第五章 ファントム
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私は土蔵を走り出ると、裏へ回った。
そこはちょうど、温室の入口になってた。
特に用がない生徒は、めったに来ない一角。
温室の入口は、カギがかかっていなかったから、簡単に押し開けることができた。
ふわっと、さらに濃厚な香りが広がる。
月の光に照らされて、一面に、白いユリの花が咲いていた。
後から、あわてて追いかけてきた二人が、花を見て、立ち止まる気配がした。
「ああ…これか」と、スズミが言った。「ここの温室の入口近くには、白百合を植えとかないと、たたりがあるとか言われてんだよね」
「ご冗談を」
と、カナコが即座に否定した。
「その伝説、できたの昭和になってからだから。
もともとは、単に創設者が、ここにはいつも百合を植えておけって、指示してたってだけの話らしいよ。
例の掛け軸から考えると…あの品物が置いてあった元の屋敷にも、きっと同じような温室があって、いつも百合が咲いていたんだろうね」
…。
何よ、それ。
「…どういうことか、わかんない」
と、私はつぶやいた。
「え…」と、カナコが聞き返した。
「…なんで、私の持ち物が、うちの学校の倉庫にしまわれてるわけよ…」
がんばって抑えようとしたけど、声が震えた。
「…七不思議に、なんで女子剣道部の京都合宿とかが、入ってんのよ!」
「気づいてんでしょ、ほんとは」と、カナコが言った。
私は、カナコをにらんだ。
にらんでも…しかたないのに。
「…あんたは、あんたが幕末へ、飛んで行きさえしなければって…思われているんじゃないかって、気に病んでたよね。
あんたとさえ会わなければ、こんな想いはしなくて済んだのに…、ひどい女だと思われてるんじゃないかって。
だけど、実際は違ってた。
この街に、東京って名前をつけて。
あんたの母校と同じ名前の、蒼凛高校を作って。
女子剣道部を作って。
剣道が得意だったり、杉浦ゆうって名前だったりする女の子は、簡単に入学できる仕組みを作って。
そして、毎年、京都に合宿に行かせるようにした。
…あんたが幕末にタイムスリップしたこと自体は、何か、得体のしれない力のしわざだったかもしれない。
でも、タイムスリップした女子高生が、杉浦ゆうという女の子だったのは、偶然でもなんでもない。
あの日、京都で、幕末にタイムスリップする女の子が、必ずあんたであるように、最初っから、仕組んでおいた人がいる。
その人にとって、過去の自分の前に現れる女の子は、あんた以外では絶対ダメだった。
自分が恋に落ちるのは、どうしても、杉浦ゆうって子じゃなきゃ、我慢できなかったんだよ」
そこはちょうど、温室の入口になってた。
特に用がない生徒は、めったに来ない一角。
温室の入口は、カギがかかっていなかったから、簡単に押し開けることができた。
ふわっと、さらに濃厚な香りが広がる。
月の光に照らされて、一面に、白いユリの花が咲いていた。
後から、あわてて追いかけてきた二人が、花を見て、立ち止まる気配がした。
「ああ…これか」と、スズミが言った。「ここの温室の入口近くには、白百合を植えとかないと、たたりがあるとか言われてんだよね」
「ご冗談を」
と、カナコが即座に否定した。
「その伝説、できたの昭和になってからだから。
もともとは、単に創設者が、ここにはいつも百合を植えておけって、指示してたってだけの話らしいよ。
例の掛け軸から考えると…あの品物が置いてあった元の屋敷にも、きっと同じような温室があって、いつも百合が咲いていたんだろうね」
…。
何よ、それ。
「…どういうことか、わかんない」
と、私はつぶやいた。
「え…」と、カナコが聞き返した。
「…なんで、私の持ち物が、うちの学校の倉庫にしまわれてるわけよ…」
がんばって抑えようとしたけど、声が震えた。
「…七不思議に、なんで女子剣道部の京都合宿とかが、入ってんのよ!」
「気づいてんでしょ、ほんとは」と、カナコが言った。
私は、カナコをにらんだ。
にらんでも…しかたないのに。
「…あんたは、あんたが幕末へ、飛んで行きさえしなければって…思われているんじゃないかって、気に病んでたよね。
あんたとさえ会わなければ、こんな想いはしなくて済んだのに…、ひどい女だと思われてるんじゃないかって。
だけど、実際は違ってた。
この街に、東京って名前をつけて。
あんたの母校と同じ名前の、蒼凛高校を作って。
女子剣道部を作って。
剣道が得意だったり、杉浦ゆうって名前だったりする女の子は、簡単に入学できる仕組みを作って。
そして、毎年、京都に合宿に行かせるようにした。
…あんたが幕末にタイムスリップしたこと自体は、何か、得体のしれない力のしわざだったかもしれない。
でも、タイムスリップした女子高生が、杉浦ゆうという女の子だったのは、偶然でもなんでもない。
あの日、京都で、幕末にタイムスリップする女の子が、必ずあんたであるように、最初っから、仕組んでおいた人がいる。
その人にとって、過去の自分の前に現れる女の子は、あんた以外では絶対ダメだった。
自分が恋に落ちるのは、どうしても、杉浦ゆうって子じゃなきゃ、我慢できなかったんだよ」