第四章 東京
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お昼休み。
なんかいい天気だったし、ちょっとクラスにいるのも面倒くさかったから、学校の裏手でぼんやりしてた。
うちの高校って丘の上にあるから、ぼんやりするのにぴったりの見晴らしのいい草地にはことかかない。
創立百三十年だか百四十年だかの古い学校なので、蔦のからまる部室棟とか、昔タバコ倉庫だったって土蔵とか、ちょっぴり昔のイギリスっぽい温室とか、草地から見える風景も、ちょこっと女の子が好きそうな可愛い建物だったりする。
建物を眺めながらぼーっとしてたら、カナコが私のそばに来て座って、
「変な噂は気にしない方がいいよ」
と言った。
「うん。気にしてない。ありがと…。カナコもさ、気にしなくていいよ」
「何、それ」
カナコが口を尖らせる。
「んー…うまく言えないけど。
こっちってさ。変な噂を流されても、別にそれでうちの道場にひとりもお弟子さんが来なくなって、家族が飢え死にしそうになるほど、皆から相手にしてもらえなくなるとかって羽目にはならないし。
噂を聞きつけた人に、町でいきなり斬りかかられて、死んじゃうってこともないし」
「あんた、それ、極端すぎるよ」
「それにさ。
私、なんか…ちょっと、誰かに、ひどい女だって…言われたい気分だったりして」
「は?」
カナコは目をむいた。
ごめん、カナコ…。
言ってから、後悔した。
ただでさえ、心配してくれてんのに、そんなこと、言うんじゃなかったよね。
「なんで、あんたが、ひどい女なのよ?」
「…」
カナコは、本気で怒ってた。
なんだか、もう、カナコに悪くて悪くてたまんなくなった。
「言いなさいよっ」
「…だってさ…」
どう言ったらいいんだろう…って悩んでたら、その気もなかったのに、また、ぽろりと涙が一粒こぼれた。
なんか最近、私、涙腺ゆるすぎるよ。
「…だって、きっと、私に会わなかったら、大久保さん、薩摩で可愛いお嫁さんもらって、子どもも生まれて、あったかい家族に囲まれてって…ふつうに人生過ごしてたよね」
「そんなの、あんたのせいじゃないじゃん」
「私のせいかもしんない。
最初に会ったとき、一緒に一週間過ごしただけで、いつか会えるよとか言って消えちゃって、十何年も待たせちゃったの、私だしさ。
その上、やっと会えたのに、一年もたたずに、猩紅熱なんか拾ってきちゃってさ。
結局…振り回すだけ振り回しといて、ほとんど一緒にいた期間ってないわけじゃん。二十代は完全に棒に振らせたわけだし。
ふつうだったら、私となんか会わなければ、こんな想いはしなくて済んだのに…って、考えるよね」
カナコは、うっ…と言葉に詰まった。
「そ、そりゃ…本人に聞いてみなけりゃ、わかんないけどっ!
でも、あんたがわざとやったわけじゃないことくらい、誰が考えたってわかるじゃんっ」
「…カナコって、やさしいね」
カナコは、なんかよけいオタオタした。
「あんたさ…。最近やっぱ変だわ。
もちょっと、なんてーの?
おバカな小娘っぷりを発揮してくんないと、こっちも調子出ないよ」
「…ごめん」
それから、カナコは、私を元気づけようとして、テレビドラマの話だの、近所のおいしいケーキ屋の話だの、なんだかとりとめのない話を一人でずっと喋り続けてた。
そして、ふっとおしゃべりをやめると、私に聞いた。
「そんなに…大久保さんが好きなんだ」
「うん」
「も一回、会いたい?」
「うん」
「そか…」
そして、大きな大きなため息をつくと、黙り込んでしまった。
なんかいい天気だったし、ちょっとクラスにいるのも面倒くさかったから、学校の裏手でぼんやりしてた。
うちの高校って丘の上にあるから、ぼんやりするのにぴったりの見晴らしのいい草地にはことかかない。
創立百三十年だか百四十年だかの古い学校なので、蔦のからまる部室棟とか、昔タバコ倉庫だったって土蔵とか、ちょっぴり昔のイギリスっぽい温室とか、草地から見える風景も、ちょこっと女の子が好きそうな可愛い建物だったりする。
建物を眺めながらぼーっとしてたら、カナコが私のそばに来て座って、
「変な噂は気にしない方がいいよ」
と言った。
「うん。気にしてない。ありがと…。カナコもさ、気にしなくていいよ」
「何、それ」
カナコが口を尖らせる。
「んー…うまく言えないけど。
こっちってさ。変な噂を流されても、別にそれでうちの道場にひとりもお弟子さんが来なくなって、家族が飢え死にしそうになるほど、皆から相手にしてもらえなくなるとかって羽目にはならないし。
噂を聞きつけた人に、町でいきなり斬りかかられて、死んじゃうってこともないし」
「あんた、それ、極端すぎるよ」
「それにさ。
私、なんか…ちょっと、誰かに、ひどい女だって…言われたい気分だったりして」
「は?」
カナコは目をむいた。
ごめん、カナコ…。
言ってから、後悔した。
ただでさえ、心配してくれてんのに、そんなこと、言うんじゃなかったよね。
「なんで、あんたが、ひどい女なのよ?」
「…」
カナコは、本気で怒ってた。
なんだか、もう、カナコに悪くて悪くてたまんなくなった。
「言いなさいよっ」
「…だってさ…」
どう言ったらいいんだろう…って悩んでたら、その気もなかったのに、また、ぽろりと涙が一粒こぼれた。
なんか最近、私、涙腺ゆるすぎるよ。
「…だって、きっと、私に会わなかったら、大久保さん、薩摩で可愛いお嫁さんもらって、子どもも生まれて、あったかい家族に囲まれてって…ふつうに人生過ごしてたよね」
「そんなの、あんたのせいじゃないじゃん」
「私のせいかもしんない。
最初に会ったとき、一緒に一週間過ごしただけで、いつか会えるよとか言って消えちゃって、十何年も待たせちゃったの、私だしさ。
その上、やっと会えたのに、一年もたたずに、猩紅熱なんか拾ってきちゃってさ。
結局…振り回すだけ振り回しといて、ほとんど一緒にいた期間ってないわけじゃん。二十代は完全に棒に振らせたわけだし。
ふつうだったら、私となんか会わなければ、こんな想いはしなくて済んだのに…って、考えるよね」
カナコは、うっ…と言葉に詰まった。
「そ、そりゃ…本人に聞いてみなけりゃ、わかんないけどっ!
でも、あんたがわざとやったわけじゃないことくらい、誰が考えたってわかるじゃんっ」
「…カナコって、やさしいね」
カナコは、なんかよけいオタオタした。
「あんたさ…。最近やっぱ変だわ。
もちょっと、なんてーの?
おバカな小娘っぷりを発揮してくんないと、こっちも調子出ないよ」
「…ごめん」
それから、カナコは、私を元気づけようとして、テレビドラマの話だの、近所のおいしいケーキ屋の話だの、なんだかとりとめのない話を一人でずっと喋り続けてた。
そして、ふっとおしゃべりをやめると、私に聞いた。
「そんなに…大久保さんが好きなんだ」
「うん」
「も一回、会いたい?」
「うん」
「そか…」
そして、大きな大きなため息をつくと、黙り込んでしまった。