処刑という名の復讐劇
尸魂界・瀞霊廷。
あんなに崩壊していたのにすっかりもとに戻り、静かすぎるというほどそこは何の音もしなかった。
「おかしい・・・いつもここはこんなに人通りの少ない場所ではないのに・・・」
「なんか、皆様子がおかしくねぇか?」
瀞霊廷の廊下でそう話す二人の視界には、無表情で書類を運ぶ隊士達の姿。
しかも、ここはこんな静かな場所ではない。
会話がない。
無表情で書類を受け渡している。
二人は何かあったのだと確信した。
するとそこへ見知った赤い頭が見えてきた。
「恋次!!」
ルキアは駆け寄る。
するとようやく恋次は気付いた。
「ルキア・・・」
「恋次、瀞霊廷で何かあったのか!?皆様子がおかしいぞ!!」
「何か、って・・・」
眉間に皺を寄せて、怪訝そうにする恋次に一護が問う。
「思い当たることねぇのかよ?」
「あるも何も、お前らが様子がおかしいっていうことが俺にはわかんねえよ」
「はぁ!?」
二人は恋次の言葉に驚いて目を見開く。
そんな二人を気にすることもなく、恋次は続ける。
「俺にとっちゃぁ、お前らの方がおかしく見えるぜ。いきなり尸魂界(こっち)に来て、何かあったか?なんて聞くなんてよ」
「明らかにおかしいだろ!!」
「恋次、貴様もまさか・・・」
ルキアの疑うような眼差しを受けて、恋次は慌てたように言う。
「お、おい!俺なんかマズイこと言ったかよ!?」
「・・・」
ルキアは何も答えず、恋次を通り越してさっさと歩いて行った。
「・・・?」
「じゃあな。恋次」
呆れたように一護はそう言うと、ルキアの後を追いかけて行った。
恋次はわけがわからないという顔をしていたが、二人が遠ざかると同時に無表情になる。
「面倒な奴が来たな・・・」
「それにしても、どうなってんだ?」
「わからぬ。しかし、皆に何かが起きたことは間違いない」
通り過ぎる隊士一人一人は、皆表情がない。
まるで人形のような死神達に、不気味な雰囲気が瀞霊廷を包んでいた。
「恋次も、あの様子じゃなんかあったよな?」
「ああ。恋次でも気付いていいはずだ。この不気味な空気を」
それほどまでに違和感がありすぎるのだ。この瀞霊廷は。
すると、再び見知った人物が見えてきた。
「乱菊さん!」
「あら、一護に朽木じゃない」
一護が声をかけると、乱菊は振り返ってニコッと笑う。
「どうしたの?何かあった?」
「乱菊さん。なんか、皆の様子がおかしくねぇか?」
「様子って?」
「なんか・・・生気がないっていうか・・・静かっつうか・・・」
一護の言葉に、乱菊は辺りを見渡す。
通り過ぎる隊士。
やはり、表情がなかった。
「そう、ね・・・」
「乱菊さん、わかるのか!?」
「って、あんたが言ったんじゃない」
乱菊が呆れて一護を見るが、ルキアが前に出て、
「それが、恋次にはこの違和感に気付かなかったものですから・・・」
「そりゃ、恋次ならありえるんじゃない?」
そう言って乱菊は笑う。
「けどよ。やっぱりおかしいって」
「う~ん。でも、気にすることないんじゃない?」
「え!?」
乱菊の言葉に二人は目を見開く。
構わず乱菊は続けた。
「別にあいつらに生気がなくても、襲いかかってくるとか、急に倒れるとか、そういうこともないんでしょ?だったらとりあえず様子を見て、何かあったらそん時でいいんじゃない?」
「しかし、松本副隊長・・・それは、流石に・・・」
ルキアが控えめにそう言うが、乱菊は二人の背中を押して、
「いいから!あんた達、ちょっと寄ってきなさい!」
「ちょ、ちょっ!乱菊さん!」
「松本副隊長!」
二人の抵抗も空しく、十番隊に立ち寄ることになってしまった。
「さぁ、どうしようかしら・・・」
逆光を浴びた女の影は、フッと消えると同時に、急に空が厚い雲に覆われ始めた。