第一章 それぞれの思惑

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寺田屋事件当日昼間。京都某所。

【主劇】ゆう

最近、大久保さんに内緒で通っちゃっているところがある。

きっと、見つかったら怒られるなあ…。つか、すっごい嫌な顔をされるに違いない。

今日も、お琴さんちに行くって嘘ついて来ちゃったけど…。バレるのは時間の問題だよね。
どうしよう。
やっぱ、正直に話した方がいいかなあ…。


きっかけは…お芳ちゃんという五歳の女の子が藩邸に来た時のことだったから…もうけっこう前になるのか。

お芳ちゃんは、育ててくれてた男の子が流り病で死んじゃったんて、藩邸で一時期お世話をすることになったんだけど…。
その男の子というのが、大久保さんのお父さんが流罪になった時に、その島の女の人との間に生まれた子どもだった。

なんか、その男の子のことが気になってしまった。
大久保さんが、一度も「弟」という単語を使おうとしないから。
ふつうなら、そんな子の話を聞けば、私が思いもよらないくらい、行き届いた手配をする人なのに、なぜかこの件だけは、何もしようとしないから。

だから、つい、お芳ちゃんから、住んでいた町の名前を聞きだしたんだけど…。でも、その後、しばらくは悩んじゃって、そのままにしてた。

大久保さんに内緒で、その町を訪ねたのは最近のこと。
弟さんのお墓と、亡くなった場所は、わりと簡単に見つかった。
その町の近辺では、そういう行くあてのない子どもが病気になると、あるお寺が引き取って面倒を見るってしきたりになってたからだ。

私は、本当に何でも軽く考えて、行動しちゃうところがある。
いつも、行動してから反省するんだけど…。

その時も、私は、弟さんのお墓を見つけたら、お掃除して、お花あげて…くらいにしか考えていなかった。

でも、それってすっごい甘かった。
その町は、京都でも特に貧しい地域で…、町に近づくだけで雰囲気がだんだん怖くなるし、ものすごい臭いがしてくる…そんなところだった。
そして、お寺に行って、さらにびっくりした。

そこには、病気の子どもがたくさんいて、苦しそうな泣き声であふれていた。
どの子もすごい痩せてて、汚れてて、なんだかとっても悲しそうな顔してて…。
それなのに、世話する人の手は全然足りなくて…。
私、京都にこんな場所があるって、知らなかったよ。

大久保さんが、黒船が来てから世の中が荒れて、貧乏な人や可哀相な子どもが増えたとは言ってたけど…。
具体的にその子どもたちを見るまで、実感がないというか、どういうことなのか、ちゃんとわかってなかった。

そんな、負い目もあったせいなのかな…お寺の人には最初止められちゃったんだけど…。
つい、お手伝い、してしまいました。
私のできることなんて、そうそうないんだけどさ。洗いものとか、お掃除とか、子どもの身の回りのお世話とか…そんな感じ。

きっと大久保さんに言えば、もっとすごい何かをしてくれるとは思うんだけど…いきさつがいきさつだけに、何だか言い出せなくて。


今日も、私は、お寺に来ていろいろとお手伝いをしているんだけど…。

今、流行っている病気なんだろうか。赤い発疹ができている子が多い。
特に、赤ちゃんや小さい子は、高い熱を出して、すっごく苦しそうにしてる…。
こんこんと、咳の止まらない子もいる。ぐったりとして、全然動かなくなっちゃった子もいる。

私は、必死になって、一日中、お寺の中をくるくると走り回って、子どもたちの汚れものを洗ったり、高熱で動けない子どもたちの体を拭いてあげたりした。
苦しい苦しいと、咳をしながら抱きついてくる子の背中をなでながら、四半刻くらい、いろんな歌であやしたりした。

そんなくらいじゃ、全然助けにはならないとわかってるんだけど…。

どうしたらいいんだろうな。
やっぱ、相談した方がいいんだろうな。

夕方、すっかり疲れてしまい、とぼとぼと藩邸への道を歩きながら、私は、大久保さんにどうやって打ち明けようか、ずっと悩んでた。
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