『天使を抱くマリア』
窓から差し込む光で、ルーカは目を覚ました。けだるい身体をゆっくりと起こしながら隣を見るが、すでにアルディオの姿はなかった。
そのかわりのように、机には一枚の紙切れが置いてある。
それを読んだ途端、ルーカは、慌てて立ち上がった。
急いで服を着て、部屋を飛び出す。
全速力で石段を駆け降り、美術館へ走った。
アンナに挨拶もせずに中央ホールを抜ける。
息を切らしながら、一枚の絵画の前で立ちどまった。
柔らかな髪の女性が、慈しむような微笑みで天使を抱いている絵。
それはとても精巧に描かれた贋作だった。