今日は帰りたくないと言われたときの反応
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夜の海風が、白いカーテンをそっと揺らしている。
遠くから、波の音がかすかに響き、落とした照明の部屋には、夏の名残の温度が静かに漂っていた。
「……今日は、帰りたくないな」
意を決して呟いた声は、自分でも驚くほど小さく、震えていた。
ベッドの端に腰を下ろしていたサエは、少しだけ目を丸くしたあと、あっさりと「わかった」と頷く。
拍子抜けするほどあっさりとした返事に、思わず瞬きを重ねる。
───“わかった”って、ほんとうに“分かってる”のかな。
不安げに彼を見上げると、サエは立ち上がり、軽く笑ってベッドをぽんぽんと叩く。
「ひよりはこっちで寝な。俺はソファで寝るから」
そして、当然のように部屋を出ようとするその背に、思わず声がかかる。
「ま、待って!」
思わず手を伸ばしていた。自分でも驚くほど必死で、声が震えていた。
振り返った彼は、真っ直ぐで、汚れのない目をしていた。
「ん? どうした?」
その無邪気な視線に、胸の奥がチクリと痛む。
───あぁ、私、何考えてたんだろう。
彼をそんな目で見てしまった自分が、いつも優しい彼に甘えてばかりの自分が、恥ずかしくてたまらない。
「……ううん、なんでもない」
視線を落として俯くと、サエは少し困ったように眉を下げた。
「なんか元気ないな。もしかして、具合悪い?」
「違うよ、ただ……」
言葉を濁す私を、彼はしばらく見つめて考えこむ。
そして少しためらったあと、柔らかな声で囁いた。
「眠るまで、傍にいようか?」
その声は、まるで毛布みたいに温かく、思わず頬が緩む。
私は小さく首を縦に振った。
「うん、いてほしい」
サエは端正な顔をわずかに崩し、「じゃあ、ちょっとだけな」と言いながら、ベッドの端に腰を下ろした。
薄暗い照明の中で見る横顔は、昼間の海岸で見せていた笑顔よりもずっと柔らかく、胸がぎゅっと締め付けられる。
「眠れそう?」
「うん。もう少し、こっちに来ていい?」
少し驚いた表情の彼は、すぐに布団を広げ、距離を縮めてくれる。
近づくたび、心臓の鼓動が速くなる。
「なんか、今日はひよりらしくないな」
「……心配させて、ごめん。本当はね……今日は、もう少し一緒にいたかっただけなの」
正直な言葉に、サエは一瞬きょとんとする。
そして、ふっと表情を柔らかくした。
「そっか。ならよかった」
安堵したように息をつき、彼はゆっくりと腕を伸ばす。
躊躇うように、でも確かに私を抱き寄せる。
胸の奥で、ゆっくりと鼓動が重なる。
彼の体温は、思っていたよりもずっと高く、海風の冷たさを忘れさせるほどだった。
「実は……俺も、同じこと思ってた」
互いの温もりを確かめるように、指先を絡める。
時間はゆっくりと溶け、波の音も、風の音も、遠くに溶けていく。
ただ、彼の心音だけが、ずっと近くで聴こえていた。