冷徹秘書のムーンストーン

「あの夜、瑛がいたときだけはプラチナを加工できたんだ」
 ネックレスをしたまま抱きたいと言うから、素直につけ直した堀内に彼が覆い被さってくる。
「今も直してくれたじゃないですか。大丈夫。これからは回復していくだけですよ」
「ありがとう」
 言葉と一緒にキスが降りて、その心地よさに目を閉じる。普段デザインを起こして、ヤットコやバーナーを使いこなす手が、今は堀内のシャツのボタンを解くことに夢中になっている。そのことに不思議な優越感を覚えてしまう。
「巧さんも」
 抑えきれないというように肌に唇を寄せてくるから、こちらも彼の衣服を取り去ることにした。キスをやめない彼の服を脱がせるのは難しくて、もたもたしているうちに堀内の方が裸にされてしまう。
「ん……」
 首筋に唇を寄せながら身体の中心に触れられて、思わず高い声が漏れた。擦り上げられるようにされれば、身を捩ってそのもどかしい刺激に浸ってしまう。
「巧さん、待って」
「ダメ。漸く瑛が手に入ったんだから」
 やや強引に肌を弄られる感触が嫌いではなかった。強引で器用で美しい男。彼は宝石王子だ。ただの銀行員だった自分が、王子とこうしていることが不思議で、とても尊いことのように思える。
「なんだか不思議。いつも厳しい秘書が俺の手で感じてくれているなんて」
「いつもは小煩いですからね」
「感謝してるよ。傍にいたくて、馬鹿なことを繰り返していた時期もある」
 もっと早く言ってほしかった。だがこの遠回りも無駄ではなかった。彼の気持ちが以前よりずっと近くにある。
 結局彼が自分で裸になって、二人でただ素肌を寄せ合っていた。互いのもので擦り上げられる中心が、どちらのものとも知れない体液で滑らかに絡み合って快感を高めていく。抱き合ってキスをして身体を擦り合わせることに夢中になって、そのうち次の刺激が欲しくなる。
「最後までしてもいい?」
「もちろん」
 断る理由も恥じるつもりもなかった。愛おしそうにキスをくれた彼が、一度身体を離して、ヘッドボードの引き出しから必要なものを取り出す。誰と使うために用意していたかなんて無粋なことは聞かない。そのつもりで知らん顔をしていたが、満足げに笑った彼が先に白状してくれる。
「こうなる前に買ったものだよ。昔は男女問わずモテたし、流石に聖人君子じゃなかったし。おかしくなってからは女神としかしていない」
「……モテるのは今も変わらないでしょうけど」
 出会ってからは堀内だけだった。その事実が嬉しくて、逆に可愛げのない言い方になってしまう。
「俺は瑛がいればいい。弱って、もう誰かを抱くことなんてできないだろうと思ったのに、あの日はどうしても欲しくなったから」
「女神なんて綺麗なものじゃないですけど」
「いや。俺が扱うどんな石より綺麗だ」
 気障な台詞も彼が言うとサマになるから不思議だった。潤滑剤で後ろを解されて、その指使いに懐柔させられる。秘書の厳しさも小さな嫉妬も忘れて、ただ彼を受け入れる瞬間を心待ちにする。彼もよくしてあげたいと思うのに、巧みな指使いに翻弄されて、結局はされるがまま身体を開くことしかできない。
「もう平気?」
 問われて頷いた。入口に宛てがわれて期待に胸が鳴る。ゆっくりと侵入されて、その押し広げるような感覚に身悶えてしまう。
「瑛」
 全てを収めて、ただ肌を寄せて抱き合う時間が堪らなく幸せだった。彼の鼓動と体温が心地いい。こうして堀内を求めてくれる。もう一人の世界に籠もらせたりしない。そんな強い思いで彼の肌を抱きしめる。
「限界。動いていい?」
 キスで宥めて彼が身体を起こした。子どものように夢中になっていたのは堀内だったらしい。気恥ずかしいから、今からは彼に夢中になってほしいと思う。
「巧さんの好きにして」
「殺し文句」
 ふっと笑った彼が堀内の腰を掴んで動き始める。ズンと入って引き出されて、また入ってくるものに翻弄される。揺さぶられて高い声が上がる。彼の肌に届かなくて途方に暮れる腕に気づいて、彼が肌を寄せて抱きしめてくれる。
「いい?」
 抱きしめ返したところで問われて、震えるほど感じた。頷けば腰を速められて、ただその動きに身を任せる。
「瑛……っ」
 先に合田が弾けて、放たれた熱いものを感じた瞬間堀内も達してしまった。幸せで、このまま時間が止まればいいと思うのに、彼の体温を感じていれば身体がすぐにまた熱を上げていく。
「なんだか止まりそうにない。もう一度抱いてもいい?」
 隣に横になった途端に言われて、彼も同じ気持ちでいてくれたことに嬉しくなった。
「何度でも」
 こちらから抱きついてやれば額と唇にまたキスが降りてくる。
「傍にいて、瑛。俺は瑛がいればこの先もやっていける」
「いらないと言われても傍にいます。俺は優秀な副社長秘書ですから」
 そんな軽口もすぐに忘れてしまうほど、また夢中になって、擦れ違いの時間を取り戻すような夜を過ごした。
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