第八章 小娘、逃げ回る
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私は、向こう岸の薩摩藩邸の建物と、少し離れた場所をぐるりと囲む葵の幟を見て、そのまま川辺に立ち尽くしてしまった。
藩邸のみんなは…中にいるんだろうか?
こちらから見える藩邸の船着き場の周りには、人の気配がないけれど…。
みんな、逃げたんだろうか。
川側は裏手だから、門の方は見えない。
私は心配でたまらなくなった。
その時、すぐ近くで、打ち上げ花火みたいな音が響いた。
どん、ひゅるひゅるひゅる、どおおおんっ!
私は思わず、耳をふさいで、体をかがめた。
何…今の?
あたりを見回しても、どこからした音だったのかわかんなかったけど。
また藩邸に目を戻して、私は息を飲んだ。
船着き場の建物が、半分、無くなってた。
残り半分も、ほとんど残骸になって、中の木の板や柱が壊れてむき出しになって…。
煙を上げて、燃え始めてた。
そして、また、ひゅるひゅるっ、どおおおん!と音がして…。
こっちからだと上の方しか見えない奥座敷の、屋根が吹き飛んだ。
黒い瓦の破片が、黒い煙とともにばらばらと天高く舞い上がり、同時に、真っ赤な火柱が吹き上がった。
わあっと、何百人もの人が叫ぶような大きな声が上がり、葵の幟がどんどんと藩邸の中へ入って行く。
同時に、あちこちから煙が上がり、あっと言う間に藩邸は火に包まれた。
私は、自分の見ているものが信じられなくて…。
もう茫然として…しばらく藩邸の燃える姿に見入ってしまった。
藩邸の人たちは…どうなったの?
目をこらしたんだけど…やっぱり薩摩の人の姿は見えない。
時代劇に出てくる戦の場面と、おんなじ格好の幕府兵が、出たり入ったりしているばかりだった。
私が、ぼーっと立ってたら、川の向こうの兵隊に気づかれた。
セーラー服がいけなかったのかもしんない。
なんか数人が相談すると、こっちに向けて鉄砲を撃った。
ぱんっ、と少し間の抜けた音がして、弾は外れたけど、私のすぐそばにあった木の枝に当たって、折れた木の枝が降って来た。
私はあわてて、建物の陰に隠れた。
もしかしたら、今、私に気づいた兵隊が、こっちに来るかもしれない。
…そう思ったけど…。
藩邸に残っている人がいないか、心配で、その場を動くことができなかった。
どうしたらいいか、わかんない。
あいかわらず、薩摩の人の姿はぜんぜん見えない。
みんな、あそこにいるの?
それとも、いないの?
私が見ている間にも、幕府の兵に放たれた火は大きくひろがって、藩邸全体を包んでいた。
時々何かが爆発するような音がして、藩邸の建物は次々と崩れていった。
炎は、周りの民家にも燃え移って、向こう岸の町は、火の海になろうとしていた。
突然、後ろから、腕をつかまれた。
「何したはります。ここにいたら死んでしまう」
「え?」
ふり返ると、見覚えのある顔が、私をのぞき込んでた。絵草紙屋の店員の女の子だ。
「見とぅみ、あないに火の粉が。じきにここかて火の海や」
女の子は、私たちのすぐそばの民家のひさしを指さした。
強い川風に乗って、狭い水路を渡り、たくさんの火の粉が飛んで来て、今にもこちら側の岸に燃え移ろうとしていた。
「でも…薩摩藩邸に行かないと…」
「何言うたはる。もう建物の形もあらへんやない。あんたも早よお逃げ」
「いやっ!」
私は思わず、彼女の手をふり払ってた。
せっかく…やっとの思いで…ここまで来たのに…。
薩摩藩邸が燃えちゃったら、私、どこに行けばいいの?
そんなことをしても、無駄だとはわかってたけど…。
私は、藩邸に向かう橋の方に、走っていた。
そして、無理にでも先へ進もうと思ったけど…。
橋のあたりは、もうこちらの岸の家々も、燃え始めていた。
そして、向こう岸では、葵の幟が次々と橋に集まって来て、こっちに渡って来ようとしているのが見えた。
私は思わず立ち止まり、別の道に向かって逃げた。
でも…どこへ?
私、どこへ逃げればいいの?
なんで、こんなことになったの?
なぜ…?
本当は、わかってた。
何度も、言われてた。
京都の町は危険になったから…って。
あれは単に、幕府の追及が厳しくなったとか、町中で斬り合いが増えたとか、そういうことだけじゃなかったんだ。
あの人がそう言って、私を未来に帰そうとしたのだって、こうなるからってわかってたからだ。
戦が…幕府との戦が、始まったんだ。
藩邸のみんなは…中にいるんだろうか?
こちらから見える藩邸の船着き場の周りには、人の気配がないけれど…。
みんな、逃げたんだろうか。
川側は裏手だから、門の方は見えない。
私は心配でたまらなくなった。
その時、すぐ近くで、打ち上げ花火みたいな音が響いた。
どん、ひゅるひゅるひゅる、どおおおんっ!
私は思わず、耳をふさいで、体をかがめた。
何…今の?
あたりを見回しても、どこからした音だったのかわかんなかったけど。
また藩邸に目を戻して、私は息を飲んだ。
船着き場の建物が、半分、無くなってた。
残り半分も、ほとんど残骸になって、中の木の板や柱が壊れてむき出しになって…。
煙を上げて、燃え始めてた。
そして、また、ひゅるひゅるっ、どおおおん!と音がして…。
こっちからだと上の方しか見えない奥座敷の、屋根が吹き飛んだ。
黒い瓦の破片が、黒い煙とともにばらばらと天高く舞い上がり、同時に、真っ赤な火柱が吹き上がった。
わあっと、何百人もの人が叫ぶような大きな声が上がり、葵の幟がどんどんと藩邸の中へ入って行く。
同時に、あちこちから煙が上がり、あっと言う間に藩邸は火に包まれた。
私は、自分の見ているものが信じられなくて…。
もう茫然として…しばらく藩邸の燃える姿に見入ってしまった。
藩邸の人たちは…どうなったの?
目をこらしたんだけど…やっぱり薩摩の人の姿は見えない。
時代劇に出てくる戦の場面と、おんなじ格好の幕府兵が、出たり入ったりしているばかりだった。
私が、ぼーっと立ってたら、川の向こうの兵隊に気づかれた。
セーラー服がいけなかったのかもしんない。
なんか数人が相談すると、こっちに向けて鉄砲を撃った。
ぱんっ、と少し間の抜けた音がして、弾は外れたけど、私のすぐそばにあった木の枝に当たって、折れた木の枝が降って来た。
私はあわてて、建物の陰に隠れた。
もしかしたら、今、私に気づいた兵隊が、こっちに来るかもしれない。
…そう思ったけど…。
藩邸に残っている人がいないか、心配で、その場を動くことができなかった。
どうしたらいいか、わかんない。
あいかわらず、薩摩の人の姿はぜんぜん見えない。
みんな、あそこにいるの?
それとも、いないの?
私が見ている間にも、幕府の兵に放たれた火は大きくひろがって、藩邸全体を包んでいた。
時々何かが爆発するような音がして、藩邸の建物は次々と崩れていった。
炎は、周りの民家にも燃え移って、向こう岸の町は、火の海になろうとしていた。
突然、後ろから、腕をつかまれた。
「何したはります。ここにいたら死んでしまう」
「え?」
ふり返ると、見覚えのある顔が、私をのぞき込んでた。絵草紙屋の店員の女の子だ。
「見とぅみ、あないに火の粉が。じきにここかて火の海や」
女の子は、私たちのすぐそばの民家のひさしを指さした。
強い川風に乗って、狭い水路を渡り、たくさんの火の粉が飛んで来て、今にもこちら側の岸に燃え移ろうとしていた。
「でも…薩摩藩邸に行かないと…」
「何言うたはる。もう建物の形もあらへんやない。あんたも早よお逃げ」
「いやっ!」
私は思わず、彼女の手をふり払ってた。
せっかく…やっとの思いで…ここまで来たのに…。
薩摩藩邸が燃えちゃったら、私、どこに行けばいいの?
そんなことをしても、無駄だとはわかってたけど…。
私は、藩邸に向かう橋の方に、走っていた。
そして、無理にでも先へ進もうと思ったけど…。
橋のあたりは、もうこちらの岸の家々も、燃え始めていた。
そして、向こう岸では、葵の幟が次々と橋に集まって来て、こっちに渡って来ようとしているのが見えた。
私は思わず立ち止まり、別の道に向かって逃げた。
でも…どこへ?
私、どこへ逃げればいいの?
なんで、こんなことになったの?
なぜ…?
本当は、わかってた。
何度も、言われてた。
京都の町は危険になったから…って。
あれは単に、幕府の追及が厳しくなったとか、町中で斬り合いが増えたとか、そういうことだけじゃなかったんだ。
あの人がそう言って、私を未来に帰そうとしたのだって、こうなるからってわかってたからだ。
戦が…幕府との戦が、始まったんだ。