ファイアパンチ
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【あなたのいない木曜日】
「50歳年上の男に嫁ぐのってどんな気持ち?」
「思ったより年が近くて安心してる気持ち、かな」
「87歳と137歳だから誤差みたいなもんか」
「うん。むしろ年下じゃなくてよかった。若い人ちょっと苦手だから」
教会のステンドグラスは万華鏡のようだ。この歳になっても、子供の時に覗いたそれを思い出してしまう。
多勢の村人に寄ってたかって着せられたドレスは色こそ白いものの、所々黄ばんで糸がほつれていた。服を作る材料がないから代々着回していくのだと聞かされていたが、せめて丈くらい詰めてほしかった。
「キレイじゃん」
「ダサくない?ありがとう」
蝋燭の光を背にして、わたし達は夜明けが来るまで口づける。
わたしの体ひとつで村人が飢えを凌げる。わたしを買った男達は寛大だった。村を襲わない代わりに女ひとり差し出せば許してやると言って、長と公平な話し合いをした。
相手は再生能力と生殖能力が欲しい。こちらは食料と灯火が欲しい。上手い話だ。
───ドレス着せてあげらんなくて、
言わせまいとわたしはトガタの口に花を押し込んだ。そんなことを言ってほしかったんじゃない。そんなこと言うくらいなら、どうしてわたしから離れたの。
トガタは花を飲み下した。不味いと言いながら表情は変わらない。彼女の胃に溶けていく花が羨ましかった。わたしも食べられたかった。
「まあ........ありきたりだけど、幸せに?」
「うん。ありがとう」
────裏切りもの。
どちらともなく呟いた。わたし達は“永遠”には成れなかった。
彼女はわたし自身だ。悲しいとか、寂しいとかそんなありきたりな言葉では、この状況を言い表せない。ズタズタに半身をもがれたようだ。いっそ、その十字架でわたしを殺してくれない?苦しくて息ができないの。
いつまでもサヨナラと口にできないまま、貼り付けた笑顔が涙で汚れていった。
▽
静かな夜に、殺戮は行われた。
男の後頭部が割れて脳髄が弾けた。無花果みたいに柔らかそうな首をもぎとって、脊髄を引き摺り出した。肉色の花が床一面に狂い咲いた。血飛沫をもろに浴びて、わたしの視界は赤く歪む。
「......トガタ」
「憧れだったんだよね!挙式に乱入して、花嫁拐うの。みんな殺せばキミが泣こうが喚こうがもう手遅れでしょ......汚ねえオッサンとセックスするより私に犯されなよ」
誓いのキスしとく?
生首をこちらに突きつけて彼女は笑う。わたしは首を横に振る。在もしない神に誓いたくなかった。
祝福する様に鐘の音が響いた。緊急時の合図だった。トガタがあえて逃した残党が報せたのだろうか。すぐにでも村人たちが押し寄せてくるはずだ。
血溜まりに沈むのはカレイドスコープ。
死体から煙草とライターを奪い、古びた祭壇に火をつけた。炎の中でトガタがわたしのヴェールを捲り上げた。
「───わたしのこと連れ出して」
「いいよ。白馬用意してくるの忘れたけど」
「50歳年上の男に嫁ぐのってどんな気持ち?」
「思ったより年が近くて安心してる気持ち、かな」
「87歳と137歳だから誤差みたいなもんか」
「うん。むしろ年下じゃなくてよかった。若い人ちょっと苦手だから」
教会のステンドグラスは万華鏡のようだ。この歳になっても、子供の時に覗いたそれを思い出してしまう。
多勢の村人に寄ってたかって着せられたドレスは色こそ白いものの、所々黄ばんで糸がほつれていた。服を作る材料がないから代々着回していくのだと聞かされていたが、せめて丈くらい詰めてほしかった。
「キレイじゃん」
「ダサくない?ありがとう」
蝋燭の光を背にして、わたし達は夜明けが来るまで口づける。
わたしの体ひとつで村人が飢えを凌げる。わたしを買った男達は寛大だった。村を襲わない代わりに女ひとり差し出せば許してやると言って、長と公平な話し合いをした。
相手は再生能力と生殖能力が欲しい。こちらは食料と灯火が欲しい。上手い話だ。
───ドレス着せてあげらんなくて、
言わせまいとわたしはトガタの口に花を押し込んだ。そんなことを言ってほしかったんじゃない。そんなこと言うくらいなら、どうしてわたしから離れたの。
トガタは花を飲み下した。不味いと言いながら表情は変わらない。彼女の胃に溶けていく花が羨ましかった。わたしも食べられたかった。
「まあ........ありきたりだけど、幸せに?」
「うん。ありがとう」
────裏切りもの。
どちらともなく呟いた。わたし達は“永遠”には成れなかった。
彼女はわたし自身だ。悲しいとか、寂しいとかそんなありきたりな言葉では、この状況を言い表せない。ズタズタに半身をもがれたようだ。いっそ、その十字架でわたしを殺してくれない?苦しくて息ができないの。
いつまでもサヨナラと口にできないまま、貼り付けた笑顔が涙で汚れていった。
▽
静かな夜に、殺戮は行われた。
男の後頭部が割れて脳髄が弾けた。無花果みたいに柔らかそうな首をもぎとって、脊髄を引き摺り出した。肉色の花が床一面に狂い咲いた。血飛沫をもろに浴びて、わたしの視界は赤く歪む。
「......トガタ」
「憧れだったんだよね!挙式に乱入して、花嫁拐うの。みんな殺せばキミが泣こうが喚こうがもう手遅れでしょ......汚ねえオッサンとセックスするより私に犯されなよ」
誓いのキスしとく?
生首をこちらに突きつけて彼女は笑う。わたしは首を横に振る。在もしない神に誓いたくなかった。
祝福する様に鐘の音が響いた。緊急時の合図だった。トガタがあえて逃した残党が報せたのだろうか。すぐにでも村人たちが押し寄せてくるはずだ。
血溜まりに沈むのはカレイドスコープ。
死体から煙草とライターを奪い、古びた祭壇に火をつけた。炎の中でトガタがわたしのヴェールを捲り上げた。
「───わたしのこと連れ出して」
「いいよ。白馬用意してくるの忘れたけど」