冷徹秘書のムーンストーン
だが彼の意図は違っていた。首筋に顔を埋めるようにして、そこに唇を寄せられる。
「そっち……」
安堵で声を零すが、それに構う様子もなく、彼は堀内のシャツに指を掛ける。
「待って」
軽く胸を押してストップを掛ければ、何故止める? と、まるで堀内が間違っているかのような目を向けられた。純粋で、目の前の男を抱くことになんの疑問も抱いていない。そんな視線に困惑する。
「俺は女神なんかじゃなく、普通の男です」
わざとムードを壊すようなことを言ってみても、彼の様子は変わらない。
「別に男でもいい。さっき入ってきたとき、一瞬で苛々が消えた。海から助けに来てくれたんだって思ったから」
その告白に、ああ、苛立っていたのかと愛おしさが湧いた。支離滅裂な言葉にも慣れるものだ。今彼が必要としてくれるのなら、女神になるのも悪くないと、そう思えてしまう。
「女神の名前は何?」
「瑛」
「いい名前」
頬を撫でて名前を褒められたときにはとっくに陥落していた。恋愛など時間の無駄だと思ってきたが、経験がない訳じゃない。口が堅くて危険のなさそうな男に金を払って、抱いてもらった経験が何度かある。
「俺は合田巧。巧って呼んで」
「巧さん……」
少し照れるが、呼んでやれば彼がまた目を細める。一瞬だけ、現実に戻ったようになった目になって、またすぐに堀内の首元に顔を寄せる。器用な指先が難なく衣服を取り去って、肌を撫でて堀内の身体を高めていく。この行為が合田のメンタルを回復させる訳ではないと分かっていた。逆に現実から離れさせてしまうかもしれないし、敬助の信頼を裏切ることになるかもしれない。それなのに止められない。現実主義の自分にはありえない衝動だった。だがあとにどんな後悔が待っていようと、今は彼を手放したくない。強い思いに突き動かされて、彼を深みに誘い込むように、知っている技を全て使って彼を煽る。自分を記憶に刻んでほしい。夜が明けても忘れないでほしい。そんな思いで、何度も彼の肌に手を伸ばした。ヘッドボードにあった道具を使って堀内の中に入ろうとする彼に、迷いなく脚を広げる。息遣いを荒くした彼が、我慢できないという様子で入ってきたとき、堪らない恍惚に包まれた。この妖しく美しい男が自分に夢中になっている。その事実にどうしようもなく興奮する。
「瑛」
「もっと激しく。巧さんの好きに突いて」
そんな淫らな台詞を口にすることに羞恥はなかった。
「ごめん。気持ちいい。瑛は他の男ともこうしてきたの?」
腰の動きを止めないまま聞いてくる彼に、ふと口元が緩んでしまう。
「もうあなただけにします。だから満足させて」
そんな言葉遊びに互いに昂った。
「俺、昔辛いことが沢山あったけど、でもそれが瑛とこうするための対価だったと言われたら、全部許せる」
嬉しいけれど哀しい台詞だった。だから先に達してしまわないように気をつけながら、彼の背に腕を回す。そのまま強く抱きしめてやる。
「許さなくてもいい。あなたは辛い目に遭ってきた。でもこれから幸せになればいい」
「瑛」
唇を奪われて、そのまま耐えきれなくなったように腰を使われた。
「ん……っ、ダメ。あ……」
言葉を交わす余裕もなくして、互いにただ求め合う。
「瑛……っ」
中で彼が達したと知った瞬間、堀内も放ってしまった。肌が汚れるのにも構わず、戯れに抱きしめ合う。
「あまり慣れた感じじゃなかったから驚いた」
漸く気持ちが落ち着いて、二人並んで横になったところで彼が言った。髪を撫でられる心地よさに、目を閉じたら眠ってしまいそうだ。無機質なホテルで男に抱かれて、事が済んだら金を置いて先に部屋を出る。それが当たり前だったから、こんな風に余韻を味わうのは初めてだ。今日会ったばかりの男。狭いベッドと剥き出しのコンクリート。恋人でも金で買ったのでもない彼との不思議な時間。それが思ったより悪くない。
「性技を尽くしたつもりでしたが、お気に召しませんでしたか?」
意外な指摘に、彼に身体を寄せて聞いた。
「そうじゃなくてね」
「そっち……」
安堵で声を零すが、それに構う様子もなく、彼は堀内のシャツに指を掛ける。
「待って」
軽く胸を押してストップを掛ければ、何故止める? と、まるで堀内が間違っているかのような目を向けられた。純粋で、目の前の男を抱くことになんの疑問も抱いていない。そんな視線に困惑する。
「俺は女神なんかじゃなく、普通の男です」
わざとムードを壊すようなことを言ってみても、彼の様子は変わらない。
「別に男でもいい。さっき入ってきたとき、一瞬で苛々が消えた。海から助けに来てくれたんだって思ったから」
その告白に、ああ、苛立っていたのかと愛おしさが湧いた。支離滅裂な言葉にも慣れるものだ。今彼が必要としてくれるのなら、女神になるのも悪くないと、そう思えてしまう。
「女神の名前は何?」
「瑛」
「いい名前」
頬を撫でて名前を褒められたときにはとっくに陥落していた。恋愛など時間の無駄だと思ってきたが、経験がない訳じゃない。口が堅くて危険のなさそうな男に金を払って、抱いてもらった経験が何度かある。
「俺は合田巧。巧って呼んで」
「巧さん……」
少し照れるが、呼んでやれば彼がまた目を細める。一瞬だけ、現実に戻ったようになった目になって、またすぐに堀内の首元に顔を寄せる。器用な指先が難なく衣服を取り去って、肌を撫でて堀内の身体を高めていく。この行為が合田のメンタルを回復させる訳ではないと分かっていた。逆に現実から離れさせてしまうかもしれないし、敬助の信頼を裏切ることになるかもしれない。それなのに止められない。現実主義の自分にはありえない衝動だった。だがあとにどんな後悔が待っていようと、今は彼を手放したくない。強い思いに突き動かされて、彼を深みに誘い込むように、知っている技を全て使って彼を煽る。自分を記憶に刻んでほしい。夜が明けても忘れないでほしい。そんな思いで、何度も彼の肌に手を伸ばした。ヘッドボードにあった道具を使って堀内の中に入ろうとする彼に、迷いなく脚を広げる。息遣いを荒くした彼が、我慢できないという様子で入ってきたとき、堪らない恍惚に包まれた。この妖しく美しい男が自分に夢中になっている。その事実にどうしようもなく興奮する。
「瑛」
「もっと激しく。巧さんの好きに突いて」
そんな淫らな台詞を口にすることに羞恥はなかった。
「ごめん。気持ちいい。瑛は他の男ともこうしてきたの?」
腰の動きを止めないまま聞いてくる彼に、ふと口元が緩んでしまう。
「もうあなただけにします。だから満足させて」
そんな言葉遊びに互いに昂った。
「俺、昔辛いことが沢山あったけど、でもそれが瑛とこうするための対価だったと言われたら、全部許せる」
嬉しいけれど哀しい台詞だった。だから先に達してしまわないように気をつけながら、彼の背に腕を回す。そのまま強く抱きしめてやる。
「許さなくてもいい。あなたは辛い目に遭ってきた。でもこれから幸せになればいい」
「瑛」
唇を奪われて、そのまま耐えきれなくなったように腰を使われた。
「ん……っ、ダメ。あ……」
言葉を交わす余裕もなくして、互いにただ求め合う。
「瑛……っ」
中で彼が達したと知った瞬間、堀内も放ってしまった。肌が汚れるのにも構わず、戯れに抱きしめ合う。
「あまり慣れた感じじゃなかったから驚いた」
漸く気持ちが落ち着いて、二人並んで横になったところで彼が言った。髪を撫でられる心地よさに、目を閉じたら眠ってしまいそうだ。無機質なホテルで男に抱かれて、事が済んだら金を置いて先に部屋を出る。それが当たり前だったから、こんな風に余韻を味わうのは初めてだ。今日会ったばかりの男。狭いベッドと剥き出しのコンクリート。恋人でも金で買ったのでもない彼との不思議な時間。それが思ったより悪くない。
「性技を尽くしたつもりでしたが、お気に召しませんでしたか?」
意外な指摘に、彼に身体を寄せて聞いた。
「そうじゃなくてね」