雨が降る気配は無い。しかし空気は生暖かく、雷が山並の向こうに落ちるのが見える。

星は恐怖で全身を小刻みに震えさせながら、早く、早く帰りたいと願いつつﾍﾟﾀﾞﾙを踏んだ。

「カメ、大丈夫？一回何処かで休憩しようか？」

「だ、大丈夫だよ、おーちゃん…家もあと少しだし急ごう」

涙目になりつつ、姿勢を丸めた瞬間だった。





ﾁﾘﾘﾝ。ﾁﾘﾘ、ﾁｬﾘｯ、ﾁｬﾘﾝ！





道の段差で籠の中の荷物が跳ねて、ﾎﾟｹｯﾄから鈴の付いた家の鍵が落ちた｡

その事に気付いた星は叫び声を上げて自転車を急ﾌﾞﾚｰｷ。

鈴の音と星の叫び声に反応した彩香も止まった。

「うわあぁあ、こういう時に限ってﾏｼﾞで止めてくれ!!恨むよ!?一生!!」

「カメ、微妙に日本語おかしいから。」

危険を感じながらも星は自転車から降りて鍵を取りに戻っていく。

優しい彩香も自転車を止めて星の後ろを歩く。

赤いｷﾉｺの形をした鈴が金属特有の光を映す鍵と共に虚しく道路に落ちていた。

雷は相変わらずｺﾞﾛｺﾞﾛと鳴り響き、禍々しい空間を作り出していた。

空は雲の所為で暗く、もはや黒い。

鍵に手を伸ばした、刹那。









音は しなかった。









星の後ろにいた彩香はそれを見た。

二人の横に高く伸びる電柱があったにも関わらず

自然界の物とは思えない緑と黄色の混じった雷が一直線に星を打った。

彩香の意識もそこで途絶えた。

星を打った緑の雷は道路を伝い、彼女の足に到達する。

予測不可能ﾚﾍﾞﾙの大量ﾎﾞﾙﾄが含まれた謎の雷は

二人の脳、骨、筋肉にまで這いつくばり、科学現象を起こした。





























































































































ｶﾗﾗﾗ、ｶﾗﾗﾗ、ｶﾗﾗﾗﾗﾗﾗ…

道路上に残されたのは、彩香の自転車だけ。

横に倒れた自転車は無機質な音を立ててﾀｲﾔを回していた。









その後、二人の姿を見た者はいない。