鬼滅
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【鞠と薄衣】
一つとや 一夜明ければ
にぎやかで にぎやかで
たどたどしく歌いながら、小さな鞠を禰󠄀豆子と放り合う。受け取るたびにきゃっきゃっと嬉しそうに笑う姿は彼女の幼い頃を思い出させた。禰󠄀豆子は昔からお手玉や鞠が好きだった。色とりどりの玩具を前に目を細める仕草は小さな頃と変わらない。
「つづき、は?」
「えっとね」
続く歌詞を教えようと、口遊ぶ。
手で突いて、揃えた足を開くは手鞠唄。
童歌にしてはやけに艶めいている、そう感じて赤面した。意味は分からずとも教えたそのままを外で歌われては困る。
そうだ、替え歌を作ってしまおう。でも適当な歌詞がとっさに思いつくはずがない。
くるくると手元で鞠を回転させる。
随分と前に買った物だから、だいぶほつれてきてしまった。新しいものを買ってあげようなんて、ぼんやりとその柄を眺めていたら、焦れた彼女が鞠を取ろうとした。その伸ばした手に弾かれて鞠は廊下を跳ねていった。
「おね、いちゃん…」
不安そうに眉を下げた禰󠄀豆子に「大丈夫、取りに行くから待ってて」と頭を撫でて、私は鞠を探しに薄暗い廊下へと向かった。
鞠の中に入っている鈴の音を頼りに廊下を歩くと明かりが漏れ出ている部屋があった。
部屋の前で小さな鞠は転がり止めている。
ここは藤の家だから明かりの主は鬼殺隊の誰かだろうけれど、気配はほとんど無い。
上官だろうか。自分以外にも泊まっている隊員がいたことに、ここに来るまで全く気づかなかった。
「お休みのところ失礼します」
明かりのせいで、障子に影を写してしまうことを小さく断ってから鞠を胸に抱く。
すると、障子が開いた。
「……なまえ?」
互いに隊服ではなく襦袢姿だったので確かめるように、しばし見つめあった。
「義勇さん!?」
気配がほとんどなかったのも肯ける。柱の方達は皆、鬼を狩るために普段から意図的に存在を消すことが多いから。
「お前もここに泊まっていたのか」
「はい、禰󠄀豆子が鞠を放ってしまったので探しに来たんです。まさか義勇さんにお会いできるなんて思いもしませんでした」
義勇さんの隊服以外の格好を見るのが新鮮で、近寄って見つめてしまう。
彼は鞠を見たかと思うと急に私から目線を外して、横を向いた。
「どうされました?」
「夜更けに出歩くな、部屋に戻れ」
「…せっかくお会いできたので、もっと義勇さんとお話ししたいです」
「屋敷に戻ってからでも話はできる」
「今がいいです、ダメですか?」
襦袢の裾を引いて、横を向いたままの彼と目を合わせる。任務中に起こった出来事や呼吸のこと、話したいことはいくらでもある。
ため息をついた彼は、廊下を何度か見渡して私の肩を抱いた。そのまま部屋に引き入れるとそこに座れと鏡台の椅子を指差した。そして左右で柄の違う羽織を私にかけて襦袢の前を覆う。
「あの、夜も遅いですし布団の中で話しましょうよ」
「……あのな」
私はきれいに敷かれた布団に潜り込むと、傍らを叩いて「義勇さんも」一緒に寝るように促した。彼はなぜか頭を抱えている。
「意味わかって言ってるのか?」
「わかってますよ。話してる途中で眠くなったらそのまま眠れます」
愛らしい足音がしてひょっこりと禰󠄀豆子が顔を覗かせた。手招きするとあっさり布団に潜り込んできた。
義勇さんもはやく、はやく。
何度か催促してようやく隣りに落ち着いた彼は、天井を凝視したまま微動だにしない。
私は声が外まで響かないように、内緒話をするように義勇さんの耳元に口を寄せた。
どうにでもなれ。
投げやりな彼の呟きが聞き返されることはなかった。