冷徹秘書のムーンストーン

 見た目のいい合田にはインタビューの仕事がよく入った。雑誌一ページの記事でも顔写真を載せると評判がいいらしい。シルバーと天然石の作品も、写真を載せれば『宝石王子の新作』という評価がついてくる。彼が戻りたい場所はそこではないと分かっていながら、やりたいと言えば引き受けざるを得なかった。ただ彼にはタブーが多いから、事前の打ち合わせで相手側に大袈裟に言って了解を取っておく。
 そんな準備を経てやってきたWeb雑誌のインタビューだったが、その日も彼は体調がよくなかった。なんとか遅刻はせずに済んだが、インタビュアーの質問にも、途中から言葉を返すことができなくなる。
「新しい作品を欲しいという方も多いのですが、販売されないのには何か理由があるんですか?」
 インタビュアーは決して嫌な感じではなかった。Tシャツの上にラフなジャケット。首から革紐のアクセサリーを下げた若い男性だ。服装は堅苦しくならないようにとの気遣いだろう。
「……別に」
「活動休止期間明けですので、作品の販売再開は慎重にと社長から言われているんです。販売を再開するときにはきちんと報告させていただきますので」
 合田が黙ってしまう以上、秘書の堀内がフォローするしかなかった。
「では合田さんのプライベートについて少し聞きたいのですが。嵌っている本とか、飼っているペットとか」
「俺に生きもの世話ができる訳ないだろ?」
「合田さん!」
 窘めようとして、そこで彼の異変に気づいた。強気な発言に反して、身体が小刻みに震えて顔も青白くなっている。
「申し訳ありません。合田の体調がよくないようですので、今日のところは一度帰らせていただきます」
 駐車場で山瀬が待っている。すぐに病院に向かってもらおう。大丈夫。こんなことは何度もあった。彼の身体を包むようにして背を撫でてやれば、震えも治まっていく。
「またご連絡します」
 立ち上がって話を切り上げてしまった。余程体調が悪いのか、されるがままの彼の肩に腕を回して背を向けたところで、部屋の奥で撮影の準備をしていたカメラマンの男がぽつりと零す。
「我が侭副社長のご機嫌取りも大変だな。恩を売って社長に取り入ろうとでもしているの?」
 合田ではなく堀内に向けられる悪意は珍しいが、怒ることでもなかった。無視して去ってしまおうとして、だがその前に合田が堀内の腕を振り解き、驚くほどのスピードで彼に向かっていく。
「合田さん!」
 ダメだ。人を殴れば大問題だ。思わずそれを考えてしまったが、彼の目的はそうではない。
「……っ」
 止める間もなく、傍にあったテーブルに細い金属がぶつかる音が響いた。その後すぐに小さな石が割れて弾け飛ぶ音。合田が作品のネックレスを叩きつけて壊したのだと、理解するのに時間が掛かる。
「何をしているんですか!? 怪我をするでしょう?」
 我に返って彼を羽交い絞めにして止めた。
「離せ」
「この人はあなたの悪口を言った訳ではない。それくらい分かったでしょう?」
「だからだよ」
 息を上げる合田の前で、件のカメラマンが恐怖で固まっている。
「俺の秘書だ。悪く言うな」
 合田の手に巻きつくように残ったチェーンの先で、無残に割れた石の半分が所在なさげに揺れている。
「俺の過去の作品も知らないくせに、俺の名前を使って閲覧数を伸ばそうとしているのはそっちだろ? お前らにこいつをどうこう言う資格はない」
 なんだ、それ。彼を押さえつけながら、心でそう毒づかずにいられなかった。元々彼がまともに取材を受けていればこんなことにはならなかった。それでも、彼が自分を庇おうとしてくれたと分かれば、胸に言葉にするのが難しい気持ちが湧いてしまう。
「今日のことはどうかこれでご内密に」
 雑念を振り切って、インタビュアーの彼に封筒を差し出した。中に十万入っている。合田が何かしでかしたときのために、いつも持ち歩いている御守りのようなものだ。
「えっと……」
「またこちらからご連絡します」
 相手が封筒を手にしたのを確認して、合田を引き摺るようにして部屋を出た。一度暴れて気が済んだのか、大人しくなった彼の隣を歩きながら、弁護士の佐藤に電話を入れる。
「少し派手にやってしまいました。一応十万渡してありますが、後処理をお願いできますか?」
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