橙と白の記憶のカケラ
「なんか・・・なぁ・・・」
ここは確かにお袋が死んだ場所で、悲しい場所であるはずなのに。
ここで、もう一つ何かがあったような気がする。
何か――・・・。
「帰るか・・・」
よっと立ち上がると、一護はゆっくりと帰路へ向かった。
家の扉を開けると、真っ先に見えたのは目の前に迫った大きな足。
「遅いぞ一護!!」
「うぉっ!」
軽く驚いた一護は、反射的にバッと避ける。
その所為で飛び蹴りをしてきた一心はそのまま外に飛び出した。
一護はそれを冷めた目で見ると、バタンと扉を閉めて鍵をかけた。
すると数秒後、ガチャガチャとドアを開けようとする音が聞こえてきた。
「開かない!一護、開かないぞ!父ちゃんが中に入ってないぞ!!」
「遊子、飯は?」
「は~い!ちょっと待っててね!」
「入れてくれぇえ!!我が息子よぉお!!」
「煩い髭ダルマ!!!」
バアン!!という音と、ドカッという大きな音が聞こえた。
「・・・夏梨も容赦ねぇな」
死んだな、と思った一護であったが、顔から血を流した一心が床を這ってきた。
「やるようになったな息子よ!だがまだ父ちゃんには敵わないな!」
「お父さん!ふざけてないでごはん食べちゃって!」
「良いよ、ほっときな遊子」
「嗚呼、母さん!娘が更に冷たくなったよぉ!!」
「黙れヒゲ」
両手を上げて母・真咲のやたら大きい遺影に張り付く一心に、夏梨が冷たく突き放す。
そんな様子に呆れながら苦笑した一護は、「ごちそうさま」と言って部屋に戻った。
「はぁ・・・」
部屋に入って電気をつけた一護は、ベッドに倒れこんだ。
梅雨の時期。
この時期になると心の中の雨が止まなくなる。
一護はため息を吐くと、「課題でもやるか」と呟き、机に向かった。