本気の恋は占術不能
ミーハー。どうだろう。いや、そこではない。とにかく八歳年上の彼女の考察には敵いそうもなかった。
「土田さんも本当は身体のあちこちが痛くて、半休で病院通いをしたいんですよ。でも主任が自分よりずっと重症そうだと半休の申請もしづらいって言っていて」
「嘘、ごめん。それは俺も全然知らなくて」
「いえ、まだ病院に行くか迷っている部分もあるって言っていましたから。土田さんは神崎さんのファンだし、色々感謝もしているみたいだし。どうしても病院に行きたくなったら、神崎さんに相談すると思いますよ」
嬉しい台詞だが、そこに喜ぶ訳にはいかなかった。職場経験豊富で小さなことに動じない土田まで藤原に不満を抱えていたとは。自分はそれなりに上手くやっているつもりだったが、どうやらそれは盛大な誤解だったらしい。今いる派遣の三人は不満なく働いてくれていると思っていた。
「別にみんな藤原さんが嫌いな訳じゃないんです」
考え込んでしまう神崎を掬い上げるように、端川が少し声のトーンを明るくする。
「仕事ができるのも知っているし、見た目も普通に格好いいと思うし。でも主任としてはどうなのかなって最近は思ってしまいますね。私は特に」
「……そっか」
流石に、海堂の想い人が部下に嫌われて嬉しいと思うことはなかった。藤原は大事な同期で仲のいい友人だ。誤解されているのなら、少しでもそれを解いてやりたい。
「藤原さんがいなくて仕事の負担を増やしていたとしたらごめん。多分、リーダーの俺が上手く間に入れていないからだと思う」
「神崎さんは一番の被害者ですよ」
フォローしようとして上手くいかなかった。被害者という言葉が更に藤原の立場を悪くする。
「知っていると思うけど」
顔だけ振り向くような姿勢で話していたが、きちんと椅子ごと回して彼女と向き合った。
「正確には派遣さんの管理や評価は海堂さんの仕事だよ。藤原さんは勤怠管理だけ。因みに俺はただの話し相手」
最後で笑ってくれるかと思ったのに、彼女の諦めたような表情は変わらない。
「お休みが多いんですから、神崎さんに仕事を渡せばいいのに。その方がスムーズにいくと思うんですよね。気持ち的にも、当欠の多い人間に自分たちの勤怠管理なんてしてほしくないでしょう? まして派遣さんは時給ですよ。藤原さんが急なお休みで有休の処理を忘れるようなことがあれば、直に給料に影響する」
派遣の勤怠はダブルチェックがあるし、給料計算の前に派遣元でも確認する。万一藤原がミスをしたとしても、給料を間違えて支給するなんて可能性はゼロに等しい。だが端川が言いたいのはそういう正論ではないのだろう。急な半休を取って、その半休を有休にしてほしい。だが勤怠の担当社員が当欠していれば、きちんと有休処理されたか不安になる。神崎は時給で働いたことはないが、派遣スタッフと親しくしているから、彼女たちのそんな気持ちも少しは分かるつもりだ。
「身体が弱いなら、藤原さんは自分の業務をきちんと熟すことに集中すればいいんですよ。別に一つくらい業務を手放したって、主任という肩書が消える訳でもないでしょう? その肩書が相応しいかは謎ですけど。……さて」
手厳しく言って、神崎の拙いフォローは聞く気がないというように彼女は立ち上がってしまう。
「六時です。体裁は守りましたから帰りましょう。藤原さんのための残業、お疲れさまでした」
彼を嫌いではないと言いながら、端川の言葉には刺がある。
「えっと、ご飯でも食べに行く? まだ話し足りないことがあるなら聞くけど。もちろん奢るし」
なんとなく、彼女をこのまま帰してはいけないような気がして言った。以前、子どもも旦那ももう各々夕食の準備ができると言っていたから、不満を吐き出す日があってもいいと思ったのだ。だが神崎のらしくない物言いは盛大に笑われてしまうだけだ。
「サービス残業をして部下にご飯まで奢ったら、神崎さんがボロボロになるだけじゃないですか」
気遣いだと分かるが容赦ない。
「心配しないでください。私もいい歳ですから、藤原さんに突っかかっていくようなことはしません」
「土田さんも本当は身体のあちこちが痛くて、半休で病院通いをしたいんですよ。でも主任が自分よりずっと重症そうだと半休の申請もしづらいって言っていて」
「嘘、ごめん。それは俺も全然知らなくて」
「いえ、まだ病院に行くか迷っている部分もあるって言っていましたから。土田さんは神崎さんのファンだし、色々感謝もしているみたいだし。どうしても病院に行きたくなったら、神崎さんに相談すると思いますよ」
嬉しい台詞だが、そこに喜ぶ訳にはいかなかった。職場経験豊富で小さなことに動じない土田まで藤原に不満を抱えていたとは。自分はそれなりに上手くやっているつもりだったが、どうやらそれは盛大な誤解だったらしい。今いる派遣の三人は不満なく働いてくれていると思っていた。
「別にみんな藤原さんが嫌いな訳じゃないんです」
考え込んでしまう神崎を掬い上げるように、端川が少し声のトーンを明るくする。
「仕事ができるのも知っているし、見た目も普通に格好いいと思うし。でも主任としてはどうなのかなって最近は思ってしまいますね。私は特に」
「……そっか」
流石に、海堂の想い人が部下に嫌われて嬉しいと思うことはなかった。藤原は大事な同期で仲のいい友人だ。誤解されているのなら、少しでもそれを解いてやりたい。
「藤原さんがいなくて仕事の負担を増やしていたとしたらごめん。多分、リーダーの俺が上手く間に入れていないからだと思う」
「神崎さんは一番の被害者ですよ」
フォローしようとして上手くいかなかった。被害者という言葉が更に藤原の立場を悪くする。
「知っていると思うけど」
顔だけ振り向くような姿勢で話していたが、きちんと椅子ごと回して彼女と向き合った。
「正確には派遣さんの管理や評価は海堂さんの仕事だよ。藤原さんは勤怠管理だけ。因みに俺はただの話し相手」
最後で笑ってくれるかと思ったのに、彼女の諦めたような表情は変わらない。
「お休みが多いんですから、神崎さんに仕事を渡せばいいのに。その方がスムーズにいくと思うんですよね。気持ち的にも、当欠の多い人間に自分たちの勤怠管理なんてしてほしくないでしょう? まして派遣さんは時給ですよ。藤原さんが急なお休みで有休の処理を忘れるようなことがあれば、直に給料に影響する」
派遣の勤怠はダブルチェックがあるし、給料計算の前に派遣元でも確認する。万一藤原がミスをしたとしても、給料を間違えて支給するなんて可能性はゼロに等しい。だが端川が言いたいのはそういう正論ではないのだろう。急な半休を取って、その半休を有休にしてほしい。だが勤怠の担当社員が当欠していれば、きちんと有休処理されたか不安になる。神崎は時給で働いたことはないが、派遣スタッフと親しくしているから、彼女たちのそんな気持ちも少しは分かるつもりだ。
「身体が弱いなら、藤原さんは自分の業務をきちんと熟すことに集中すればいいんですよ。別に一つくらい業務を手放したって、主任という肩書が消える訳でもないでしょう? その肩書が相応しいかは謎ですけど。……さて」
手厳しく言って、神崎の拙いフォローは聞く気がないというように彼女は立ち上がってしまう。
「六時です。体裁は守りましたから帰りましょう。藤原さんのための残業、お疲れさまでした」
彼を嫌いではないと言いながら、端川の言葉には刺がある。
「えっと、ご飯でも食べに行く? まだ話し足りないことがあるなら聞くけど。もちろん奢るし」
なんとなく、彼女をこのまま帰してはいけないような気がして言った。以前、子どもも旦那ももう各々夕食の準備ができると言っていたから、不満を吐き出す日があってもいいと思ったのだ。だが神崎のらしくない物言いは盛大に笑われてしまうだけだ。
「サービス残業をして部下にご飯まで奢ったら、神崎さんがボロボロになるだけじゃないですか」
気遣いだと分かるが容赦ない。
「心配しないでください。私もいい歳ですから、藤原さんに突っかかっていくようなことはしません」