冷徹秘書のムーンストーン
そう言って目を細めた顔が、少し合田に似ていると思う。
「運転手はいるから副社長秘書として雇おう。まず巧と顔合わせをして、うちの入社手続きが済み次第働いてもらう。会社に出てくるよりも、巧の部屋に行ったり病院に付き添ったりの雑用がメインになると思うが」
「構いません。どうぞよろしくお願いします」
そんな事情で再就職することになったのだ。
前途多難もいいところだ。顔合わせで拒絶はされなかったが、合田はやはりあの晩のことを覚えていない。瑛という名前を出しても反応しないのだからどうしようもなかった。だがそれでよかったと思う。一夜の過ちが気まずくて秘書を拒否されれば、傍にいることができなかった。秘書として傍にいられればいい。以前の彼に戻れるように手助けしたい。それが難しくても、彼が心穏やかに過ごせる環境を作ってやりたい。そう思ってやってきた。だが実際、自分はどれだけ助けになっていたのだろう。敬助の厚意をいいことに、彼の傍にいたいという欲を叶えていただけなのではないか。
なんとか自宅マンションに帰り着いたが、体調が悪かった。鞄を投げ出してベッドに横になる。このまま眠ってしまおう。どうせ夜には目が覚める。そう思って目を閉じるが、すぐに、合田の薬の時間に電話をするから一度起きなければならないとアラームをセットする。
面倒だと思ったことのない作業が、今日は酷く憂鬱だった。こうして自分が世話を焼くことが本当に彼のためになっているのだろうか。堀内が世話を焼くことが彼の回復を遅らせているのではないか。そう考えてしまう。
「知らん顔でいてくれればよかったのに」
彼のキスを思い出して、その記憶を振り払うように掛けものを被った。彼の精神状態には波がある。だが不安障害に記憶をなくすという症状はない。それなら何故忘れたフリをする? 突き詰めれば嫌な結論に辿り着きそうで、考えることを放棄する。
眠りに逃げようとしたのに、落ちた先でも苦しい夢を見た気がした。
「運転手はいるから副社長秘書として雇おう。まず巧と顔合わせをして、うちの入社手続きが済み次第働いてもらう。会社に出てくるよりも、巧の部屋に行ったり病院に付き添ったりの雑用がメインになると思うが」
「構いません。どうぞよろしくお願いします」
そんな事情で再就職することになったのだ。
前途多難もいいところだ。顔合わせで拒絶はされなかったが、合田はやはりあの晩のことを覚えていない。瑛という名前を出しても反応しないのだからどうしようもなかった。だがそれでよかったと思う。一夜の過ちが気まずくて秘書を拒否されれば、傍にいることができなかった。秘書として傍にいられればいい。以前の彼に戻れるように手助けしたい。それが難しくても、彼が心穏やかに過ごせる環境を作ってやりたい。そう思ってやってきた。だが実際、自分はどれだけ助けになっていたのだろう。敬助の厚意をいいことに、彼の傍にいたいという欲を叶えていただけなのではないか。
なんとか自宅マンションに帰り着いたが、体調が悪かった。鞄を投げ出してベッドに横になる。このまま眠ってしまおう。どうせ夜には目が覚める。そう思って目を閉じるが、すぐに、合田の薬の時間に電話をするから一度起きなければならないとアラームをセットする。
面倒だと思ったことのない作業が、今日は酷く憂鬱だった。こうして自分が世話を焼くことが本当に彼のためになっているのだろうか。堀内が世話を焼くことが彼の回復を遅らせているのではないか。そう考えてしまう。
「知らん顔でいてくれればよかったのに」
彼のキスを思い出して、その記憶を振り払うように掛けものを被った。彼の精神状態には波がある。だが不安障害に記憶をなくすという症状はない。それなら何故忘れたフリをする? 突き詰めれば嫌な結論に辿り着きそうで、考えることを放棄する。
眠りに逃げようとしたのに、落ちた先でも苦しい夢を見た気がした。