本気の恋は占術不能
「いいですね、お揃い……」
そこで失態に気づいた。確かにお揃いだが、彼が縁結びを望んでいるのは藤原だ。神崎が御守りで力を得た分、彼も力を得てしまえばプラスマイナスゼロ。いや、よく分からないがマイナスな気がすると、気づいたところでもう遅い。
「神崎さんには好きな人がいるの?」
結局買ってもらった御守りを大事に鞄にしまって、帰る道すがら彼に聞かれた。縁結び守を選んだことで、恋人はいないと分かったのだろう。気兼ねなく聞けるのは、神崎に全く興味がないから。そう思えば少し凹む。
「いますよ。とても成就が難しい恋の相手が」
開き直って答えてみるが、彼が自分のことだと気づく様子はない。
「じゃあ、一緒だね」
ええ。分かっています。藤原さんですよね? 喉まで出掛かった言葉を辛うじて呑み込む。御守りなどなくてもあなたの恋は成就します。半年以内に。だって神崎の占いは当たるから。そう言ってあげられるほど平気ではないので黙っていることにする。
「……海堂さんならすぐに両想いになれそうですけど」
そこは気になるので聞いてみる。
「それがなかなか難しくて」
こちらに向かって綺麗に微笑まれて、思わず目を逸らしてしまった。やはり藤原はなかなか落ちないのか。彼なら海堂に想いを寄せられても舞い上がったりしないのか。それは羨ましくない。神崎にとっては海堂が一番だから、想いを寄せられたら思い切り舞い上がりたい。
「……それはそうと、神崎さんに一つお願いがあるんだ」
敷地を抜けて歩道に出たところで、彼が話を変えた。
「さっき言えばよかったんだけど、快晴のことでね」
その瞬間、今日感じてきたふわふわとした気持ちが握り潰された気持ちになる。プライベートでは快晴と呼んでいるのか。そこで既に致命傷を負って、でも駅まではまだ遠いから聞き続けるしかない。
「彼は仕事の指示は聞いてくれるけど、僕に頼らないようにしているフシがあるんだ。誤解されやすいところがあるから、神崎さんが傍にいてやってくれるとありがたくて」
ああ、今日誘ってくれたのはそれが言いたかったのかと、清々しいほど納得した。直接護ろうとすれば拒否されるから、間に神崎を挟みたい。自分はクッションだったのだと、自分で思って自分で哀しい。だがここで哀しいなんて言えばもっと辛くなる。
「分かりました。俺にとっても藤原さんは大切な同期ですから、できるだけ手助けします」
完全に強がりを言った。
「ありがとう。その分僕が神崎さんを護るから」
そんな上辺の言葉は嬉しくない。笑う彼の顔に藤原への想いが透けて見えるようで、だから今はもう彼の顔を見たくない。
「色々相談したいから、またこんな風に誘ってもいいかな?」
「もちろん。どうぞ好きに使ってください」
最早自分で何を言っているか分からなかった。
「じゃあ、また月曜に」
「はい。今日はありがとうございました」
なんとか物分かりのいい部下の顔を保って別れて、ホームに下りた途端にどっと疲れが押し寄せる。
疲れた身体に蝉の声が聞こえた。こんなコンクリートの建物の何処で鳴いているのか。探せないが、その声に心の虚無を思い知らされた気分だ。誘われて、もしかしたらという気持ちがゼロだった訳じゃない。だが見事に自惚れだった。
「……そう上手くいく筈がないか」
呟いて、七日鳴き続けた蝉と一緒に自分も消えてしまうんじゃないかと、割と本気でそう思った。
そこで失態に気づいた。確かにお揃いだが、彼が縁結びを望んでいるのは藤原だ。神崎が御守りで力を得た分、彼も力を得てしまえばプラスマイナスゼロ。いや、よく分からないがマイナスな気がすると、気づいたところでもう遅い。
「神崎さんには好きな人がいるの?」
結局買ってもらった御守りを大事に鞄にしまって、帰る道すがら彼に聞かれた。縁結び守を選んだことで、恋人はいないと分かったのだろう。気兼ねなく聞けるのは、神崎に全く興味がないから。そう思えば少し凹む。
「いますよ。とても成就が難しい恋の相手が」
開き直って答えてみるが、彼が自分のことだと気づく様子はない。
「じゃあ、一緒だね」
ええ。分かっています。藤原さんですよね? 喉まで出掛かった言葉を辛うじて呑み込む。御守りなどなくてもあなたの恋は成就します。半年以内に。だって神崎の占いは当たるから。そう言ってあげられるほど平気ではないので黙っていることにする。
「……海堂さんならすぐに両想いになれそうですけど」
そこは気になるので聞いてみる。
「それがなかなか難しくて」
こちらに向かって綺麗に微笑まれて、思わず目を逸らしてしまった。やはり藤原はなかなか落ちないのか。彼なら海堂に想いを寄せられても舞い上がったりしないのか。それは羨ましくない。神崎にとっては海堂が一番だから、想いを寄せられたら思い切り舞い上がりたい。
「……それはそうと、神崎さんに一つお願いがあるんだ」
敷地を抜けて歩道に出たところで、彼が話を変えた。
「さっき言えばよかったんだけど、快晴のことでね」
その瞬間、今日感じてきたふわふわとした気持ちが握り潰された気持ちになる。プライベートでは快晴と呼んでいるのか。そこで既に致命傷を負って、でも駅まではまだ遠いから聞き続けるしかない。
「彼は仕事の指示は聞いてくれるけど、僕に頼らないようにしているフシがあるんだ。誤解されやすいところがあるから、神崎さんが傍にいてやってくれるとありがたくて」
ああ、今日誘ってくれたのはそれが言いたかったのかと、清々しいほど納得した。直接護ろうとすれば拒否されるから、間に神崎を挟みたい。自分はクッションだったのだと、自分で思って自分で哀しい。だがここで哀しいなんて言えばもっと辛くなる。
「分かりました。俺にとっても藤原さんは大切な同期ですから、できるだけ手助けします」
完全に強がりを言った。
「ありがとう。その分僕が神崎さんを護るから」
そんな上辺の言葉は嬉しくない。笑う彼の顔に藤原への想いが透けて見えるようで、だから今はもう彼の顔を見たくない。
「色々相談したいから、またこんな風に誘ってもいいかな?」
「もちろん。どうぞ好きに使ってください」
最早自分で何を言っているか分からなかった。
「じゃあ、また月曜に」
「はい。今日はありがとうございました」
なんとか物分かりのいい部下の顔を保って別れて、ホームに下りた途端にどっと疲れが押し寄せる。
疲れた身体に蝉の声が聞こえた。こんなコンクリートの建物の何処で鳴いているのか。探せないが、その声に心の虚無を思い知らされた気分だ。誘われて、もしかしたらという気持ちがゼロだった訳じゃない。だが見事に自惚れだった。
「……そう上手くいく筈がないか」
呟いて、七日鳴き続けた蝉と一緒に自分も消えてしまうんじゃないかと、割と本気でそう思った。