第七章 小娘、遁走する
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高杉さんと桂さん…。
そうだね。
私、あの二人にはいっぱいお礼を言わないといけない。
でも、慶応2年にまた戻れたとして、お礼を言っても、何のことか二人にはわかんないよね。
あ…つか、あの時点だと二人とも長州に帰っちゃってんのか。
長州で戦があるって言ってたよね。
あれ…?
「だけど…なんで、桂さんだけなの?」
私は、何気なく、思った疑問を口にした。
「え?」
「そりゃ、高杉さんは私に、困ったときは桂さんか手の者を探せって言ったけどさ…。
つか、なんでそもそも高杉さんは、自分じゃ全然動かないで、こんなたいへんなことを桂さんひとりに全部やらせちゃったの?」
「それは…」
カナコは言葉につまって、助けを求めるようにちらりと和田さんを見た。
和田さんが不思議そうな顔をした。
「杉浦さんは、ご存じないんですか?高杉さんは、翌年の1867年にはもう…」
「わ、わ、ちょっと待ったっ!!」
と、カナコが和田さんにすがりついて止めた。それから、あわてたように、ぱっと離れる。
「1867年にはもう…って、え?それってつまり…」
和田さんは、はっと気づいたようにカナコと私の顔を見比べた。
「申し訳ない…。まさか知らないとは…」
「ごめんなさい。言っておくべきだった。…この子、運命的に無知なのよ。日本史に関しては」
え…?
なんか嫌な予感。
「まさか…あの…。
長州で戦をするって言ってたけど…。高杉さん…その戦で…」
それを聞いてカナコは、がくって頭を下げると、ふううっと大きくため息をついた。
それから、肩を落として、きっぱりと言った。
「戦は…勝ったよ。あの人たち。それは問題なかったんだけど…。
高杉さん、あんたと別れた翌年には、結核で亡くなってる。
あんたと最後に会った時には、自分の命がもう長くないことは知ってた。
もちろん、桂さんも知ってたから…高杉さんの代わりに、桂さんは、あんたの面倒をすべて引き受けたわけよ」
「そんな…」
私は、高杉さんと最後に会った時の、言葉を思い出した。
--- 本当は、俺が最後まで面倒を見てやりたいが、残念ながら、時間がない。まあ、ゆうに会うのも、これが最後かも知れないからな。
--- 今日言ったことは、ちゃんと覚えておけ。で…幸せになれよ。
あれって…。会うのが最後って…。
そういう意味だったんだ…。
幸せになれよって…。
自分が死んじゃうから…。
私がどうなるか、最後までは見れないから…そう言ったんだ。
カナコは言った。
「ま、桂さんは大久保さんと違って、あんたにベタ惚れってわけじゃなかったから。
ここまで手のかかること、よほどの理由がなきゃ、やらなかったと思うよ。
…親友の高杉さんの遺志じゃなかったらね」
カナコは私の顔を見た。
きっとすごい深刻そうな顔をしてたんだろう。カナコは、急いで、おどけた口調で付け足した。
「あんたってさぁ…。
なんか志士の人たちにも言われてたみたいだけど…相当罪作りな女だよね。
いくら自分は先が長くないからって、ふつうはここまで恋敵に塩を贈るような真似、しないよ。
高杉さんも、よっぽど、あんたに幸せになって欲しかったんだねえ。
それとも、高杉晋作ってのは、それだけでっかい男だったってことかもしんないし。
桂さんは、高杉さんのそういうところが好きだから、協力したんだろうとは思うけどね」
「そんな…私…」
なんか、もう、わけがわかんなくなった。
高杉さん、そんなに重い病気だったなんて…。
そんなたいへんな時に、私なんかの心配してくれてたんだ…。
和田さんが、とりなすように言った。
「まあ、杉浦さんがあの二人に恩返ししたいなら…それは簡単ですよ。
いや…口で言うのは簡単でも、実際は難しいかな。
彼らが願ったように、杉浦さんが幸せになればいい」
「そういうこと」
と、カナコも言った。
「私も、そうやすやすと『いつまでも幸せに暮らしました』ってゴールにはたどりつけない状況だとは、わかってるけどね。
それでも、試したいんでしょ、あんたは?」
「…やる」
「その意気。さすがあたしの親友」
そうだね。
私、あの二人にはいっぱいお礼を言わないといけない。
でも、慶応2年にまた戻れたとして、お礼を言っても、何のことか二人にはわかんないよね。
あ…つか、あの時点だと二人とも長州に帰っちゃってんのか。
長州で戦があるって言ってたよね。
あれ…?
「だけど…なんで、桂さんだけなの?」
私は、何気なく、思った疑問を口にした。
「え?」
「そりゃ、高杉さんは私に、困ったときは桂さんか手の者を探せって言ったけどさ…。
つか、なんでそもそも高杉さんは、自分じゃ全然動かないで、こんなたいへんなことを桂さんひとりに全部やらせちゃったの?」
「それは…」
カナコは言葉につまって、助けを求めるようにちらりと和田さんを見た。
和田さんが不思議そうな顔をした。
「杉浦さんは、ご存じないんですか?高杉さんは、翌年の1867年にはもう…」
「わ、わ、ちょっと待ったっ!!」
と、カナコが和田さんにすがりついて止めた。それから、あわてたように、ぱっと離れる。
「1867年にはもう…って、え?それってつまり…」
和田さんは、はっと気づいたようにカナコと私の顔を見比べた。
「申し訳ない…。まさか知らないとは…」
「ごめんなさい。言っておくべきだった。…この子、運命的に無知なのよ。日本史に関しては」
え…?
なんか嫌な予感。
「まさか…あの…。
長州で戦をするって言ってたけど…。高杉さん…その戦で…」
それを聞いてカナコは、がくって頭を下げると、ふううっと大きくため息をついた。
それから、肩を落として、きっぱりと言った。
「戦は…勝ったよ。あの人たち。それは問題なかったんだけど…。
高杉さん、あんたと別れた翌年には、結核で亡くなってる。
あんたと最後に会った時には、自分の命がもう長くないことは知ってた。
もちろん、桂さんも知ってたから…高杉さんの代わりに、桂さんは、あんたの面倒をすべて引き受けたわけよ」
「そんな…」
私は、高杉さんと最後に会った時の、言葉を思い出した。
--- 本当は、俺が最後まで面倒を見てやりたいが、残念ながら、時間がない。まあ、ゆうに会うのも、これが最後かも知れないからな。
--- 今日言ったことは、ちゃんと覚えておけ。で…幸せになれよ。
あれって…。会うのが最後って…。
そういう意味だったんだ…。
幸せになれよって…。
自分が死んじゃうから…。
私がどうなるか、最後までは見れないから…そう言ったんだ。
カナコは言った。
「ま、桂さんは大久保さんと違って、あんたにベタ惚れってわけじゃなかったから。
ここまで手のかかること、よほどの理由がなきゃ、やらなかったと思うよ。
…親友の高杉さんの遺志じゃなかったらね」
カナコは私の顔を見た。
きっとすごい深刻そうな顔をしてたんだろう。カナコは、急いで、おどけた口調で付け足した。
「あんたってさぁ…。
なんか志士の人たちにも言われてたみたいだけど…相当罪作りな女だよね。
いくら自分は先が長くないからって、ふつうはここまで恋敵に塩を贈るような真似、しないよ。
高杉さんも、よっぽど、あんたに幸せになって欲しかったんだねえ。
それとも、高杉晋作ってのは、それだけでっかい男だったってことかもしんないし。
桂さんは、高杉さんのそういうところが好きだから、協力したんだろうとは思うけどね」
「そんな…私…」
なんか、もう、わけがわかんなくなった。
高杉さん、そんなに重い病気だったなんて…。
そんなたいへんな時に、私なんかの心配してくれてたんだ…。
和田さんが、とりなすように言った。
「まあ、杉浦さんがあの二人に恩返ししたいなら…それは簡単ですよ。
いや…口で言うのは簡単でも、実際は難しいかな。
彼らが願ったように、杉浦さんが幸せになればいい」
「そういうこと」
と、カナコも言った。
「私も、そうやすやすと『いつまでも幸せに暮らしました』ってゴールにはたどりつけない状況だとは、わかってるけどね。
それでも、試したいんでしょ、あんたは?」
「…やる」
「その意気。さすがあたしの親友」