私が薩摩藩邸に行く、と決まると、私はまた部屋を出て、さっきいた部屋で待つように言われた。

大久保さんは、まだお仕事が残ってたみたい。


なのは、いいけど。


大久保さんは、いくら待っても、来てくれなかった。

お茶、もう何杯飲んだかな…。

まあ、なんか忙しそうな人ではあったけどさ…。

何か会合とか言ってたよね。
ずっと、高杉さんとかと話し込んでるみたいで、もうずいぶん待ってるけど、全然終わりそうにないや。


なんか、薩摩藩邸に来いってあれだけ強引に決めたわりには、そのあと放置って、よくわかんないです。

でも、今日はいっぱい歩いて、足がだるいからちょうどいいかな、とも思った。
これから薩摩藩邸に行くんだから、今のうちにちゃんと体力回復しとかないといけない。

何か、大久保さんって、どんどん先に歩いちゃって、小娘遅いぞとか怒鳴りそうなイメージがある。
ただでさえ、藩邸に行くのって気が進まないのに、罵倒されながら歩くなんてやだ。


それにしても…。
今日はいろんなことがあって…なんか、どっと疲れた…かも。

あちこち歩き回って、脚も疲れたけど…。
気持ちも…混乱してるっつか…すっごい疲れた…。


「姉さん…」

と、慎ちゃんの呼ぶ声で気が付いた。
いつの間にか、うつらうつらしてたみたい。

慎ちゃんが、なんか少しあせっているような顔をして、部屋をのぞいていた。

「…姉さん、お待たせして本当に申し訳ないっス。お迎えが来たんで呼びに来たっス」

「お迎え?」

慎ちゃんは、なぜか、ぷっと頬を膨らませて、面白くなさそうな顔をしていた。

「薩摩藩邸からのお迎えっス。大久保さんも門のところで待ってるっス」

そう言って、くるっと後ろを向くと、廊下を歩きだしてしまう。なんか急いでるみたい。
ちょっとイラついてるみたいだけど、大久保さんにイジワルでも言われたのかな。

それにしても、お迎えって何だろ。

とにかく待たせちゃいけないよね。
きっと、慎ちゃんが大久保さんに怒られる。

私は、あわててスクバと竹刀をつかむと、慎ちゃんの後姿を追った。