第二章 物知らぬことなのたまひそ
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【薩摩藩】大久保利通
西郷への手紙より少し遅れて、私のところへも久光公からの手紙が着いた。
ほぼ同じ内容だ。
京都は危険だから、薩摩にゆうを下らせろ、城で保護してやると恩着せがましく書いてある。
さりげなく、断ったらどうなるか、いやらしく匂わせている箇所は、西郷への手紙よりもかなり多かったが。
「大久保さぁ…おいも、久光公から手紙をいただきもした」
半次郎が困った顔をする。
それで、だいたいの見当がついた。
「西郷どんがゆうさぁを連れて帰ろうとせん時ば、おいがお御嬢さぁを無理にでも薩摩行きの船に乗せろ言うて」
…やはりな。
「じゃっどん、そゆ訳には行きもはん。おいは怪我して薩摩ぁ帰れん、京都に残る言うて返事しもした」
…相変わらず、ここぞと言うときの処置だけは、妙に的確な男だ。
「だが…他の藩士にも、同じ手紙が行っているかもしれない…と思うわけか」
半次郎は、何度もうなずいた。
「ゆうさぁを守るにしても、こん藩邸の中の誰いが久光公側かわかりもはん」
半次郎の言いたいことはわかった。
手の者に小娘を四六時中見張らせるにしても、その見張りが久光公から小娘をどうにかしろと指示されていれば、当然、久光公の命令が優先となる。
そんな状態で、小娘を守れるわけがない。
もう…限界だな。
ゆうを、この時代に置いておくわけにはいかない。
…と言うよりも…。
本来なら、西郷に手紙が来た時点で、すでに小娘を未来に帰してやっているべきなのだ。
今、まだ小娘がこの藩邸にいること自体が、おかしい。
それにもかかわらず…。
小娘を帰してやるための、手配ができん。
いや…手配というほどの複雑な話ではない。
いつかのように、小娘を神社に連れて行き、キーホルダーとやらを渡して、例のしめ縄をいじくればいいだけことだ。
ただ…それだけのことができん。
あの時のことは、今でも覚えている。
そしてその後、私は十何年も、待つことになった。十何年…と言うのはたやすいが、二度とあんな思いはしたくない…と思うほど、待つにはあまりに長い時間だ。
今回は…もう、次はない。
小娘が帰れば、もう一生、戻っては来ない。
しかし、そんなことは言っていられない。
これ以上、事態が深刻にならないうちに…帰してやらねば…。
そこまで考えた途端、急に腹部に激痛が走った。
「大久保さぁ…?」
半次郎が、ひとの顔を見て、あわてていたわるような声を出す。
私は顔をそらした。
くそ。この程度の痛みを、人に気取られてどうする。
額から、脂汗がにじみ出るのを感じた。これは痛みのせいなのか。それとも、別の理由か…。
「お前の言いたいことはわかった…何とか…する」
私は、どうにかそれだけを答えた。
しかし、平常と違い、何とかできる自信は、まったく無かった。
西郷への手紙より少し遅れて、私のところへも久光公からの手紙が着いた。
ほぼ同じ内容だ。
京都は危険だから、薩摩にゆうを下らせろ、城で保護してやると恩着せがましく書いてある。
さりげなく、断ったらどうなるか、いやらしく匂わせている箇所は、西郷への手紙よりもかなり多かったが。
「大久保さぁ…おいも、久光公から手紙をいただきもした」
半次郎が困った顔をする。
それで、だいたいの見当がついた。
「西郷どんがゆうさぁを連れて帰ろうとせん時ば、おいがお御嬢さぁを無理にでも薩摩行きの船に乗せろ言うて」
…やはりな。
「じゃっどん、そゆ訳には行きもはん。おいは怪我して薩摩ぁ帰れん、京都に残る言うて返事しもした」
…相変わらず、ここぞと言うときの処置だけは、妙に的確な男だ。
「だが…他の藩士にも、同じ手紙が行っているかもしれない…と思うわけか」
半次郎は、何度もうなずいた。
「ゆうさぁを守るにしても、こん藩邸の中の誰いが久光公側かわかりもはん」
半次郎の言いたいことはわかった。
手の者に小娘を四六時中見張らせるにしても、その見張りが久光公から小娘をどうにかしろと指示されていれば、当然、久光公の命令が優先となる。
そんな状態で、小娘を守れるわけがない。
もう…限界だな。
ゆうを、この時代に置いておくわけにはいかない。
…と言うよりも…。
本来なら、西郷に手紙が来た時点で、すでに小娘を未来に帰してやっているべきなのだ。
今、まだ小娘がこの藩邸にいること自体が、おかしい。
それにもかかわらず…。
小娘を帰してやるための、手配ができん。
いや…手配というほどの複雑な話ではない。
いつかのように、小娘を神社に連れて行き、キーホルダーとやらを渡して、例のしめ縄をいじくればいいだけことだ。
ただ…それだけのことができん。
あの時のことは、今でも覚えている。
そしてその後、私は十何年も、待つことになった。十何年…と言うのはたやすいが、二度とあんな思いはしたくない…と思うほど、待つにはあまりに長い時間だ。
今回は…もう、次はない。
小娘が帰れば、もう一生、戻っては来ない。
しかし、そんなことは言っていられない。
これ以上、事態が深刻にならないうちに…帰してやらねば…。
そこまで考えた途端、急に腹部に激痛が走った。
「大久保さぁ…?」
半次郎が、ひとの顔を見て、あわてていたわるような声を出す。
私は顔をそらした。
くそ。この程度の痛みを、人に気取られてどうする。
額から、脂汗がにじみ出るのを感じた。これは痛みのせいなのか。それとも、別の理由か…。
「お前の言いたいことはわかった…何とか…する」
私は、どうにかそれだけを答えた。
しかし、平常と違い、何とかできる自信は、まったく無かった。