紙風船
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そして、お芳ちゃんが来て、一か月くらいたって…ある日、その人がやって来た。
とっても真面目そうな、でもすごく疲れた感じの女の人。髪結いをやっている…という。
私は全然知らなかったけど、大久保さんは手を尽くして、その人を探していたらしい。
その人は…大久保さんの部下の人に連れられて、思いつめた様子で藩邸にやって来ると、お芳ちゃんを見るなり駆け寄って、抱きしめて、泣き出した。
「お芳…お芳…ごめんね…」
お芳ちゃんはびっくりして固まってた。
でも、少しずつ、記憶が戻ってきたみたい…。突然、
「お母ちゃん!…死んじゃったかと思ってた…」
と叫ぶと、やっぱり、大声で泣き出した。
なんでも、お芳ちゃんは二年前、禁門の変の大火事の時に迷子になって、それっきり、母親が方々を探し回っても見つからなかったんだという。
だから、母娘は二人とも、相手が焼け死んだと思い込んでいた。
母親は、大久保さんがお芳ちゃんを見つけてくれたことを、すごい感謝してて、何度も頭を下げたけど、大久保さんは
「薩摩藩に少しでもゆかりのある者であれば、便宜を図るのが、藩邸の仕事というものです。今回に限ったことではない」
と、なんかわざとらしいくらいクールに、建前っぽい言葉を並べていた。
「差し出たことを申すようだが…急に養い口がひとり増えて、女の腕一本で、暮らし向きが立ちますか。何か当方でお力添えできるようであれば…」
「大丈夫です。それに、あの…もうすぐ所帯をもつ予定なので…」
「ああ、同じ長屋の絵師と夫婦約束をしていると聞き及んでおります」
「よく御存じで…。お芳の実の父親なんですが…今まで修行中で、お師匠様の許可が下りなくて。
でも、これで親子3人、幸せになれます」
お芳ちゃんのお母さんは、本当に幸せそうに言った。
大久保さんにしてみれば、ほんとは援助、したかったんだろうな、お芳ちゃんと今後も会う口実になるからさ、って思ったけど…。
お母さん、もうすぐ結婚するんじゃ、ダメだよね、そんなこと。
そして、お芳ちゃんがお母さんと藩邸を出て行くことになった時…。
大久保さんは今までお芳ちゃんにあげた物を全部持たせてやりたかったみたいだけど、お母さんにそんなわけにいかないと、きっぱりと言われてしまった。
これから堅実な暮らしをしなければいけないから、大久保さんの好意はありがたいけれど、お芳ちゃんにはこの機会に、贅沢は忘れさせてやりたいと、お母さんは言った。
それで、せめても…ということで、お芳ちゃんにはいちばんいい着物をきせて、送り出すことになった。
そして、大久保さんは、大きな千代紙で作った猫の紙風船を、お芳ちゃんの手に握らせた。
すると、お芳ちゃんは、大久保さんにぎゅっと抱きついた。そして、
「ありがとう。大事にする。
いろいろいっぱいしてもらったことは、忘れないよ」
と、言ったけど…。
大久保さんは、
「なに、壊していい。子どもは、たくさんの人間と会って、別れて、成長していくものだ。
だから…私のことは、忘れてもいい」
と、笑って答えた。
お芳ちゃんが、後ろを何度も振り返りながら、藩邸から去って行った後…。
なんか、大久保さんは珍しくぼーっとしてた。
「…忘れていいなんて、本当は、そんなこと、ちっとも思っていないくせに…」
と、私は言った。
「なんだそれは」
「相手の負担にならないようにって…自分の心に嘘をつくようなこと、言わなくてもいいのに」
そんなことを言いながら、私、なんでこんなこと言ってるんだろうなあ…とも思った。
大久保さんは、ふん、と鼻でせせら笑った。
「わかったような口を利くな」
「…これでも、心配して言ってるんです」
「くだらん。第一、あの母娘が離れ離れになったのは、薩長が戦をしたからだぞ。
私はあの母娘にとってみれば疫病神のようなものだ。関わり合いにならん方がいい」
「…」
そんなことを、気にしてたんだ…。
私が思わず黙り込んでしまうと、大久保さんはそれを見て、やれやれと言うようなため息をついた。
それから、急に、からかうような表情になった。
「だいいち、慰めるなら、やり方が間違っているだろう」
「…どうすればいいんですか?」
「…私が代わりに、お芳のような子を産んでやる、くらいは言ってもらわんと興が湧かん」
「なっ…」
何なんですか、この人は。この超セクハラ発言はっ!
なんか、自分の顔、今ものすごく赤くなってるなって思いながら、ちょっとじたばたした感じだなって思いながら、
「大久保さんの子どもなんて産みませんからっ!!」
と私は叫んだ。
だけど大久保さんは、なぜだかものすごい勝ち誇った顔で、大笑いしてた。
なんか心配して損したなあ…と、すごい腹立ったんだけど…。
心の奥でちょっぴり、ほっとしたのは、なぜなんだろうな…。
とっても真面目そうな、でもすごく疲れた感じの女の人。髪結いをやっている…という。
私は全然知らなかったけど、大久保さんは手を尽くして、その人を探していたらしい。
その人は…大久保さんの部下の人に連れられて、思いつめた様子で藩邸にやって来ると、お芳ちゃんを見るなり駆け寄って、抱きしめて、泣き出した。
「お芳…お芳…ごめんね…」
お芳ちゃんはびっくりして固まってた。
でも、少しずつ、記憶が戻ってきたみたい…。突然、
「お母ちゃん!…死んじゃったかと思ってた…」
と叫ぶと、やっぱり、大声で泣き出した。
なんでも、お芳ちゃんは二年前、禁門の変の大火事の時に迷子になって、それっきり、母親が方々を探し回っても見つからなかったんだという。
だから、母娘は二人とも、相手が焼け死んだと思い込んでいた。
母親は、大久保さんがお芳ちゃんを見つけてくれたことを、すごい感謝してて、何度も頭を下げたけど、大久保さんは
「薩摩藩に少しでもゆかりのある者であれば、便宜を図るのが、藩邸の仕事というものです。今回に限ったことではない」
と、なんかわざとらしいくらいクールに、建前っぽい言葉を並べていた。
「差し出たことを申すようだが…急に養い口がひとり増えて、女の腕一本で、暮らし向きが立ちますか。何か当方でお力添えできるようであれば…」
「大丈夫です。それに、あの…もうすぐ所帯をもつ予定なので…」
「ああ、同じ長屋の絵師と夫婦約束をしていると聞き及んでおります」
「よく御存じで…。お芳の実の父親なんですが…今まで修行中で、お師匠様の許可が下りなくて。
でも、これで親子3人、幸せになれます」
お芳ちゃんのお母さんは、本当に幸せそうに言った。
大久保さんにしてみれば、ほんとは援助、したかったんだろうな、お芳ちゃんと今後も会う口実になるからさ、って思ったけど…。
お母さん、もうすぐ結婚するんじゃ、ダメだよね、そんなこと。
そして、お芳ちゃんがお母さんと藩邸を出て行くことになった時…。
大久保さんは今までお芳ちゃんにあげた物を全部持たせてやりたかったみたいだけど、お母さんにそんなわけにいかないと、きっぱりと言われてしまった。
これから堅実な暮らしをしなければいけないから、大久保さんの好意はありがたいけれど、お芳ちゃんにはこの機会に、贅沢は忘れさせてやりたいと、お母さんは言った。
それで、せめても…ということで、お芳ちゃんにはいちばんいい着物をきせて、送り出すことになった。
そして、大久保さんは、大きな千代紙で作った猫の紙風船を、お芳ちゃんの手に握らせた。
すると、お芳ちゃんは、大久保さんにぎゅっと抱きついた。そして、
「ありがとう。大事にする。
いろいろいっぱいしてもらったことは、忘れないよ」
と、言ったけど…。
大久保さんは、
「なに、壊していい。子どもは、たくさんの人間と会って、別れて、成長していくものだ。
だから…私のことは、忘れてもいい」
と、笑って答えた。
お芳ちゃんが、後ろを何度も振り返りながら、藩邸から去って行った後…。
なんか、大久保さんは珍しくぼーっとしてた。
「…忘れていいなんて、本当は、そんなこと、ちっとも思っていないくせに…」
と、私は言った。
「なんだそれは」
「相手の負担にならないようにって…自分の心に嘘をつくようなこと、言わなくてもいいのに」
そんなことを言いながら、私、なんでこんなこと言ってるんだろうなあ…とも思った。
大久保さんは、ふん、と鼻でせせら笑った。
「わかったような口を利くな」
「…これでも、心配して言ってるんです」
「くだらん。第一、あの母娘が離れ離れになったのは、薩長が戦をしたからだぞ。
私はあの母娘にとってみれば疫病神のようなものだ。関わり合いにならん方がいい」
「…」
そんなことを、気にしてたんだ…。
私が思わず黙り込んでしまうと、大久保さんはそれを見て、やれやれと言うようなため息をついた。
それから、急に、からかうような表情になった。
「だいいち、慰めるなら、やり方が間違っているだろう」
「…どうすればいいんですか?」
「…私が代わりに、お芳のような子を産んでやる、くらいは言ってもらわんと興が湧かん」
「なっ…」
何なんですか、この人は。この超セクハラ発言はっ!
なんか、自分の顔、今ものすごく赤くなってるなって思いながら、ちょっとじたばたした感じだなって思いながら、
「大久保さんの子どもなんて産みませんからっ!!」
と私は叫んだ。
だけど大久保さんは、なぜだかものすごい勝ち誇った顔で、大笑いしてた。
なんか心配して損したなあ…と、すごい腹立ったんだけど…。
心の奥でちょっぴり、ほっとしたのは、なぜなんだろうな…。