第八章 小娘、逃げ回る
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私は、何も考えず、南へ、寺田屋のある方向に逃げていた。
あちらへ行っても、もう龍馬さん達はいないことは、わかっていたのに。
北へ、長州藩邸に向かえば、もしかしたら桂さんが京都に戻ってたかもしれない。
その先の、二本松の薩摩藩邸に向かうのが、いちばん賢かったかもしれない。
でも、どちらの藩邸も、伏見藩邸の前を通って行く道しか、私は知らなかった。
そしてそっちの道は、もう天高く黒い煙と赤い炎があがっていて、幕府の軍隊がいっぱいいた。
冬の北風にあおられて、藩邸で上がった炎は、なんかものすごい勢いで周囲の家々に燃え移っていこうとしていた。
未来だったら…こんなに簡単に町に火が燃え広がることはないんだろうと思う。
木と紙でしかできてない家々は…スプリンクラーとか消火器とか、ぜんぜん置いてない昔の家は…。
冬の乾いた風にあおられると、次々と燃え上がり、まるで火が意思を持って跳ね回り、走り回っているみたいに見えた。
伏見の町の人たちは、もうほとんどが逃げちゃってたらしかった。
でも、わずかに残った逃げ遅れた人たちは、やっぱり南に走っていた。
私は、何も考えず、その人たちの後を追いかけたんだけど…。
走っている途中で、ごうっ、と強い風が吹いて、道の右側から炎の柱が高く上がった。
思わずそっちを見て、足がすくんだ。
道の右側には、川沿いに建つ家々が並んでいたんだけど…。
川側、つまりこっちから見て家々の裏手は、向こう岸からの火の粉を浴びて、強い川風にあおられて燃え上がっていた。
私の側から見えている壁だけが、どうにか燃えずに立っていただけだったんだ。
その、最後に残っていた壁が、風に倒されて、どうっと火が押し寄せてきた。
倒れた建物で道がふさがれて、私はその先に行けなくなった。
火の向こう側に、私の先を走っていた人たちが見えたけど…。
もう追いかけることはできなかった。
私だけが、炎の中に残された。
どうしていいかわかんなかったけど…。
とにかく、まだ燃えていない方、燃えていない方へ、私は逃げた。
でも、どんどん火事はひどくなって…。
それでも、無理にでも先へ進もうと思ったけど…。
いつの間にか、周り中が、火の海になってた。
顔が炎に照らされて、かあっと熱くなる。
むせるような、煙と焦げた匂い。
そして…。
また、目の前に吹き上がった炎の壁を見て…私は息を飲んだ。
その炎の壁に、今まさに飲み込まれて行こうとしている建物は…。
寺田屋だった。
建物の窓から、ちろりちろりと赤い火の舌が這い出てきて、壁を舐めるように伝わったかと思うと、大きな炎がごうっと噴き出してきて、寺田屋はあっと言う間に炎の中に見えなくなった。
私が、寺田屋の皆を訪ねた時に、覗き込んだ玄関。
龍馬さんや、皆がよく取っ組み合いをしてた二階の部屋。
おかみさんに火を借りて、お茶を淹れた台所。
すべてが、瞬く間に、赤い炎の中で真っ黒にゆがんで、崩れ落ちていった。
「いやっ!!」
私は叫んでいた。
せっかく帰ってきたのに…。
やっと帰ってきたのに…。
どうして…!?
あちらへ行っても、もう龍馬さん達はいないことは、わかっていたのに。
北へ、長州藩邸に向かえば、もしかしたら桂さんが京都に戻ってたかもしれない。
その先の、二本松の薩摩藩邸に向かうのが、いちばん賢かったかもしれない。
でも、どちらの藩邸も、伏見藩邸の前を通って行く道しか、私は知らなかった。
そしてそっちの道は、もう天高く黒い煙と赤い炎があがっていて、幕府の軍隊がいっぱいいた。
冬の北風にあおられて、藩邸で上がった炎は、なんかものすごい勢いで周囲の家々に燃え移っていこうとしていた。
未来だったら…こんなに簡単に町に火が燃え広がることはないんだろうと思う。
木と紙でしかできてない家々は…スプリンクラーとか消火器とか、ぜんぜん置いてない昔の家は…。
冬の乾いた風にあおられると、次々と燃え上がり、まるで火が意思を持って跳ね回り、走り回っているみたいに見えた。
伏見の町の人たちは、もうほとんどが逃げちゃってたらしかった。
でも、わずかに残った逃げ遅れた人たちは、やっぱり南に走っていた。
私は、何も考えず、その人たちの後を追いかけたんだけど…。
走っている途中で、ごうっ、と強い風が吹いて、道の右側から炎の柱が高く上がった。
思わずそっちを見て、足がすくんだ。
道の右側には、川沿いに建つ家々が並んでいたんだけど…。
川側、つまりこっちから見て家々の裏手は、向こう岸からの火の粉を浴びて、強い川風にあおられて燃え上がっていた。
私の側から見えている壁だけが、どうにか燃えずに立っていただけだったんだ。
その、最後に残っていた壁が、風に倒されて、どうっと火が押し寄せてきた。
倒れた建物で道がふさがれて、私はその先に行けなくなった。
火の向こう側に、私の先を走っていた人たちが見えたけど…。
もう追いかけることはできなかった。
私だけが、炎の中に残された。
どうしていいかわかんなかったけど…。
とにかく、まだ燃えていない方、燃えていない方へ、私は逃げた。
でも、どんどん火事はひどくなって…。
それでも、無理にでも先へ進もうと思ったけど…。
いつの間にか、周り中が、火の海になってた。
顔が炎に照らされて、かあっと熱くなる。
むせるような、煙と焦げた匂い。
そして…。
また、目の前に吹き上がった炎の壁を見て…私は息を飲んだ。
その炎の壁に、今まさに飲み込まれて行こうとしている建物は…。
寺田屋だった。
建物の窓から、ちろりちろりと赤い火の舌が這い出てきて、壁を舐めるように伝わったかと思うと、大きな炎がごうっと噴き出してきて、寺田屋はあっと言う間に炎の中に見えなくなった。
私が、寺田屋の皆を訪ねた時に、覗き込んだ玄関。
龍馬さんや、皆がよく取っ組み合いをしてた二階の部屋。
おかみさんに火を借りて、お茶を淹れた台所。
すべてが、瞬く間に、赤い炎の中で真っ黒にゆがんで、崩れ落ちていった。
「いやっ!!」
私は叫んでいた。
せっかく帰ってきたのに…。
やっと帰ってきたのに…。
どうして…!?