ行く」
いつも通りの態度で応じる彼の前で、神崎は鎮まらない鼓動を抱えて俯いているしかなかった。
「落ち着いたら戻っておいで」
そう言って、もう一度神崎の髪を撫でてから彼は執務室に戻っていった。その背中を見ることもできずに、ドアが閉まるまで絨毯敷きの床を見つめ続ける。
「……落ち着かなかったらどうするんだ」
一人で言っても意味がないと知りながら、そう声にせずにいられない。
セクハラ研修だ。最近は同性同士のセクハラも問題になっているから、神崎に自覚を促そうとしたのだ。心が綺麗なのが足を引っ張ると言っていた。綺麗かどうか分からないが、きっと人の心配をしているうちに神崎自身がトラブルに巻き込まれて、会社に迷惑を掛けることもあると言いたかったのだ。貴山金属に迷惑を掛けるな。言いたかったのはそれだ。ついでに藤原のことは僕が護るから、もう手を出さなくていいと言いたかったのかもしれない。きっとそうだ。
海堂の行動の理由が分かれば鼓動は治まった。何もあんなインパクトのある伝え方をしなくても、二人の恋路を邪魔したりしないし貴山金属にも迷惑はかけないのにと、最後には心で海堂の愚痴を言いながら会議室を出る。そうしていないと盛大な誤解をしてしまいそうな自分が怖い。
「神崎さん、どうかした? 顔が赤いけど体調でも悪い?」
「あ、えっと、B部長が面白くて」
「ああ、あのDVD。私も大笑いしまいましたよ」
デスクに戻れば鋭い端川に指摘されて、誤魔化すのに苦労した。
「うん。端川さんも藤原さんも笑っていたね」
そこでDVDが停止したので、ディスクを取り出しに立った。
「俺で最後ですよね? 片付けは引き受けます。部長に提出する大真面目な報告書でも作りましょうか?」
「お気持ちだけいただくよ。それより少しだけここに座って」
隣の椅子を指されて素直に従う。落ち着かないから一つ空けて座っていたのに、勧められるまま傍に座ってしまって、失敗したなと思う。
「色々ありがとう。作戦は第二弾、第三弾と考えているから楽しみにしていてね」
彼の穏やかな微笑みに、小さなことはどうでもよくなった。
「B部長の続編DVDもあるし」
「なんだか総務部がお笑い番組の現場みたいになりそう」
思わず笑ってしまえば彼が更に目を細める。顔に性格が出るというのは本当なのだろうと思った。仕事ができる男なのに、彼は部下の気持ちの奥に入り込むような優しさも備えている。だがそこでしみじみとした思考は中断させられた。何を思ったか、海堂が神崎の頬に手を伸ばす。そのまま包み込むように触れられて、石化魔法を掛けられたみたいに動けなくなる。
「神崎さんは心がとても綺麗。でもそれが足を引っ張ることもあるんだね」
髪を耳に掛けるように動いた手が、離れることなく頬に戻る。これはハラスメント研修の一つだろうか? だとしたらどうするのが正解だ? 逃げる? 引っ叩く? 外部機関に通報する? 色々考えて、自分が海堂にそんなことできる筈がないと思い直す。
「あの、海堂さん……」
「ん?」
神崎の疑問に応えるフリをしながら、彼の顔が近づいてくる。このままだと額がぶつかってしまう。いや、それより先に唇が触れてしまいそうだと思ったところで、コンコンと会議室のドアが叩かれた。びくりと震えた神崎の肩を落ち着かせるように撫でてから、漸く彼の手が離れてくれる。
「海堂さん、金属部門からお電話です」
土田だろうか。彼女がドアを開けなくて心底助かったと思う。
「分かった。すぐ行く」
いつも通りの態度で応じる彼の前で、神崎は鎮まらない鼓動を抱えて俯いているしかなかった。
「落ち着いたら戻っておいで」
そう言って、もう一度神崎の髪を撫でてから彼は執務室に戻っていった。その背中を見ることもできずに、ドアが閉まるまで絨毯敷きの床を見つめ続ける。
「……落ち着かなかったらどうするんだ」
一人で言っても意味がないと知りながら、そう声にせずにいられない。
セクハラ研修だ。最近は同性同士のセクハラも問題になっているから、神崎に自覚を促そうとしたのだ。心が綺麗なのが足を引っ張ると言っていた。綺麗かどうか分からないが、きっと人の心配をしているうちに神崎自身がトラブルに巻き込まれて、会社に迷惑を掛けることもあると言いたかったのだ。貴山金属に迷惑を掛けるな。言いたかったのはそれだ。ついでに藤原のことは僕が護るから、もう手を出さなくていいと言いたかったのかもしれない。きっとそうだ。
海堂の行動の理由が分かれば鼓動は治まった。何もあんなインパクトのある伝え方をしなくても、二人の恋路を邪魔したりしないし貴山金属にも迷惑はかけないのにと、最後には心で海堂の愚痴を言いながら会議室を出る。そうしていないと盛大な誤解をしてしまいそうな自分が怖い。
「神崎さん、どうかした? 顔が赤いけど体調でも悪い?」
「あ、えっと、B部長が面白くて」
「ああ、あのDVD。私も大笑いしまいましたよ」
デスクに戻れば鋭い端川に指摘されて、誤魔化すのに苦労した。