雪に込めた想いを乗せて
十三番隊・隊舎。
サアァァ――
そよ風に草木が靡き、他隊よりも静かで平穏な雰囲気が漂っている。そんな中、自隊の隊長のもとへと続く廊下を、たくさんの書類を抱えた一人の隊士が歩いていた。
そんな静かな場所に、ドタドタとうるさい足音が聞こえてくる。
「ルキアー!居るかー?」
大声を出してルキアを探すのは、六番隊副隊長の阿散井恋次だった。
廊下を歩いていた隊士――朽木ルキアはその声に気付いて振り返ろうとするが、
「ん?恋次か・・・うわぁッ!!」
ドサドサと何かが落ちる音が聞こえ、恋次は音の鳴る方へと向かうと、
「・・・ルキア、何やってんだ?」
「っ~~!!」
周りに書類がばら撒かれ、尻もちをついたのか、お尻を擦りながら恋次を睨み上げた。
「貴様の所為で書類が散らばってしまったではないか!!」
「俺の所為かよ!」
「貴様の所為だ!!」
ルキアは散々恋次に怒鳴ったあと、ばら撒かれた書類を拾い始める。
何もしないわけにもいかないので、恋次もしぶしぶという風に手伝おうとするが、
「貴様が拾え!!」
と言われて結局全部自分が拾う羽目になった。
「ところで貴様、わたしに何の用だ?」
「あぁ、実は総隊長直々に任務を言い渡されてな。現世に住んでいる一護と、少しは詳しい俺とお前で、ある一つの村に向かって欲しいんだとよ」
ゲンナリとした表情で説明する恋次。
ルキアは指を顎に当てて「ふむ・・・」と考える素振りを見せる。
「確かに現世の空座町は詳しい方だが・・・村に関しては全く知らんぞ?」
「俺もそう思ったんだけどよ、問答無用って感じで追い出されたんだよ」
「・・・役に立たんな」
冷めた眼でルキアは恋次を睨んだ。
その眼に恋次はたじろぐ。
「う、うるせぇ!!副隊長が総隊長に意義は言いにくいんだよ!!」
「・・・」
「な、何だよ・・・!!」
ルキアはスッと恋次から視線を外し、「さっさと行くぞ」と恋次を置いていくようにサクサクと歩いて行った。
「ま、待てよルキア!」
恋次も慌てて後を追った。
書類を提出したあと、ルキアと恋次は一護のいる現世へと向かって行った。
クロサキ医院。
その建物の前にルキアと恋次は立っていた。
「一護、居ねぇみてぇだな」
「そうだな・・・今は学校へ行っているのだろう」
ルキアはそう言うと、学校へと足を進める。
恋次もそのあとに続いた。
***
同時刻。尸魂界・瀞霊廷。
十番隊執務室。
「・・・はぁ・・・」
日番谷は額に手を当てて、ため息を吐いた。
朝から少し熱っぽく、風邪を引いたことは明らかだったのだが、サボり魔の副官の所為で溜まりに溜まった書類を片付けなければならなかったので、そのまま出勤したのだった。
しかし、仕事を続ければ続けるほど、熱は上がる一方だった。
「どうするか・・・」
日番谷にしては珍しく、本気で仕事を休もうかと思っている。
しかし、例の如く乱菊が今この場に居ないため、任せるに任せられないのだ。
(そろそろ・・・ヤベェ・・・)
そう思った時には、意識は遠のいており、その中で体が床に倒れる音が聞こえた。
***
現世・空座町。
空座第一高校の屋上で、ルキアと恋次、そして一護が話し合っていた。
しかし一護の眉間の皺はいつもより深い。
「で?なんで俺が行かなきゃなんねぇんだよ?」
「総隊長の命令だ。仕方なかろう」
「そうだ。諦めろ一護」
そんな二人に一護はため息を吐きながら、こめかみを引きつらせながら、
「それにしても、人に頼むときの態度じゃねぇよな?」
実は普通に授業を受けていた一護に、ルキアがいきなり現れて強制的に死神にしたのだった。だから今、一護は死神の状態なのである。
ちなみに、一護の体はその直後に入れられたコンが預かっていた。
「無理やり死神にしやがって・・・」
「だから仕方なかろう!何度呼んでも応えない貴様が悪いのだ!」
「気付くわけねぇだろ!こっちも真面目に授業受けてんのによ!」
怒鳴る一護に、ルキアは無視して伝令神器をいじり、その画面を一護に見せる。
「あ?なんだよ?」
「総隊長から命令の詳細だ。村の名は冬永村(トウエイムラ)。ここ最近霊子濃度が急激に上がった場所だ。その異常を調べてこいとのことだ」
「そんな村知らねぇよ」
「随分辺鄙な場所にあるそうだぞ」
一護ははぁ・・・とため息を吐くと、「しょうがねぇ」と頭をかく。
「とりあえず、虱潰しに探すっきゃねぇか」
「そうだな。頼んだぞ一護、恋次」
「「なんで俺達だけなんだよ!!?」」
ルキアの言葉に一護と恋次は同時に怒鳴る。
そんな二人にルキアはうっとうしそうな顔をしながら「何なんだ貴様らは」と言う。
「お前はどうするんだよ!!」
「わたしは用があるのでな。一度尸魂界に戻る。戻ってくるまでに村の所在を調べるのだぞ」
「おい待てコラ!!ルキア、てめぇ!!」
一護と恋次の叫びを無視して、ルキアは穿開門を開けて尸魂界へと戻っていってしまった。
「・・・」
「・・・」
残された二人は、しばらくそこで呆然としていた。