フェイジュニ
【この先も】
君はきっと知らないだろうね。なんでもない日だからって、油断しているだろう無防備な寝顔をつつくと「ふごっ」と可愛げのかけらもない声が聞こえてきて、思わず笑ってしまう。緩みきった薄い唇からは健やかな寝息が聞こえてきた。
言葉にするには複雑で難解な感情が腹の奥から迫り上がってくる。これを「愛しさ」だと教えてくれたのは、間違いなくきみだった。
最初は真面目で生意気な「おチビちゃん」でしかなかったのに、時折見せてくれるその笑顔に、真っ直ぐにぶつかってきてくれるその気持ちに、だんだんと絆されていったのは間違えなく俺の方だった。初めてキスをしたときの真っ赤な頬と大きく見開かれたヘテロクロミアは一生忘れることができないだろう。なんて、クサい表現だけどね。
嬉しいのは明らかなのに、その後に飛んできたのは容赦のないグーパンチだったのも忘れられなさそう。曰く「順番があるだろ!」とのことだったので「好きだよ」とすんなり出てきた言葉を預けて、二回目のキスをした。腰砕けで溺れそうになっている潤んだ瞳が可愛くて、何度も何度も貪るように薄い唇を味わった。言葉にしなくても、キスをあげるだけで勝手に昂まっていくものだと、その頃の俺は女の子たちとの経験でそう思っていたから、おチビちゃんはそういうところも可愛いな、なんて愛おしい気持ちが増したのは内緒の話だ。
「お前は…俺とどうなりたい?」
「俺は、ううん…俺と、付き合ってほしい」
柄にもなく、バカみたいに緊張していた。おチビちゃんが俺のこと好きだってことは見てれば分かったけど、断られるかな、どうかな、なんて珍しく堂々巡りの思考を断ち切るように向けられたのは、耳まで真っ赤に染めた照れ臭そうな笑顔と「別に、いいけど。俺も好きだし」というなんともひねくれた返事だった。精一杯背伸びしたのであろうその言葉が可愛くて、でもやっぱり咄嗟に言葉にはならなくて、抱きしめると「はなせ〜!」と大暴れだったけど、そういうのは逆効果だってこと、未だに気付いてないんだろうね。
思い出すいままでのことは、どれもおチビちゃん色に染められていて、振り回されるのを嫌っていた以前の俺が見たら絶対笑われるだろうな。
好きだって、愛してるって、どれだけ言葉にしても足りなくて。どれだけ言葉をもらっても足りなくて。いっそのこと一つになれればおチビちゃんの心の奥底の気持ちが伝わって、満たされるのかなと思うけど、そうしたらこの無防備な寝顔も、ギターを触っているときの生き生きとした瞳も、街を守るために必死になっている小さな背中も見られなくなってしまうから、やっぱりそれはやめておこう。
だけどね、おチビちゃん。君のこれからが俺以外の人と歩いて行く想像なんてしたくなくて、一つになんてなれなくても、ずっと隣にいたいから、どうかせめてその左手だけ予約させてくれないかな。辛いときも、倒れそうなときも、健やかなときも、病めるときも、ずっとその手を握っててあげるからさ。
何も知らない無防備な寝顔をもう一度つつくと、幸せそうに頬が緩む。あと少しで目覚めるヘテロクロミアが幸せに細められる想像を何度も繰り返していると、左手の薬指に嵌められた銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。
君はきっと知らないだろうね。なんでもない日だからって、油断しているだろう無防備な寝顔をつつくと「ふごっ」と可愛げのかけらもない声が聞こえてきて、思わず笑ってしまう。緩みきった薄い唇からは健やかな寝息が聞こえてきた。
言葉にするには複雑で難解な感情が腹の奥から迫り上がってくる。これを「愛しさ」だと教えてくれたのは、間違いなくきみだった。
最初は真面目で生意気な「おチビちゃん」でしかなかったのに、時折見せてくれるその笑顔に、真っ直ぐにぶつかってきてくれるその気持ちに、だんだんと絆されていったのは間違えなく俺の方だった。初めてキスをしたときの真っ赤な頬と大きく見開かれたヘテロクロミアは一生忘れることができないだろう。なんて、クサい表現だけどね。
嬉しいのは明らかなのに、その後に飛んできたのは容赦のないグーパンチだったのも忘れられなさそう。曰く「順番があるだろ!」とのことだったので「好きだよ」とすんなり出てきた言葉を預けて、二回目のキスをした。腰砕けで溺れそうになっている潤んだ瞳が可愛くて、何度も何度も貪るように薄い唇を味わった。言葉にしなくても、キスをあげるだけで勝手に昂まっていくものだと、その頃の俺は女の子たちとの経験でそう思っていたから、おチビちゃんはそういうところも可愛いな、なんて愛おしい気持ちが増したのは内緒の話だ。
「お前は…俺とどうなりたい?」
「俺は、ううん…俺と、付き合ってほしい」
柄にもなく、バカみたいに緊張していた。おチビちゃんが俺のこと好きだってことは見てれば分かったけど、断られるかな、どうかな、なんて珍しく堂々巡りの思考を断ち切るように向けられたのは、耳まで真っ赤に染めた照れ臭そうな笑顔と「別に、いいけど。俺も好きだし」というなんともひねくれた返事だった。精一杯背伸びしたのであろうその言葉が可愛くて、でもやっぱり咄嗟に言葉にはならなくて、抱きしめると「はなせ〜!」と大暴れだったけど、そういうのは逆効果だってこと、未だに気付いてないんだろうね。
思い出すいままでのことは、どれもおチビちゃん色に染められていて、振り回されるのを嫌っていた以前の俺が見たら絶対笑われるだろうな。
好きだって、愛してるって、どれだけ言葉にしても足りなくて。どれだけ言葉をもらっても足りなくて。いっそのこと一つになれればおチビちゃんの心の奥底の気持ちが伝わって、満たされるのかなと思うけど、そうしたらこの無防備な寝顔も、ギターを触っているときの生き生きとした瞳も、街を守るために必死になっている小さな背中も見られなくなってしまうから、やっぱりそれはやめておこう。
だけどね、おチビちゃん。君のこれからが俺以外の人と歩いて行く想像なんてしたくなくて、一つになんてなれなくても、ずっと隣にいたいから、どうかせめてその左手だけ予約させてくれないかな。辛いときも、倒れそうなときも、健やかなときも、病めるときも、ずっとその手を握っててあげるからさ。
何も知らない無防備な寝顔をもう一度つつくと、幸せそうに頬が緩む。あと少しで目覚めるヘテロクロミアが幸せに細められる想像を何度も繰り返していると、左手の薬指に嵌められた銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。