本気の恋は占術不能
海堂は何度か来たことがあるらしく、彼の説明に声を上げた。振り向いて改めて目を遣れば、神崎のイメージよりずっとコンパクトな鳥居が六基。朱色は想像通りだが、まさかそれが金属だとは思わない。なんとなく、鳥居は木で作らなければならないという勝手なイメージがあった。
「いいところですね」
「でしょう?」
白いコンクリートの道の周りは綺麗に整備された芝生で、そこを突っ切れば石造りの美術館まであるという。敷地は広くて散歩にも快適な場所。だが街中の公園とは空気が違う。暑い盛りだというのに、敷地に入った途端に一、二度気温が下がるように感じるのは、ここが神聖な場所だからだろうか。
「SE時代に、同僚が神社の設計図をパソコンで見るのに嵌ったんだ。激務の現実逃避だったけどね。見せてもらううちに僕も好きになった。今はパソコンで設計できるけど、昔はどうしていたんだろうって、色々想像しながら3Dを見るのが楽しくて」
彼は意外なほど沢山自分のことを話してくれた。業務に必要なシステムしか使わない神崎も、彼の説明の上手さに、頭の中にパソコンの設計図を思い描くことができる。
「ああ、ごめん。つまらないよね、こんな話」
「そんなことないです」
食い気味で返してしまって、彼がきょとんとした。その顔がすぐに優しく微笑む。
「ありがとう。やっぱり神崎さんには話したくなってしまう」
もったいない言葉に胸にきゅっと締めつけられた。下りた前髪と高い鼻梁の横顔が、太陽に照らされた黄緑色の芝生に映えて、ああ、夏のなのだと実感させてくれる。
「……海堂さんの話なら聞きたいです」
「じゃあ、呆れるほど話すよ」
「ぜひ」
促せば本殿の周りを一周する間、彼はSE時代の話をしてくれた。自分のことだけ話しているフリをして、上手く神崎の話も誘導してくれる。そんな彼との会話はどこまでも心地いい。やはり好きだ。一緒にいられて幸せだ。どうにか自分を好きになってくれないだろうかと、普段抑えている気持ちが溢れそうになる。もちろん気持ちをバラす訳にはいかない。告白なんてとんでもない。だって彼は藤原が好きなのだ。
「御守り売場を見てもいいかな?」
「はい。俺も見たいです」
建物を見て回ったあと、作法通りお参りをして授与品の売り場に向かった。
「お友達に?」
ピンクの桜の形の御守りを手にすれば海堂が聞いてくる。
「妹にです。六歳下の妹がいて」
身体健康守と書いてあるからいいと思ったのだ。彼女は繊細だから、芸道上達や商売繁盛の御守りを渡せばプレッシャーになってしまう。
「身体健康守か。僕も買おうかな」
「……そう、ですね。喜びますよ。形も可愛らしいし」
微妙な間ができてしまったのは、藤原に贈るものだと分かったから。
「喜ぶって、誰の話?」
だがあっさり肯定するかと思ったのに、彼は訝しげな顔を見せた。
「最近目の調子が悪いから自分用だよ」
どうやらバレバレでも藤原への気持ちは隠し通すつもりらしい。それなら無理に白状させることもない。
「妹さんのは神崎さんが買うとして、よければ神崎さんのを僕に買わせてくれないかな? どれか欲しいものはある?」
意外なことに、神崎にも神様の気紛れが降りてきた。
「そんな、悪いです」
「ううん。いつもお世話になっているし、ここに来た記念に。神崎さんは色白だから、この紺色のやつなんて似合いそう」
「色白って……」
御守りに似合う似合わないがあるのかと、そんな突っ込みはどうでもよかった。海堂は藤原しか見ていないと思っていたのに、神崎の肌が白いことを知っていた。そんな些細なことが嬉しい。神崎の色白は生まれつきだ。白いだけで身体はごく健康だから、普段誰からも気にされることはないのだけれど。
「それなら、この縁結び守がいいです」
嬉しくて少し強気になってしまった。海堂が選んだ御守りと同じ値段で、結んだおみくじの形の縁結び守が並んでいる。別に匂わせではなく、密かに彼を想う身として持っていたいと思うのだ。
「縁結びか。いいね。じゃあ僕もお揃いで買う」
「いいところですね」
「でしょう?」
白いコンクリートの道の周りは綺麗に整備された芝生で、そこを突っ切れば石造りの美術館まであるという。敷地は広くて散歩にも快適な場所。だが街中の公園とは空気が違う。暑い盛りだというのに、敷地に入った途端に一、二度気温が下がるように感じるのは、ここが神聖な場所だからだろうか。
「SE時代に、同僚が神社の設計図をパソコンで見るのに嵌ったんだ。激務の現実逃避だったけどね。見せてもらううちに僕も好きになった。今はパソコンで設計できるけど、昔はどうしていたんだろうって、色々想像しながら3Dを見るのが楽しくて」
彼は意外なほど沢山自分のことを話してくれた。業務に必要なシステムしか使わない神崎も、彼の説明の上手さに、頭の中にパソコンの設計図を思い描くことができる。
「ああ、ごめん。つまらないよね、こんな話」
「そんなことないです」
食い気味で返してしまって、彼がきょとんとした。その顔がすぐに優しく微笑む。
「ありがとう。やっぱり神崎さんには話したくなってしまう」
もったいない言葉に胸にきゅっと締めつけられた。下りた前髪と高い鼻梁の横顔が、太陽に照らされた黄緑色の芝生に映えて、ああ、夏のなのだと実感させてくれる。
「……海堂さんの話なら聞きたいです」
「じゃあ、呆れるほど話すよ」
「ぜひ」
促せば本殿の周りを一周する間、彼はSE時代の話をしてくれた。自分のことだけ話しているフリをして、上手く神崎の話も誘導してくれる。そんな彼との会話はどこまでも心地いい。やはり好きだ。一緒にいられて幸せだ。どうにか自分を好きになってくれないだろうかと、普段抑えている気持ちが溢れそうになる。もちろん気持ちをバラす訳にはいかない。告白なんてとんでもない。だって彼は藤原が好きなのだ。
「御守り売場を見てもいいかな?」
「はい。俺も見たいです」
建物を見て回ったあと、作法通りお参りをして授与品の売り場に向かった。
「お友達に?」
ピンクの桜の形の御守りを手にすれば海堂が聞いてくる。
「妹にです。六歳下の妹がいて」
身体健康守と書いてあるからいいと思ったのだ。彼女は繊細だから、芸道上達や商売繁盛の御守りを渡せばプレッシャーになってしまう。
「身体健康守か。僕も買おうかな」
「……そう、ですね。喜びますよ。形も可愛らしいし」
微妙な間ができてしまったのは、藤原に贈るものだと分かったから。
「喜ぶって、誰の話?」
だがあっさり肯定するかと思ったのに、彼は訝しげな顔を見せた。
「最近目の調子が悪いから自分用だよ」
どうやらバレバレでも藤原への気持ちは隠し通すつもりらしい。それなら無理に白状させることもない。
「妹さんのは神崎さんが買うとして、よければ神崎さんのを僕に買わせてくれないかな? どれか欲しいものはある?」
意外なことに、神崎にも神様の気紛れが降りてきた。
「そんな、悪いです」
「ううん。いつもお世話になっているし、ここに来た記念に。神崎さんは色白だから、この紺色のやつなんて似合いそう」
「色白って……」
御守りに似合う似合わないがあるのかと、そんな突っ込みはどうでもよかった。海堂は藤原しか見ていないと思っていたのに、神崎の肌が白いことを知っていた。そんな些細なことが嬉しい。神崎の色白は生まれつきだ。白いだけで身体はごく健康だから、普段誰からも気にされることはないのだけれど。
「それなら、この縁結び守がいいです」
嬉しくて少し強気になってしまった。海堂が選んだ御守りと同じ値段で、結んだおみくじの形の縁結び守が並んでいる。別に匂わせではなく、密かに彼を想う身として持っていたいと思うのだ。
「縁結びか。いいね。じゃあ僕もお揃いで買う」