電鋸男
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「ねえ、殺されるならわたしに殺されてよ」
なんでもするから、どうせならわたし以外を見ないで。
─────重ねたかったのは思い出だけ。遺したかったのは記憶だけ。
例えばピアスの跡だったり、肺腑に染み込んだタバコの味だったり。死に直面した時、恐怖に怯む自分自身との戦い方だったり。他の誰かが教えられないような傷を残したかった。
ちょっと前までのわたしたちはバディというより、兄妹と呼んだ方がいいくらいの間柄だった。先輩!と追いかけてくる彼の声は少年そのもので、背伸びしてわたしに耳打ちしていたというのに。
ふと気づいたらアキ君はわたしの背をとっくに追い越していて、一瞬でも目を離すとすぐどこかに行ってしまうから、最近ではわたしの方がアキ君を追いかけている。
咥えたタバコはずいぶん灰を落としていて、唇に近いところまでオレンジ色の火が迫っていた。
......わたしってほんと重い女。
噛み締めた肌の感触はわたしのものとはまるで違っていた。
「......いいですね」
「本気。わたしは本気で言ってるよ」
一際奥を突かれ、わたしはすがりついた背中に爪をたてた。彼の唇から揺蕩う紫煙は緩やかに天井に向かって弧を描いている。
あやすような口調に、思いがけずわたしは微笑んでしまった。ひどく幸福そうに笑う女が、彼の瞳に映り込んでいた。
アキ君の疲れたような表情が好きだった。泣いている顔も好きだった。でも一番好きだったのは笑った顔だった。
“だった。”と敢えて過去形にしたのはわたしも彼もいつ死ぬのかわからないからだ。次の瞬間、死んでいてもおかしくない。
うっかり公安のデビルハンターなんかと恋人になってしまった日には、わたしの頭はおかしくなる。だってわたしは彼は、世界で一番、死に近い仕事をしている。
好きと告げられないのは、そういうわけだった。自分自身よりもはるかに大好きな人が、手の届かないところに行ってしまうなんて許せない。
血が滲むほど強く、彼の首を吸い上げる。
アキ君は、痛いとも止めろとも言わず、ただただわたしの為すがままだった。きっとわたしの言葉なんて1ミリも響いていないのだろう。
まるでキスマークみたいだ。この鬱血痕は数日もすれば他の傷に埋もれてしまう。わたしの言ったことだって数日もすれば他の言葉にかき消されてしまう。
「......好きって言ったらどうする?」
ねえねえ、教えて。どれくらい深い傷なら消えないの?
「なまえ先輩のことは好きですよ」
アキ君は体温が高い。彼の胸元に縋っているだけで体が火照る。アキ君の指がわたしの唇をこじ開けて、ゆっくりと舌をなぞった。溢れ出した唾液を彼の指に纏わせるように吸い上げると、あっけなく指は引き抜かれた。そのまま抱きしめられる。
「好きなら......好きなんだったらっ!......わた、私のっ!私のこと好きなら、」
壊れたラジオみたいになったわたしを見て、アキ君は笑った。
『 』
なんでもするから、どうせならわたし以外を見ないで。
─────重ねたかったのは思い出だけ。遺したかったのは記憶だけ。
例えばピアスの跡だったり、肺腑に染み込んだタバコの味だったり。死に直面した時、恐怖に怯む自分自身との戦い方だったり。他の誰かが教えられないような傷を残したかった。
ちょっと前までのわたしたちはバディというより、兄妹と呼んだ方がいいくらいの間柄だった。先輩!と追いかけてくる彼の声は少年そのもので、背伸びしてわたしに耳打ちしていたというのに。
ふと気づいたらアキ君はわたしの背をとっくに追い越していて、一瞬でも目を離すとすぐどこかに行ってしまうから、最近ではわたしの方がアキ君を追いかけている。
咥えたタバコはずいぶん灰を落としていて、唇に近いところまでオレンジ色の火が迫っていた。
......わたしってほんと重い女。
噛み締めた肌の感触はわたしのものとはまるで違っていた。
「......いいですね」
「本気。わたしは本気で言ってるよ」
一際奥を突かれ、わたしはすがりついた背中に爪をたてた。彼の唇から揺蕩う紫煙は緩やかに天井に向かって弧を描いている。
あやすような口調に、思いがけずわたしは微笑んでしまった。ひどく幸福そうに笑う女が、彼の瞳に映り込んでいた。
アキ君の疲れたような表情が好きだった。泣いている顔も好きだった。でも一番好きだったのは笑った顔だった。
“だった。”と敢えて過去形にしたのはわたしも彼もいつ死ぬのかわからないからだ。次の瞬間、死んでいてもおかしくない。
うっかり公安のデビルハンターなんかと恋人になってしまった日には、わたしの頭はおかしくなる。だってわたしは彼は、世界で一番、死に近い仕事をしている。
好きと告げられないのは、そういうわけだった。自分自身よりもはるかに大好きな人が、手の届かないところに行ってしまうなんて許せない。
血が滲むほど強く、彼の首を吸い上げる。
アキ君は、痛いとも止めろとも言わず、ただただわたしの為すがままだった。きっとわたしの言葉なんて1ミリも響いていないのだろう。
まるでキスマークみたいだ。この鬱血痕は数日もすれば他の傷に埋もれてしまう。わたしの言ったことだって数日もすれば他の言葉にかき消されてしまう。
「......好きって言ったらどうする?」
ねえねえ、教えて。どれくらい深い傷なら消えないの?
「なまえ先輩のことは好きですよ」
アキ君は体温が高い。彼の胸元に縋っているだけで体が火照る。アキ君の指がわたしの唇をこじ開けて、ゆっくりと舌をなぞった。溢れ出した唾液を彼の指に纏わせるように吸い上げると、あっけなく指は引き抜かれた。そのまま抱きしめられる。
「好きなら......好きなんだったらっ!......わた、私のっ!私のこと好きなら、」
壊れたラジオみたいになったわたしを見て、アキ君は笑った。
『 』