第一章 それぞれの思惑
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「お前がこれを持っていたのか…いったい何を知っている?」
「拾ったんですよ。ゆうさんが来た日に、あんまり珍妙な娘なんで、ためしに聞き込みしてみたんです。で、ゆうさんの歩いた道筋を逆にたどって鳥居の前にたどり着いたら、それが落ちてました。
まあ…それ以外にも、いくつか知っていることはありますが、もうお渡ししたんだから、詳しいことは勘弁してください」
と、悪びれた様子もなく微笑む。
そして、笑顔のまま、
「それより…うちの副長が、ゆうさんを捕らえて石を抱かせろと言っているんです。それで、困ってしまいまして…」
と、とんでもなく残虐なセリフを口走った。
その途端、沖田は後ろに五尺ほど飛びのいた。
上目づかいに、こちらをなじるような目つきをする。
「…いやだなあ。ゆうさんの名前を出した途端、その殺気ですか。
言っているのは僕じゃないですから。今日は示現流とやる気はありませんよ」
「ゆうは…あいつは何も知らん。責めても何も出んぞ」
沖田は、また少しそっぽを向いて、軽くふくれっ面をしてみせた。
子どもが、大人はわかっていないと言う時のような顔だ。
「…そんなことくらい、土方さんだってわかっています。だから困るんだ。
ぼくも同じことを言ったんですよ。だって、女の子を石責めにするなんて、ぼくのするような仕事じゃないと思いませんか。
拷問なんて、剣で斬り合うのに比べたら、全然美しくないですよね」
「…」
「だけど…土方さんは言うんですよ。
薩摩の動きがおかしいが、藩士を捕らえると問題になるし、どうせ何もしゃべらないだろうって…。
でも、あの娘なら、無宿者(戸籍がない人間)だから、石責めで両脚の骨を砕こうが水責めで溺れさせようが罪にはならないし…」
「だから、あいつは何も知らんと言っているだろうが!」
「…あの子は何も知らないでしょうね。でも、あの子を痛めつけると脅せば、あなたが喋る」
「…!」
「いちおう、今、どこにいるかは分からないことになっている坂本さんとお仲間も、あの子の身代わりになれと言ったら、出て来てくれるかもしれませんね」
「…お前らは…どこまで…」
「うーん…。それが、こういうことを考えているの、新選組だけじゃないみたいなんですよ。
見廻組を始め、いろんな連中が、最近の薩摩の動きは変だぞ、探り出せって色めき立ってまして…。
あいつらだったら、ゆうさんを捕まえて、指一本ずつ切って、薩摩藩邸に送って来るくらいやりかねないって…これは近藤さんが言ってるんですけどね」
じわり、と体に汗が伝うのがわかった。
「なぜ、それを私に言う…?」
「言ったでしょう。ぼくは剣を使う仕事以外には、興味がないんだ」
そう言って、男のくせに、花のように笑う。
「だから、できればゆうさんを京都から逃がしちゃってくれると助かるなあ…なんて思ってるんですよ。大久保さん。
でも、ぼくがこれを言ったってことは、他の新選組の連中には内緒ですからねっ」
そう、なぜか甘ったれたようなねだり口調で言うと、後は用がないとでもいうように、くるりと踵を返して、歩き去って行った。
…。
何だ、今のは。
…だが、あいつと話した時に感じた薄ら寒さは、その後、しばらく消えなかった。
「拾ったんですよ。ゆうさんが来た日に、あんまり珍妙な娘なんで、ためしに聞き込みしてみたんです。で、ゆうさんの歩いた道筋を逆にたどって鳥居の前にたどり着いたら、それが落ちてました。
まあ…それ以外にも、いくつか知っていることはありますが、もうお渡ししたんだから、詳しいことは勘弁してください」
と、悪びれた様子もなく微笑む。
そして、笑顔のまま、
「それより…うちの副長が、ゆうさんを捕らえて石を抱かせろと言っているんです。それで、困ってしまいまして…」
と、とんでもなく残虐なセリフを口走った。
その途端、沖田は後ろに五尺ほど飛びのいた。
上目づかいに、こちらをなじるような目つきをする。
「…いやだなあ。ゆうさんの名前を出した途端、その殺気ですか。
言っているのは僕じゃないですから。今日は示現流とやる気はありませんよ」
「ゆうは…あいつは何も知らん。責めても何も出んぞ」
沖田は、また少しそっぽを向いて、軽くふくれっ面をしてみせた。
子どもが、大人はわかっていないと言う時のような顔だ。
「…そんなことくらい、土方さんだってわかっています。だから困るんだ。
ぼくも同じことを言ったんですよ。だって、女の子を石責めにするなんて、ぼくのするような仕事じゃないと思いませんか。
拷問なんて、剣で斬り合うのに比べたら、全然美しくないですよね」
「…」
「だけど…土方さんは言うんですよ。
薩摩の動きがおかしいが、藩士を捕らえると問題になるし、どうせ何もしゃべらないだろうって…。
でも、あの娘なら、無宿者(戸籍がない人間)だから、石責めで両脚の骨を砕こうが水責めで溺れさせようが罪にはならないし…」
「だから、あいつは何も知らんと言っているだろうが!」
「…あの子は何も知らないでしょうね。でも、あの子を痛めつけると脅せば、あなたが喋る」
「…!」
「いちおう、今、どこにいるかは分からないことになっている坂本さんとお仲間も、あの子の身代わりになれと言ったら、出て来てくれるかもしれませんね」
「…お前らは…どこまで…」
「うーん…。それが、こういうことを考えているの、新選組だけじゃないみたいなんですよ。
見廻組を始め、いろんな連中が、最近の薩摩の動きは変だぞ、探り出せって色めき立ってまして…。
あいつらだったら、ゆうさんを捕まえて、指一本ずつ切って、薩摩藩邸に送って来るくらいやりかねないって…これは近藤さんが言ってるんですけどね」
じわり、と体に汗が伝うのがわかった。
「なぜ、それを私に言う…?」
「言ったでしょう。ぼくは剣を使う仕事以外には、興味がないんだ」
そう言って、男のくせに、花のように笑う。
「だから、できればゆうさんを京都から逃がしちゃってくれると助かるなあ…なんて思ってるんですよ。大久保さん。
でも、ぼくがこれを言ったってことは、他の新選組の連中には内緒ですからねっ」
そう、なぜか甘ったれたようなねだり口調で言うと、後は用がないとでもいうように、くるりと踵を返して、歩き去って行った。
…。
何だ、今のは。
…だが、あいつと話した時に感じた薄ら寒さは、その後、しばらく消えなかった。