第九章 それぞれの選択
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気配だけの小娘は、あの時と同じように、何やらやけに怒っていた。
私の背中に向かって、偉そうにほざいてみせた。
-- 私がいちばん大事なのは、正助君なんだから、あとの人のことなんかどうでもいいのよっ。文句ある?
そんなことを言いに出て来たのか。
お前がそういう女だということぐらい、とうの昔から知っている。
…私は自嘲気味に思った。
だが、結局私はお前を不幸にするだけで、何の役にも立たなかったぞ。
-- なんで人の役に立つことばっかり考えてんのよ。順番間違ってるわよ。自分のことを考えるのが先でしょうが!
私が身勝手に動けば、薩摩は負けて朝敵にされるかも知れんというのに、のんびり自分のことなど考えていられるものか。
-- 世界中が正助君の敵になったって、みんな滅びちゃったって、正助君さえ幸せなら、私は大満足なの。
それで炎に巻かれてお前が滅んでいては、私の幸せもへったくれもないだろうが。
-- まず、自分が何をしたいか、それを最初に考えなさいよ。答えは簡単でしょ?
お前に何がわかる。簡単に答えが出せれば、苦労はせん。
するとなぜか、後にいるはずの小娘が、機嫌をそこねてぷいと頬を膨らませるのがわかる気がした。
-- もう。馬鹿。
お前がひとを馬鹿と呼ぶか。たいがいにしろ。
あの小娘は…この期に及んで、生霊になってまで、私に説教をするつもりか?
なぜかは知らない。
その時、突然、何の根拠もなく、あの娘はまだ生きている、生きて私の名を呼んでいる、と思った。
赤子のように、自分の身を守るすべを一切わきまえぬあの馬鹿娘は…。
ただ、ただ、ひとつの名前を呼ぶしか、己を助ける道を知らん。
今、あの娘は炎の中で、私の名前を呼んで、助けてくれと泣いている。
理由はわからないが、そう、確信した。
まったく…なんてやつだ。
ため息も出んぞ。
小娘め。何を考えて戻って来たかなど、私の知ったことではないが…。
あれの故意ではないにせよ…どうしてこう、あの娘は、ひとの人生の正念場ばかりを選んで、未来から飛んで来るんだ?
こちらの負担が最高潮に達した頃合いを見計らったように登場して、最後の藁の一本のように、ひとがかろうじて心の中に保っていた虚勢の殻を、あっさりとぶっ潰してくれる。
あれだけはた迷惑なおなごは他におらん。
だがまあ…あの馬鹿娘が、あまりに見事にひとを翻弄してくれるので…。
この最悪の状況で…青二才のように甘っちょろい感傷にふけっていた先ほどまでの自分が、なぜかひどく滑稽なものに思えてきた。
滑稽…というより、片腹痛い。我ながらよくもまあ、これだけ衒いもなく、こっ恥ずかしい繰り言を…。
思わず口の端が上がる。
これは自暴自棄になっている、ということか?
それとも…。
私の背中に向かって、偉そうにほざいてみせた。
-- 私がいちばん大事なのは、正助君なんだから、あとの人のことなんかどうでもいいのよっ。文句ある?
そんなことを言いに出て来たのか。
お前がそういう女だということぐらい、とうの昔から知っている。
…私は自嘲気味に思った。
だが、結局私はお前を不幸にするだけで、何の役にも立たなかったぞ。
-- なんで人の役に立つことばっかり考えてんのよ。順番間違ってるわよ。自分のことを考えるのが先でしょうが!
私が身勝手に動けば、薩摩は負けて朝敵にされるかも知れんというのに、のんびり自分のことなど考えていられるものか。
-- 世界中が正助君の敵になったって、みんな滅びちゃったって、正助君さえ幸せなら、私は大満足なの。
それで炎に巻かれてお前が滅んでいては、私の幸せもへったくれもないだろうが。
-- まず、自分が何をしたいか、それを最初に考えなさいよ。答えは簡単でしょ?
お前に何がわかる。簡単に答えが出せれば、苦労はせん。
するとなぜか、後にいるはずの小娘が、機嫌をそこねてぷいと頬を膨らませるのがわかる気がした。
-- もう。馬鹿。
お前がひとを馬鹿と呼ぶか。たいがいにしろ。
あの小娘は…この期に及んで、生霊になってまで、私に説教をするつもりか?
なぜかは知らない。
その時、突然、何の根拠もなく、あの娘はまだ生きている、生きて私の名を呼んでいる、と思った。
赤子のように、自分の身を守るすべを一切わきまえぬあの馬鹿娘は…。
ただ、ただ、ひとつの名前を呼ぶしか、己を助ける道を知らん。
今、あの娘は炎の中で、私の名前を呼んで、助けてくれと泣いている。
理由はわからないが、そう、確信した。
まったく…なんてやつだ。
ため息も出んぞ。
小娘め。何を考えて戻って来たかなど、私の知ったことではないが…。
あれの故意ではないにせよ…どうしてこう、あの娘は、ひとの人生の正念場ばかりを選んで、未来から飛んで来るんだ?
こちらの負担が最高潮に達した頃合いを見計らったように登場して、最後の藁の一本のように、ひとがかろうじて心の中に保っていた虚勢の殻を、あっさりとぶっ潰してくれる。
あれだけはた迷惑なおなごは他におらん。
だがまあ…あの馬鹿娘が、あまりに見事にひとを翻弄してくれるので…。
この最悪の状況で…青二才のように甘っちょろい感傷にふけっていた先ほどまでの自分が、なぜかひどく滑稽なものに思えてきた。
滑稽…というより、片腹痛い。我ながらよくもまあ、これだけ衒いもなく、こっ恥ずかしい繰り言を…。
思わず口の端が上がる。
これは自暴自棄になっている、ということか?
それとも…。