第五章 ファントム
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カナコはしばらく、あっけにとられた様子で、私の顔をながめていた。
それから、カナコは半分他のこと考えながら…という感じで、こう言った。
「あんた…本当にわかってんの?
未来に希望を持ってた幕末のころより、理想と現実の差をつきつけられながら、一から作り上げていく明治の方が、精神的に百倍はきついよ。
たとえ好きな人と一緒に暮らせても、精神的につらいことが続きすぎて、幸せなんて無いかもしれないよ?
それに、時代の流れに首つっこんで歴史を変えようとしても、うまく行かないどころか、あんたが殺されることだって、あるんだよ?」
「そんなの、どうでもいい」
「どうでもいいって…」
「命の危険のあることぐらい、あの時代にいたときからわかってる。
私は、大久保さんと一緒にいられれば、それで幸せなの。
そうじゃなければ、いくら安全で豊かな時代だって、つらくてつらくてたまんないの。
…だから、何があっても戻る手段を探す」
カナコは、なぜかとっても悲しそうな顔をした。
「それってさ…この時代の何もかも…家族も友人も全部捨てて…ってことになるけど…いいの?」
私は、思わずカナコの顔に見入ってしまった。
まだ…帰れる手段なんか全然わかんない段階なのに…なぜかカナコはすごく真剣な…それでいてすごくつらそうな顔をしてた。
「…ごめん…。でも…やっぱり気持ちは変わんない…」
「…」
カナコはしばらく黙って私の顔を見ていた。
それから、大きく長く息を吐いた。
「わかった…。
これ以上、黙ってるのは…私のワガママだね…。
あんたと別れたくない、危ない目に遭わせたくないってのは…ほんとの友情じゃないよね」
それから、イライラしたように、自分の頭をぐじゃぐじゃっと掻いた。
「あんたさぁ…すっごい肝心のこと、忘れてるっしょ?」
カナコは、ちらっと上目づかいに私を見た。
この辺、ほんと、お琴さんに似ている。
「え?」
「私の目から見ても、あんたは一回消えて、また現れた」
「それがどうしたの?」
「言ったでしょ?
あんたが消えて、あたしは付近を捜した。その時点で、すでに神社は無かった」
「そりゃそうだよ。だって、大久保さんが神社移設させたのは、明治時代だもん」
カナコは肩をすくめた。
「ほんと、わかってないよねえ…」
「何が?」
「じゃ、そもそもあんたはどうやって消えたのさ?神社がないのに」
「…あ」
「…Elementary, my dear (初歩的なことだよ、杉浦君)」
とカナコは自慢げに鼻をひくつかせた。
「ほんと、高杉さんの気持ちわかるわ。
なんか『カナちゃん、後は任せた』ってセリフが聞こえてくる気がする。
こっちは、百何十年たっても、相変わらず女房役でこき使う気ですか?って思うけどさ」
「…へ?」
なんでいきなり高杉さんの話が…。
「あんたは、すっかり忘れてるみたいだけどさ。
高杉さんの言いたかった嫁の心得ってのはさ、こうなわけ。
『大久保さんって人は、嫁を実家に追い返したら、二度と戻って来れないように道を叩き壊しちまうような人だ。
だから、常日頃から、別の帰り道をこっそり見つけておけ。わかったなっ。
なに、帰っちまいさえすれば、二度と追い返されはしないさ。内心は嬉しがってるだろうからな』
なんだそうだけどね」
「…は…」
た…高杉さん…。
そんなこと、百何十年もたってから言われても。
っつか…。
「なんで、そんなこと、カナコが知ってんのよ」
それから、カナコは半分他のこと考えながら…という感じで、こう言った。
「あんた…本当にわかってんの?
未来に希望を持ってた幕末のころより、理想と現実の差をつきつけられながら、一から作り上げていく明治の方が、精神的に百倍はきついよ。
たとえ好きな人と一緒に暮らせても、精神的につらいことが続きすぎて、幸せなんて無いかもしれないよ?
それに、時代の流れに首つっこんで歴史を変えようとしても、うまく行かないどころか、あんたが殺されることだって、あるんだよ?」
「そんなの、どうでもいい」
「どうでもいいって…」
「命の危険のあることぐらい、あの時代にいたときからわかってる。
私は、大久保さんと一緒にいられれば、それで幸せなの。
そうじゃなければ、いくら安全で豊かな時代だって、つらくてつらくてたまんないの。
…だから、何があっても戻る手段を探す」
カナコは、なぜかとっても悲しそうな顔をした。
「それってさ…この時代の何もかも…家族も友人も全部捨てて…ってことになるけど…いいの?」
私は、思わずカナコの顔に見入ってしまった。
まだ…帰れる手段なんか全然わかんない段階なのに…なぜかカナコはすごく真剣な…それでいてすごくつらそうな顔をしてた。
「…ごめん…。でも…やっぱり気持ちは変わんない…」
「…」
カナコはしばらく黙って私の顔を見ていた。
それから、大きく長く息を吐いた。
「わかった…。
これ以上、黙ってるのは…私のワガママだね…。
あんたと別れたくない、危ない目に遭わせたくないってのは…ほんとの友情じゃないよね」
それから、イライラしたように、自分の頭をぐじゃぐじゃっと掻いた。
「あんたさぁ…すっごい肝心のこと、忘れてるっしょ?」
カナコは、ちらっと上目づかいに私を見た。
この辺、ほんと、お琴さんに似ている。
「え?」
「私の目から見ても、あんたは一回消えて、また現れた」
「それがどうしたの?」
「言ったでしょ?
あんたが消えて、あたしは付近を捜した。その時点で、すでに神社は無かった」
「そりゃそうだよ。だって、大久保さんが神社移設させたのは、明治時代だもん」
カナコは肩をすくめた。
「ほんと、わかってないよねえ…」
「何が?」
「じゃ、そもそもあんたはどうやって消えたのさ?神社がないのに」
「…あ」
「…Elementary, my dear (初歩的なことだよ、杉浦君)」
とカナコは自慢げに鼻をひくつかせた。
「ほんと、高杉さんの気持ちわかるわ。
なんか『カナちゃん、後は任せた』ってセリフが聞こえてくる気がする。
こっちは、百何十年たっても、相変わらず女房役でこき使う気ですか?って思うけどさ」
「…へ?」
なんでいきなり高杉さんの話が…。
「あんたは、すっかり忘れてるみたいだけどさ。
高杉さんの言いたかった嫁の心得ってのはさ、こうなわけ。
『大久保さんって人は、嫁を実家に追い返したら、二度と戻って来れないように道を叩き壊しちまうような人だ。
だから、常日頃から、別の帰り道をこっそり見つけておけ。わかったなっ。
なに、帰っちまいさえすれば、二度と追い返されはしないさ。内心は嬉しがってるだろうからな』
なんだそうだけどね」
「…は…」
た…高杉さん…。
そんなこと、百何十年もたってから言われても。
っつか…。
「なんで、そんなこと、カナコが知ってんのよ」