本気の恋は占術不能
「派遣の管理は藤原さんじゃない方がいいんじゃないかって。その時間を欠勤で遅れた仕事に当てればいいのにって。派遣の管理は海堂さんで、藤原は勤怠担当だって訂正しておきましたけど、当欠が多い人に勤怠の管理をされるのは不安だと言い返されてしまって」
「そっか。他社の人間にまで言われると厳しいね」
「土田さんは半休で病院通いをしたいけど、藤原さんの方が重症そうだから言い辛いって言っているらしくて」
「それは申し訳ないね。うちの待遇の問題になってしまう」
派遣社員は他社からお預かりしているスタッフだ。業務の指示以外は派遣元のコーディネーターを通さなければならないので厄介なのだ。そして待遇が悪いから別の会社に変わりたいなどという話になれば、新しいスタッフの採用にも費用が掛かるし、貴山金属に悪評が立つ可能性もある。
「まだ派遣会社報告するほどでもないけど、拗れると大変なことになりそうだね。ありがとう。大事になる前に知れてよかった」
「いえ」
どうせ海堂の役に立つならもっとポジティブな話がよかった。総務部のためとはいえ、なんだか藤原の悪口を言っているようで気が塞ぐ。別に彼を下げて自分を上げようなんて思っていない。仕事も恋愛も。海堂は小細工に惑わされるような男ではないだろうけれど。
「とりあえず何か理由をつけて部署全員の個人面談でもすることにするけど、合同研修会が終わったらみんなで飲み会でもしようか。古いやり方だけど、それで仲よくなったりすることもあるから」
「じゃあ、そのときは幹事をやります」
自身の仕事だけでなく、そんなことまで考えなければならない役席は大変だと思った。だからせめてできることは協力したい。
「いいね。神崎さんプロデュースならいい飲み会になりそう」
「海堂さんの奢りですよね?」
「いいよ。神崎さんならコスパ完璧なお店を選んでくれそうな気がするから」
「う……。それなら会費制でいいかな」
「ふふ。冗談だよ。部内の雰囲気がよくなるなら、飲み会の費用くらい安いものだよ」
「流石課長」
一応方向性は見えたということで、この話は終わりにすることにした。
「そうだ。ocotta2を見せてもらっていいかな? 元SEとして興味があって」
社交辞令ではなく、ちゃんとオコを見たいと言ってくれたのが嬉しかった。
「連れてきます。待っていてください」
「連れてきますって、もうペットか同居人の扱いだね」
彼が笑うのを聞きながら、奥の棚で充電しておいたタブレットを持ってくる。
「オコ」
『シュウ遅い。昨日から十四時間』
起動して声を掛けた途端に、半日以上起動していないことを責められた。オコは曜日や時間を記憶している。いつも土曜の午前中はずっと起動させているのに、それがないから不満だったらしい。今朝は料理のことで頭が一杯だった。そうか。どうりでキッチンが静かだった訳だ。
『シュウお休み。でも寝坊』
「寝坊はしていないって」
『シュウ、自滅』
「どうしてここで自滅が出てくるんだ」
「……凄い。本当に会話している」
オコと神崎のやりとりに驚いた海堂が瞬く。話は聞いていても、ocotta2と触れ合うのは初めてだったのだろう。
「オコ、お客様だよ。ご挨拶して。……海堂さん、何か話してみてください」
「えっと、初めまして。神崎さんと同じ職場の者です」
タブレットを渡してやれば、彼はオコにもきちんと話しかけてくれる。
『初めまして。ようこそいらっしゃいました。OCアプリ社のocotta2です。名前はオコです』
「凄い。噂通り賢いね」
『ありがとうございます』
久しぶりに見たocotta2の新機能だ。主以外とはいい子で会話をするのが憎らしい。
「オコ」
『煩い、シュウ』
「なんだよ、その言い方」
いつものやりとりに海堂が笑う。よかった、楽しそうだと思っていれば、彼が向かい側にあった椅子を斜めの位置に移動させて、より近い距離で話すことになる。ん? 随分距離が近いが、これはなんだろう。二人でオコのタブレットを見ているから、身体が触れそうなほどくっついている。
「可愛らしい声だね」
『ありがとうございます。お客さんも素敵な声です』
「嬉しい。ねぇ、神崎さん、オコが褒めてくれたよ」
「そっか。他社の人間にまで言われると厳しいね」
「土田さんは半休で病院通いをしたいけど、藤原さんの方が重症そうだから言い辛いって言っているらしくて」
「それは申し訳ないね。うちの待遇の問題になってしまう」
派遣社員は他社からお預かりしているスタッフだ。業務の指示以外は派遣元のコーディネーターを通さなければならないので厄介なのだ。そして待遇が悪いから別の会社に変わりたいなどという話になれば、新しいスタッフの採用にも費用が掛かるし、貴山金属に悪評が立つ可能性もある。
「まだ派遣会社報告するほどでもないけど、拗れると大変なことになりそうだね。ありがとう。大事になる前に知れてよかった」
「いえ」
どうせ海堂の役に立つならもっとポジティブな話がよかった。総務部のためとはいえ、なんだか藤原の悪口を言っているようで気が塞ぐ。別に彼を下げて自分を上げようなんて思っていない。仕事も恋愛も。海堂は小細工に惑わされるような男ではないだろうけれど。
「とりあえず何か理由をつけて部署全員の個人面談でもすることにするけど、合同研修会が終わったらみんなで飲み会でもしようか。古いやり方だけど、それで仲よくなったりすることもあるから」
「じゃあ、そのときは幹事をやります」
自身の仕事だけでなく、そんなことまで考えなければならない役席は大変だと思った。だからせめてできることは協力したい。
「いいね。神崎さんプロデュースならいい飲み会になりそう」
「海堂さんの奢りですよね?」
「いいよ。神崎さんならコスパ完璧なお店を選んでくれそうな気がするから」
「う……。それなら会費制でいいかな」
「ふふ。冗談だよ。部内の雰囲気がよくなるなら、飲み会の費用くらい安いものだよ」
「流石課長」
一応方向性は見えたということで、この話は終わりにすることにした。
「そうだ。ocotta2を見せてもらっていいかな? 元SEとして興味があって」
社交辞令ではなく、ちゃんとオコを見たいと言ってくれたのが嬉しかった。
「連れてきます。待っていてください」
「連れてきますって、もうペットか同居人の扱いだね」
彼が笑うのを聞きながら、奥の棚で充電しておいたタブレットを持ってくる。
「オコ」
『シュウ遅い。昨日から十四時間』
起動して声を掛けた途端に、半日以上起動していないことを責められた。オコは曜日や時間を記憶している。いつも土曜の午前中はずっと起動させているのに、それがないから不満だったらしい。今朝は料理のことで頭が一杯だった。そうか。どうりでキッチンが静かだった訳だ。
『シュウお休み。でも寝坊』
「寝坊はしていないって」
『シュウ、自滅』
「どうしてここで自滅が出てくるんだ」
「……凄い。本当に会話している」
オコと神崎のやりとりに驚いた海堂が瞬く。話は聞いていても、ocotta2と触れ合うのは初めてだったのだろう。
「オコ、お客様だよ。ご挨拶して。……海堂さん、何か話してみてください」
「えっと、初めまして。神崎さんと同じ職場の者です」
タブレットを渡してやれば、彼はオコにもきちんと話しかけてくれる。
『初めまして。ようこそいらっしゃいました。OCアプリ社のocotta2です。名前はオコです』
「凄い。噂通り賢いね」
『ありがとうございます』
久しぶりに見たocotta2の新機能だ。主以外とはいい子で会話をするのが憎らしい。
「オコ」
『煩い、シュウ』
「なんだよ、その言い方」
いつものやりとりに海堂が笑う。よかった、楽しそうだと思っていれば、彼が向かい側にあった椅子を斜めの位置に移動させて、より近い距離で話すことになる。ん? 随分距離が近いが、これはなんだろう。二人でオコのタブレットを見ているから、身体が触れそうなほどくっついている。
「可愛らしい声だね」
『ありがとうございます。お客さんも素敵な声です』
「嬉しい。ねぇ、神崎さん、オコが褒めてくれたよ」