第五章 ファントム
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私とカナコが長持の中を調べている間、スズミは、小さな床の間に飾られている掛け軸をじっと見ていた。なんか、漢詩みたいのが書いてあるらしい。
「読める?」と、カナコは聞いた。
「当然でしょ」と、スズミは言った。「…と言っても、なんか固有名詞みたいのあって…人名かなあ」
「いいから、わかるところだけ、読んでよ」と、カナコは言った。
「えーと…。書いたのは、生徒手帳に載ってる方の、表の創立者さんだと思う。たぶん。
で…えーと…。甲東君とかいう人が遭難したけど、家族もいない人なので、屋敷を政府が召し上げて外国公館に下げ渡すことになったけれど…。
このまま彼の思い出の品がすべて消えるのは忍びないので…。
大切にしていた品々を、できるだけ元の屋敷にあったのと同じようにして、ここに飾っておくようにする…とか、なんか、そんなことが書いてある」
「遭難?」
「雪山とかの遭難じゃないよ。明治のころは、犯罪に巻き込まれて死んだときにも、そう言うの」
と、スズミは言った。
「…ってことは、これ、陰の創立者さんの屋敷にあった品物ってこと?
ここに未練があるから、化けて出てくるわけ?」
「非現実的なこと、言わないでよ」と、カナコが言った。「幽霊なんて、いるわけないじゃん」
スズミは、目を見開いた。
「ちょっ…。
じゃあ、何でついて来たのよ!」
「あんたに、あの掛け軸を読んで欲しかったからに決まってるじゃん」
と、カナコは冷たく言った。
「言ったでしょ。うちの親戚には、明治、大正に蒼凛卒業した連中もいるの。
だから、ここが開かずの土蔵になる前に、中に入った人間もいるけど…その掛け軸は読めなかったから、何でこんなものがここにあるかは、わかんなかった」
私は…カナコが何を言っているか、わかんなかったけど…。
それより気になることがあった。
この懐かしい香り…どこから来るんだろう。
暗い部屋の中で、私はふっと、ほのかに白く浮かび上がる影を見たような気がした。
そちらに振り向くと、壁に開けられた、小さな窓が見えた。
「…!」
その窓の正面にあったのは、学校にあるもうひとつの古い建物。
イギリス風のつくりの、黒い鉄とガラスの、レトロな温室だった。
ここから見下ろすと、その入り口近くにいっぱいに咲いている白い花が見えた。
私は、部屋を飛び出て、梯子を大急ぎで降りた。
「どこ行くのよ!」と、カナコとスズミが同時に叫んだ。
「読める?」と、カナコは聞いた。
「当然でしょ」と、スズミは言った。「…と言っても、なんか固有名詞みたいのあって…人名かなあ」
「いいから、わかるところだけ、読んでよ」と、カナコは言った。
「えーと…。書いたのは、生徒手帳に載ってる方の、表の創立者さんだと思う。たぶん。
で…えーと…。甲東君とかいう人が遭難したけど、家族もいない人なので、屋敷を政府が召し上げて外国公館に下げ渡すことになったけれど…。
このまま彼の思い出の品がすべて消えるのは忍びないので…。
大切にしていた品々を、できるだけ元の屋敷にあったのと同じようにして、ここに飾っておくようにする…とか、なんか、そんなことが書いてある」
「遭難?」
「雪山とかの遭難じゃないよ。明治のころは、犯罪に巻き込まれて死んだときにも、そう言うの」
と、スズミは言った。
「…ってことは、これ、陰の創立者さんの屋敷にあった品物ってこと?
ここに未練があるから、化けて出てくるわけ?」
「非現実的なこと、言わないでよ」と、カナコが言った。「幽霊なんて、いるわけないじゃん」
スズミは、目を見開いた。
「ちょっ…。
じゃあ、何でついて来たのよ!」
「あんたに、あの掛け軸を読んで欲しかったからに決まってるじゃん」
と、カナコは冷たく言った。
「言ったでしょ。うちの親戚には、明治、大正に蒼凛卒業した連中もいるの。
だから、ここが開かずの土蔵になる前に、中に入った人間もいるけど…その掛け軸は読めなかったから、何でこんなものがここにあるかは、わかんなかった」
私は…カナコが何を言っているか、わかんなかったけど…。
それより気になることがあった。
この懐かしい香り…どこから来るんだろう。
暗い部屋の中で、私はふっと、ほのかに白く浮かび上がる影を見たような気がした。
そちらに振り向くと、壁に開けられた、小さな窓が見えた。
「…!」
その窓の正面にあったのは、学校にあるもうひとつの古い建物。
イギリス風のつくりの、黒い鉄とガラスの、レトロな温室だった。
ここから見下ろすと、その入り口近くにいっぱいに咲いている白い花が見えた。
私は、部屋を飛び出て、梯子を大急ぎで降りた。
「どこ行くのよ!」と、カナコとスズミが同時に叫んだ。