第一章 問いかけ
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一目見て、その男が西国の侍だってのは、わかった。
どこかの大商人の放蕩息子みたいな、派手な藤色の長羽織を着て、情けないほど隙だらけの歩き方。
ぼくら東国出身の武士から見れば、理解できない…と言うか、同じ侍だなんて思いたくないやつらの一人だ。
近藤さんなんかから聞いてたけど、京都に来てから、こっちの武家どもがいかにも軟弱なのには、いつもあきれてた。
東国では、武士は倹約を旨として質実剛健に暮らすのが当然って感じだったけど、こっちのやつらはまるで商人だ。
剣術修行をうっちゃらかして、金勘定の話ばかりしてるから、畑に生えてる大根より斬るのが簡単そうなやつらばかりで、見てるといらつく。
武士ってのは、例えば土方さんみたいに、渋いけど洗練された色味の服を選ぶもんだと思うのに…。
東国じゃ女しか使わないような派手な色の服を、役者紛いにぞろりと着こなして気取ってるのを見ると、軽蔑の気持ちしか湧いてこない。
そいつはいかにも、そんな軽薄な西国武士の一人に見えた。
あんなのがゆうさんの想い人なら、ぼくは彼女の男の趣味を疑うよ。
その男は、ゆうさんの名前を呼びながら、速足で境内に入ってきた。
明らかに、彼女を探していた。
そして、そいつの目に映ったのは…。
浅葱羽織を着たぼくが、腰に脇差をさし直しながら、その場を去ろうとしている姿と、その後の拝殿に横たわった真っ青な顔のゆうさんだったわけだ。
さらに間の悪いことに、ゆうさんの赤い帯揚げが、倒れた拍子に飛び出して、遠目からは胸から血が流れているように見えないこともなかった。
「ゆうっ!!」
そいつは、逆上した。
まあ、ふつうにあの光景を見たら、ぼくが彼女を斬ったと思うよね。
だから、怒り狂って当然なんだけど。
でも正直、そいつが鯉口に手をかけた瞬間。バカだなあ…と思った。
あんたみたいに隙だらけの人が、新選組一番組長のぼくに勝てるわけないのに。
土方さんには、私闘はダメだって言われてるけど、あっちが先に抜いたんだから、斬っちゃってもいいよね?
そう思ったと同時に、長羽織に隠れて、見えなかった刀の柄が見えた。
薩摩拵え。
…って、まずいっ…。
ぼくはあわてて、飛びのいた。
一瞬後、ぼくがいた場所の真後ろにあった、木製の賽銭箱が、そいつの剣で叩き割られて、粉々になって吹っ飛んだ。
今の太刀をまともに受けてたら、ぼくは自分の剣ごと頭を割られて、確実に死んでた。
危ないなあ…。
こいつに隙があるのは当然だった。薩摩のやつらの剣はそもそも、自分を守る気がない、ただ攻撃のみしか考えてない剣だ。
おのれの力をすべて、相手の体を叩き割ることだけに注いでくる。
自分は傷つこうが死のうが、知ったこっちゃない。
「よくも…ゆうを…」
そいつは、憤怒で眼をぎらつかせながら、そう言った。
誤解だ、と言ってやってもよかったけど…やめておいた。
だって薩摩の奴らと剣を合せる機会って、なかなか無いから、惜しいんだもの。
なんだか今日って、おもしろいことばかり起きる。
でも、薩摩隼人との闘い方なら、近藤さんに教わってる。
ずっと試してみたかったんだ。…ちょっとドキドキする。
それにこいつ、ふつうの自顕流じゃない。
役人っぽい見た目と違って、正規に学ばず、場数だけは踏んだみたいなケンカ剣法だ。
こういうのは、道場じゃあっさり勝てるけど、真剣だと意外に手こずるから…面白いんだよね。
さて、どうやって斬ってやろう。
どこかの大商人の放蕩息子みたいな、派手な藤色の長羽織を着て、情けないほど隙だらけの歩き方。
ぼくら東国出身の武士から見れば、理解できない…と言うか、同じ侍だなんて思いたくないやつらの一人だ。
近藤さんなんかから聞いてたけど、京都に来てから、こっちの武家どもがいかにも軟弱なのには、いつもあきれてた。
東国では、武士は倹約を旨として質実剛健に暮らすのが当然って感じだったけど、こっちのやつらはまるで商人だ。
剣術修行をうっちゃらかして、金勘定の話ばかりしてるから、畑に生えてる大根より斬るのが簡単そうなやつらばかりで、見てるといらつく。
武士ってのは、例えば土方さんみたいに、渋いけど洗練された色味の服を選ぶもんだと思うのに…。
東国じゃ女しか使わないような派手な色の服を、役者紛いにぞろりと着こなして気取ってるのを見ると、軽蔑の気持ちしか湧いてこない。
そいつはいかにも、そんな軽薄な西国武士の一人に見えた。
あんなのがゆうさんの想い人なら、ぼくは彼女の男の趣味を疑うよ。
その男は、ゆうさんの名前を呼びながら、速足で境内に入ってきた。
明らかに、彼女を探していた。
そして、そいつの目に映ったのは…。
浅葱羽織を着たぼくが、腰に脇差をさし直しながら、その場を去ろうとしている姿と、その後の拝殿に横たわった真っ青な顔のゆうさんだったわけだ。
さらに間の悪いことに、ゆうさんの赤い帯揚げが、倒れた拍子に飛び出して、遠目からは胸から血が流れているように見えないこともなかった。
「ゆうっ!!」
そいつは、逆上した。
まあ、ふつうにあの光景を見たら、ぼくが彼女を斬ったと思うよね。
だから、怒り狂って当然なんだけど。
でも正直、そいつが鯉口に手をかけた瞬間。バカだなあ…と思った。
あんたみたいに隙だらけの人が、新選組一番組長のぼくに勝てるわけないのに。
土方さんには、私闘はダメだって言われてるけど、あっちが先に抜いたんだから、斬っちゃってもいいよね?
そう思ったと同時に、長羽織に隠れて、見えなかった刀の柄が見えた。
薩摩拵え。
…って、まずいっ…。
ぼくはあわてて、飛びのいた。
一瞬後、ぼくがいた場所の真後ろにあった、木製の賽銭箱が、そいつの剣で叩き割られて、粉々になって吹っ飛んだ。
今の太刀をまともに受けてたら、ぼくは自分の剣ごと頭を割られて、確実に死んでた。
危ないなあ…。
こいつに隙があるのは当然だった。薩摩のやつらの剣はそもそも、自分を守る気がない、ただ攻撃のみしか考えてない剣だ。
おのれの力をすべて、相手の体を叩き割ることだけに注いでくる。
自分は傷つこうが死のうが、知ったこっちゃない。
「よくも…ゆうを…」
そいつは、憤怒で眼をぎらつかせながら、そう言った。
誤解だ、と言ってやってもよかったけど…やめておいた。
だって薩摩の奴らと剣を合せる機会って、なかなか無いから、惜しいんだもの。
なんだか今日って、おもしろいことばかり起きる。
でも、薩摩隼人との闘い方なら、近藤さんに教わってる。
ずっと試してみたかったんだ。…ちょっとドキドキする。
それにこいつ、ふつうの自顕流じゃない。
役人っぽい見た目と違って、正規に学ばず、場数だけは踏んだみたいなケンカ剣法だ。
こういうのは、道場じゃあっさり勝てるけど、真剣だと意外に手こずるから…面白いんだよね。
さて、どうやって斬ってやろう。