ファイアパンチ
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[わたしはカモメ]
幼い頃に見たのはハリーポッターの映画だった。ポップなお菓子にステキな仲間、色とりどりの魔法。あっけなく心を奪われたわたしは、その映画の世界に入り込みたいと切に思った。
【映画 入り方】【映画の中に入るには】【バーチャル 映画 VR リアル】【どうすれば映画の中に入れるか】【映画の中に入りたい】
数年経って、電子機器を少しばかり自由使えるようになったわたしの検索履歴は、とてもファンシーなことになっていた。
「違うんだ.....上映時間を知りたいわけじゃないし、映画館の入場マナーを知りたいわけでもないんだ....」
ハロー、昔のわたし。いいこと教えてあげる。魔法って存在しないらしいよ。
「ハリーポッターってさ、映画だと事件が強調されがちだけど、原作読むと意外と群像劇多いし、いい意味で登場人物がやたら人間くさいよね」
「映画の世界と現実の世界は別物だって、なんで誰も教えてくれなかったんでしょう?」
わたしの検索履歴を横から覗き込んで、トガタ先輩は「夢見がち」と言い放った。
「フィクションだからいいんだろ。約束された安全な恐怖とか安全な危険性とか。秒で人が死んだり町中で銃ぶっ放してみろよ。世紀末じゃん」
「トガタさんもなまえさんも、部室占領するのやめません....?」
ネネトちゃんは半分諦めた声色をしているものの、投げやりな苦情をこちらに寄越した。
手芸部のプラスチックプレートは油性マジックで大きく×されていて、代わりに映画研究会!!の手書き文字が元気に踊っている。
「ネネトさあ...手芸部なんて誰も入んないよ」
「トガタさん...映画研究会なんて誰も入りませんよ」
「わたし達で手芸しながら映画見る?手芸映画研究会とかは?」
「それだと“手芸映画の研究会”になるからダメ。映画手芸研究会がいい」
「映画の手芸を研究する会って意味になりません?」
「ネネトちゃん的には良いんじゃない?手芸したいんでしょ?」
「変なところで気を使うのやめてください。......活動内容でっち上げて手芸部として届けますから勝手に映画でも観ててください」
「映画と手芸ってなんか似てない?」
「似てません」
「作品を作り上げるっていうところが似てる」
「その理論でいくと世の中のほとんどのものが似てますよ.....」「判定ガバじゃん」
▽
新学期のこの時期は各自の名札を(しかもフルネームで)胸ポケットにつけることになっている。クラス替えや新入生達が早く名前を覚えられるように、というお節介だ。嫌な校則だと思う。校則は個人情報の意味を知らないに決まっている。わたしは自分の文字の汚さにうんざりしながら、油性マーカーで滲んだ名札をつけて桜の花びらを吸い込んだ。
「——桜ってさ見た目ほど美味しくないね。塩漬けにするから良いのか?どう思う?」
上級生とおぼしき少女が大量の花びらを口に押し込んでいた。
「.........エマ・ワトソン?」
「うん」
「本名ですか?」
「ううん。本名書かないだろ」
持論だけど、映画を観たりや本を読んだりするより人と関わった方が有益だと思う。内向的な趣味は根暗を助長させるだけだ。想像力や読解力は独りでも磨けるが、コミュニケーション能力は独りでは養えない。
現にこの状況で、なんと言葉を続けたら良いのかわからない。
「本名書かなくていいなら、わたしもそうすればよかった...」
考え抜いて出た言葉は、考え抜いた割には素直な落胆だった。なんとなく周りの人に名前覚えられたくなくて、腕で名札を隠していたのがバカらしくなった。
誰かに名前を覚えられたら、わたしという存在を認識されてしまう気がした。“生徒A”という立ち位置でいたかった。
「気をつけな。うかつに名前を書くと千の1文字以外は吸い取られて、家に帰れなくなるよ」
「神隠しの映画ですね。結構好きです」
「......結構ってことは、1番好きな映画は、なに?」
彼女は少しだけ目を輝かせた。きっと映画好きなんだろう。わたしはそこまで好きじゃないけれど、好きなことがあるのはとても良いことだ。
「ハリー・ポッターです。好きなキャラはハーマイオニー」
「私じゃん。私じゃないけど」
(11/11)—以下に続く—
幼い頃に見たのはハリーポッターの映画だった。ポップなお菓子にステキな仲間、色とりどりの魔法。あっけなく心を奪われたわたしは、その映画の世界に入り込みたいと切に思った。
【映画 入り方】【映画の中に入るには】【バーチャル 映画 VR リアル】【どうすれば映画の中に入れるか】【映画の中に入りたい】
数年経って、電子機器を少しばかり自由使えるようになったわたしの検索履歴は、とてもファンシーなことになっていた。
「違うんだ.....上映時間を知りたいわけじゃないし、映画館の入場マナーを知りたいわけでもないんだ....」
ハロー、昔のわたし。いいこと教えてあげる。魔法って存在しないらしいよ。
「ハリーポッターってさ、映画だと事件が強調されがちだけど、原作読むと意外と群像劇多いし、いい意味で登場人物がやたら人間くさいよね」
「映画の世界と現実の世界は別物だって、なんで誰も教えてくれなかったんでしょう?」
わたしの検索履歴を横から覗き込んで、トガタ先輩は「夢見がち」と言い放った。
「フィクションだからいいんだろ。約束された安全な恐怖とか安全な危険性とか。秒で人が死んだり町中で銃ぶっ放してみろよ。世紀末じゃん」
「トガタさんもなまえさんも、部室占領するのやめません....?」
ネネトちゃんは半分諦めた声色をしているものの、投げやりな苦情をこちらに寄越した。
手芸部のプラスチックプレートは油性マジックで大きく×されていて、代わりに映画研究会!!の手書き文字が元気に踊っている。
「ネネトさあ...手芸部なんて誰も入んないよ」
「トガタさん...映画研究会なんて誰も入りませんよ」
「わたし達で手芸しながら映画見る?手芸映画研究会とかは?」
「それだと“手芸映画の研究会”になるからダメ。映画手芸研究会がいい」
「映画の手芸を研究する会って意味になりません?」
「ネネトちゃん的には良いんじゃない?手芸したいんでしょ?」
「変なところで気を使うのやめてください。......活動内容でっち上げて手芸部として届けますから勝手に映画でも観ててください」
「映画と手芸ってなんか似てない?」
「似てません」
「作品を作り上げるっていうところが似てる」
「その理論でいくと世の中のほとんどのものが似てますよ.....」「判定ガバじゃん」
▽
新学期のこの時期は各自の名札を(しかもフルネームで)胸ポケットにつけることになっている。クラス替えや新入生達が早く名前を覚えられるように、というお節介だ。嫌な校則だと思う。校則は個人情報の意味を知らないに決まっている。わたしは自分の文字の汚さにうんざりしながら、油性マーカーで滲んだ名札をつけて桜の花びらを吸い込んだ。
「——桜ってさ見た目ほど美味しくないね。塩漬けにするから良いのか?どう思う?」
上級生とおぼしき少女が大量の花びらを口に押し込んでいた。
「.........エマ・ワトソン?」
「うん」
「本名ですか?」
「ううん。本名書かないだろ」
持論だけど、映画を観たりや本を読んだりするより人と関わった方が有益だと思う。内向的な趣味は根暗を助長させるだけだ。想像力や読解力は独りでも磨けるが、コミュニケーション能力は独りでは養えない。
現にこの状況で、なんと言葉を続けたら良いのかわからない。
「本名書かなくていいなら、わたしもそうすればよかった...」
考え抜いて出た言葉は、考え抜いた割には素直な落胆だった。なんとなく周りの人に名前覚えられたくなくて、腕で名札を隠していたのがバカらしくなった。
誰かに名前を覚えられたら、わたしという存在を認識されてしまう気がした。“生徒A”という立ち位置でいたかった。
「気をつけな。うかつに名前を書くと千の1文字以外は吸い取られて、家に帰れなくなるよ」
「神隠しの映画ですね。結構好きです」
「......結構ってことは、1番好きな映画は、なに?」
彼女は少しだけ目を輝かせた。きっと映画好きなんだろう。わたしはそこまで好きじゃないけれど、好きなことがあるのはとても良いことだ。
「ハリー・ポッターです。好きなキャラはハーマイオニー」
「私じゃん。私じゃないけど」
(11/11)—以下に続く—
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