紙風船
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で、その四日後。
ほんとに、いきなりアポなしで、大久保さんに世話になりに来ましたって人間が現れた。
毎月ひとりはいるって聞いてたけど…本当にいるんだ…と思ってしまいました。
ただし、今回、いつもと違って…、それは五歳くらいの女の子だった。
どうやら、同じ町内の人に連れられて来たらしいけど、その人は藩邸の門番と押し問答した末に、女の子を置き去りにするようにして消えてしまったらしい。
何でも、町内でも評判の悪かった浮浪児が、どこからか拾ってきた女の子だそうだ。
で、彼女を育てていたその男の子は、先月流行り病で亡くなったらしい。
黒船が来て以来、日本ではコロリ(コレラ)とかほうそう(天然痘)とか労咳(結核)とか、いろんな病気が前よりひどく流行るようになったそうです。
中には、長崎に病人を乗せた外国船が着いた後に、九州や関西へ病気があっという間に広がり、何万人も死んだこともあったそうです。
攘夷に走る人の中には、そういう病気で肉親や知人を亡くして、外国を憎むようになったケースもあるらしい。
それに、外国船と貿易するようになってから、ものすごい勢いで物の値段が上がった。で、生活が苦しくなって子どもを捨てる人や、栄養失調で病気になる人も増えた。
そんなことも、異人嫌いが増える原因になっているんだって。
とにかく、その浮浪児って子が残した書付に、いざというときは大久保さんを頼れって書いてあったらしい。
大久保さんはその話を聞いて、いつものようにまったく心当たりがないらしく、首をかしげていた。
とりあえずその女の子を連れてこいと命じると、門番さんが、それはそれは貧しげな格好の女の子を連れてきた。
たぶん、ずっと風呂にも入ってないし、洗濯もしてない感じで…、とにかく、上から下まで真っ黒な子だった。
その子は、ガチガチに固くなって、ものすごい警戒した様子で、門番さんに連れられて来たんだけど、大久保さんを一目見ると、突然、
「兄んちゃんっ!」
と叫んで、大久保さんに飛びついた。
「…!」
大久保さんも、さすがにびっくりしたらしい。
まあ、確かに、子どもにいきなり飛びつかれるほど懐かれそうな人じゃないし。
でもすぐその子は、
「兄んちゃんじゃないっ。ふけてるっ…」
と言ってわあわあ泣き出した。
「しっ…失敬なっ!」
大久保さんは怒ったけど…まあ、その兄んちゃんってのが、その女の子を育ててた浮浪児のことなら、十四、五歳くらいだったそうなんで…そりゃ大久保さんの方がふけてると言われても、しかたない。
大久保さんは女中頭さんを呼んで、その子を風呂に入れて、新しい着物を着せてやれと言った。
その子がいなくなると、やれやれと肩をすくめて、門番さんにさらに詳しい話を聞き始めたんだけど…。
亡くなった浮浪児の子について、門番さんが
「近所の噂では、島抜けをして京都に流れて来たらしいとのことです」
と言うと、顔色が変わった。
「どの島だ…?」
「はっきりしませんが、喜界島…という噂だそうです」
門番さんがそう言うと、大久保さんは門番さんが握っていた書付をひったくった。
例の、浮浪児の子が残したって書付だ。
ものすごく真剣な顔でその書付に目を通すと、大久保さんは吐き捨てるように小さく
「…くそっ!」
と、呟いた。そして、その書付を壁に叩きつけようとしかけて…途中でやめた。
「…何て書いてあったんですか?」
と…私は思わず聞いちゃったけど…聞いてもいいのかな?
「…」
大久保さんは壁をにらんだまま、しばらく黙っていた。
それから、大きく息を吐くと、言った。
「この、先月死んだという小僧は…おそらく…私の父の浮気相手の子だ」
「…」
やっぱ…聞くんじゃなかった…かも。
「余計な気を回すなよ。私も初めてあの話を聞いた時は、自分の親父ながら叩っ斬ってやろうかと思ったが…。
今はさすがにもうそんな青臭いことを言うような年でもない。
それにあの娘には落ち度のない話だ。事情がわかった以上、こちらで世話をしないわけにもいかんな」
そう言いながら、もう一度、大きなため息をつく。
「あの…」
「何だ?」
「じゃあ、私の部屋に泊めればいいよ。
昼間、大久保さんがお仕事してる間、私が相手するから」
…余計なおせっかいだったかな?でも、こういう時ぐらい、役に立ちたいよね。
大久保さんはしばらく考えてたけど、一言だけ、
「…頼む」
と答えた。
ほんとに、いきなりアポなしで、大久保さんに世話になりに来ましたって人間が現れた。
毎月ひとりはいるって聞いてたけど…本当にいるんだ…と思ってしまいました。
ただし、今回、いつもと違って…、それは五歳くらいの女の子だった。
どうやら、同じ町内の人に連れられて来たらしいけど、その人は藩邸の門番と押し問答した末に、女の子を置き去りにするようにして消えてしまったらしい。
何でも、町内でも評判の悪かった浮浪児が、どこからか拾ってきた女の子だそうだ。
で、彼女を育てていたその男の子は、先月流行り病で亡くなったらしい。
黒船が来て以来、日本ではコロリ(コレラ)とかほうそう(天然痘)とか労咳(結核)とか、いろんな病気が前よりひどく流行るようになったそうです。
中には、長崎に病人を乗せた外国船が着いた後に、九州や関西へ病気があっという間に広がり、何万人も死んだこともあったそうです。
攘夷に走る人の中には、そういう病気で肉親や知人を亡くして、外国を憎むようになったケースもあるらしい。
それに、外国船と貿易するようになってから、ものすごい勢いで物の値段が上がった。で、生活が苦しくなって子どもを捨てる人や、栄養失調で病気になる人も増えた。
そんなことも、異人嫌いが増える原因になっているんだって。
とにかく、その浮浪児って子が残した書付に、いざというときは大久保さんを頼れって書いてあったらしい。
大久保さんはその話を聞いて、いつものようにまったく心当たりがないらしく、首をかしげていた。
とりあえずその女の子を連れてこいと命じると、門番さんが、それはそれは貧しげな格好の女の子を連れてきた。
たぶん、ずっと風呂にも入ってないし、洗濯もしてない感じで…、とにかく、上から下まで真っ黒な子だった。
その子は、ガチガチに固くなって、ものすごい警戒した様子で、門番さんに連れられて来たんだけど、大久保さんを一目見ると、突然、
「兄んちゃんっ!」
と叫んで、大久保さんに飛びついた。
「…!」
大久保さんも、さすがにびっくりしたらしい。
まあ、確かに、子どもにいきなり飛びつかれるほど懐かれそうな人じゃないし。
でもすぐその子は、
「兄んちゃんじゃないっ。ふけてるっ…」
と言ってわあわあ泣き出した。
「しっ…失敬なっ!」
大久保さんは怒ったけど…まあ、その兄んちゃんってのが、その女の子を育ててた浮浪児のことなら、十四、五歳くらいだったそうなんで…そりゃ大久保さんの方がふけてると言われても、しかたない。
大久保さんは女中頭さんを呼んで、その子を風呂に入れて、新しい着物を着せてやれと言った。
その子がいなくなると、やれやれと肩をすくめて、門番さんにさらに詳しい話を聞き始めたんだけど…。
亡くなった浮浪児の子について、門番さんが
「近所の噂では、島抜けをして京都に流れて来たらしいとのことです」
と言うと、顔色が変わった。
「どの島だ…?」
「はっきりしませんが、喜界島…という噂だそうです」
門番さんがそう言うと、大久保さんは門番さんが握っていた書付をひったくった。
例の、浮浪児の子が残したって書付だ。
ものすごく真剣な顔でその書付に目を通すと、大久保さんは吐き捨てるように小さく
「…くそっ!」
と、呟いた。そして、その書付を壁に叩きつけようとしかけて…途中でやめた。
「…何て書いてあったんですか?」
と…私は思わず聞いちゃったけど…聞いてもいいのかな?
「…」
大久保さんは壁をにらんだまま、しばらく黙っていた。
それから、大きく息を吐くと、言った。
「この、先月死んだという小僧は…おそらく…私の父の浮気相手の子だ」
「…」
やっぱ…聞くんじゃなかった…かも。
「余計な気を回すなよ。私も初めてあの話を聞いた時は、自分の親父ながら叩っ斬ってやろうかと思ったが…。
今はさすがにもうそんな青臭いことを言うような年でもない。
それにあの娘には落ち度のない話だ。事情がわかった以上、こちらで世話をしないわけにもいかんな」
そう言いながら、もう一度、大きなため息をつく。
「あの…」
「何だ?」
「じゃあ、私の部屋に泊めればいいよ。
昼間、大久保さんがお仕事してる間、私が相手するから」
…余計なおせっかいだったかな?でも、こういう時ぐらい、役に立ちたいよね。
大久保さんはしばらく考えてたけど、一言だけ、
「…頼む」
と答えた。