第五章 ファントム
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「…」
私は、しばらく黙っていた。
「ゆう…」
「…やっぱり、わかんないよ…」
体ががくがく震えるのがわかった。
でも、泣いちゃダメだと思った。
幕末から戻って来てからずっと、私、泣いてばっかりだ。
もう、こんなの、嫌だ。
「だから…」
「わかんない。そんなに私に会いたいならさ、なんで帰したりしたのよ」
「それは猩紅熱が、幕末ではまだ危険な病気で…」
「そんな話をしてるんじゃないっ」
カナコに怒鳴るのは、違うとはわかってた。
でも、何だかもう、腹が立って、腹が立って、誰かにぶつけないと気が済まない感じになっちゃってた。
「だって、そんなことしたって、無駄じゃん」
「え?」
「たとえうちの学校にどんな仕掛けをしたって、しょせん京都合宿の時に私が飛んでく先は、過去の大久保さんのところでしょ?
明治の大久保さんが、私に再会できるわけじゃないじゃん。なんでわざわざ、そんな面倒なことしてんのよ」
カナコは私の顔を、びっくりしたように見てた。
「あんたって…時々、妙に鋭いね…」
「鋭いわけじゃないわよ。怒ってるの。
私は、あの人に幸せになってほしかったの。ずっとそばに置いてほしかったの。
なのに、何よ。自分からひとをふっておいて、無理やり追い返しておいて…。
何でそんなにいつまでも未練ひきずってんのよ。
ずいぶん回りくどいことを色々してくれたもんだけどさ。
あの人のやったことを一言でまとめれば、要は…運が良ければ、いつか遠い先に、赤ん坊の時の私をチラっと見れるかもって…。
ただ、それだけ待って…待ち続けて…って、もう、ただ待ってただけじゃない。
そりゃ頭のいい人だから、後からいくらでも、屁理屈で理由づけできるようにはしてあるよ。
あの人も自分じゃカナコが言ったみたいな理由でやってんだって、信じてたと思う。
でもさ。あれだけ毎日、あの回りくどいやり方に付き合わされたんだから、わかるけど…。
要は、私と会えなくてさびしいから、とりあえず私と関係ありそうなことやってみたってだけなのよ。あの人の場合。
勝手に私の身に着けるものを手配して、藤の意匠入れて、こいつは私のもんだって印つけてたのとおんなじで…。
私の産まれる町とか、通う学校とかを勝手に選んで、同じ名前付けて、あいつは私のもんだって百何十年も前から所有印つけてくれちゃってさ。
この手のやたらと手数のかかったワガママってさ、あの人の場合、私がちょっと長めに藩邸空けると、しょっちゅうやってたわけ。
いくら格好つけたって、要は会えなくてスネてたことくらいバレバレなのよ。まったく素直じゃないんだからってしか、受け取れないよ」
私はそう言ってから、改めて気付いた。
私の胸がこんなにざわざわするのは…大久保さんが、素直に気持ちを伝えようとしてくれてないからだって。
学校の件は…動機はわかるけど…何か変だ。いくらなんでも、やりすぎな気がする。
何か、当時の…亡くなる1年前くらいの大久保さんに、そこまでさびしくなるような、辛いことがあったんだろうか?
「カナコ、教えて」
「えっ…」
一瞬、カナコは、逃げ出したいような顔をした。
そんなに、怖い顔、してたのかな、私。
「教えてよ。大久保さん、どんなふうに殺されたの?どうして殺されなくちゃいけなかったの?」
「う…」
カナコは、言葉に詰まった。ひどい質問をしてるなってのは、わかった。
「半次郎さんは、そばにいなかったの?…まさか、一緒に殺されちゃったとか、ないよね…?」
カナコは、もう本当にいたたまれないような顔をしていた。
無意識に、きょろきょろと逃げ場を探してたけど…あきらめたように、肩を落とした。
カナコは、息を吐きながら…下を向いたまま言った。
「…半次郎さんは…前の年に死んでる」
「えっ」
「半次郎さんだけじゃない。…西郷さんも、桂さんも、同じ年に死んでる。
桂さんは病死だけど…。
西郷さんと半次郎さんは、戦争で死んだ。
鹿児島で大きな戦争があって、何千人も、亡くなったんだよ。
たぶん、当時の世間の人は…大久保さんが殺したようなもんだって、考えてたと思う」
私は、しばらく黙っていた。
「ゆう…」
「…やっぱり、わかんないよ…」
体ががくがく震えるのがわかった。
でも、泣いちゃダメだと思った。
幕末から戻って来てからずっと、私、泣いてばっかりだ。
もう、こんなの、嫌だ。
「だから…」
「わかんない。そんなに私に会いたいならさ、なんで帰したりしたのよ」
「それは猩紅熱が、幕末ではまだ危険な病気で…」
「そんな話をしてるんじゃないっ」
カナコに怒鳴るのは、違うとはわかってた。
でも、何だかもう、腹が立って、腹が立って、誰かにぶつけないと気が済まない感じになっちゃってた。
「だって、そんなことしたって、無駄じゃん」
「え?」
「たとえうちの学校にどんな仕掛けをしたって、しょせん京都合宿の時に私が飛んでく先は、過去の大久保さんのところでしょ?
明治の大久保さんが、私に再会できるわけじゃないじゃん。なんでわざわざ、そんな面倒なことしてんのよ」
カナコは私の顔を、びっくりしたように見てた。
「あんたって…時々、妙に鋭いね…」
「鋭いわけじゃないわよ。怒ってるの。
私は、あの人に幸せになってほしかったの。ずっとそばに置いてほしかったの。
なのに、何よ。自分からひとをふっておいて、無理やり追い返しておいて…。
何でそんなにいつまでも未練ひきずってんのよ。
ずいぶん回りくどいことを色々してくれたもんだけどさ。
あの人のやったことを一言でまとめれば、要は…運が良ければ、いつか遠い先に、赤ん坊の時の私をチラっと見れるかもって…。
ただ、それだけ待って…待ち続けて…って、もう、ただ待ってただけじゃない。
そりゃ頭のいい人だから、後からいくらでも、屁理屈で理由づけできるようにはしてあるよ。
あの人も自分じゃカナコが言ったみたいな理由でやってんだって、信じてたと思う。
でもさ。あれだけ毎日、あの回りくどいやり方に付き合わされたんだから、わかるけど…。
要は、私と会えなくてさびしいから、とりあえず私と関係ありそうなことやってみたってだけなのよ。あの人の場合。
勝手に私の身に着けるものを手配して、藤の意匠入れて、こいつは私のもんだって印つけてたのとおんなじで…。
私の産まれる町とか、通う学校とかを勝手に選んで、同じ名前付けて、あいつは私のもんだって百何十年も前から所有印つけてくれちゃってさ。
この手のやたらと手数のかかったワガママってさ、あの人の場合、私がちょっと長めに藩邸空けると、しょっちゅうやってたわけ。
いくら格好つけたって、要は会えなくてスネてたことくらいバレバレなのよ。まったく素直じゃないんだからってしか、受け取れないよ」
私はそう言ってから、改めて気付いた。
私の胸がこんなにざわざわするのは…大久保さんが、素直に気持ちを伝えようとしてくれてないからだって。
学校の件は…動機はわかるけど…何か変だ。いくらなんでも、やりすぎな気がする。
何か、当時の…亡くなる1年前くらいの大久保さんに、そこまでさびしくなるような、辛いことがあったんだろうか?
「カナコ、教えて」
「えっ…」
一瞬、カナコは、逃げ出したいような顔をした。
そんなに、怖い顔、してたのかな、私。
「教えてよ。大久保さん、どんなふうに殺されたの?どうして殺されなくちゃいけなかったの?」
「う…」
カナコは、言葉に詰まった。ひどい質問をしてるなってのは、わかった。
「半次郎さんは、そばにいなかったの?…まさか、一緒に殺されちゃったとか、ないよね…?」
カナコは、もう本当にいたたまれないような顔をしていた。
無意識に、きょろきょろと逃げ場を探してたけど…あきらめたように、肩を落とした。
カナコは、息を吐きながら…下を向いたまま言った。
「…半次郎さんは…前の年に死んでる」
「えっ」
「半次郎さんだけじゃない。…西郷さんも、桂さんも、同じ年に死んでる。
桂さんは病死だけど…。
西郷さんと半次郎さんは、戦争で死んだ。
鹿児島で大きな戦争があって、何千人も、亡くなったんだよ。
たぶん、当時の世間の人は…大久保さんが殺したようなもんだって、考えてたと思う」