第十一章 この浦舟に帆を上げて
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でもなんか、マストの上から見下ろすと…。
豆つぶサイズの利通さんがお怒り顔で、何かぷんぷん嫌味言ってるって感じで、ちょっと可愛い。
…と、思ったのが伝わったのかな。
利通さんはさっさとマストを登って来ると、私の座っている横木の上に立ち、私を見下ろして、ふん、と言った。
「いいんですか?お見送りのお客様の接待しなくても」
「ふん。そんなもの、私より愛想のいいやつは大勢いる。お前が足でも踏み外して、めでたい出航にケチでもつけられる方が迷惑だ」
「す…すみません…」
そして、太平洋を見渡して、ほう、と感嘆の声を上げた。
丸くカーブを描いた、青い水平線。
遠く、房総半島がぼんやり見えるけど、その向こうは太平洋だ。
「地球が丸いというのは、本当だな…」
「これから、その地球を一周するんですよね」
利通さんはすごくうれしそうに太平洋を見てたけど、横浜港をふり返ると、
「日本の町は…まだまだ小さいな」
と言った。
私の右手、ちょっと遠くの方には、海岸に沿って、工事の柱みたいのがたくさん並んでいて、それがずっと遠くの方まで続いてる。
「まだ、小さいけど…。私たちが帰るころには、横浜から東京は汽車で行けるようになってますね」
「ああ…そうだな。日本はもっと豊かにならんといかん」
そう言って、利通さんは、なんだかとっても愛おしそうに、海岸に貼りついたような小さな横浜の町を…日本の海岸線を見てた。
この人の夢を、いっぱいかなえさせてあげたいな。
私のできること、何でもしたい。
私が手を伸ばして、利通さんの手を握った。
利通さんは、なんだ、しかたないなって顔して、隣に座って肩を抱いてくれた。
私は、ここから見える横浜の小さな町に重ねるように、自分が未来に見た、石造りの洋館やレンガの倉庫の立ち並ぶ横浜の光景を思い描いた。
そして、東京に続く線路にそって、にぎやかに続く街並み。
あれは全部、この人や…この時代の人たちが、これから作っていくんだ。
これまでの苦しい道のりや、これからあるかもしれないいくつもの戦争や、たくさんのつらい出来事を乗り越えて。
そして私は、そうやっていつも未来を見て、皆のことを考えてる、この人が好きだ。
この時代のあったかい人たちが、みんな好きだ。
マストの横木の上で、利通さんの肩に頭をのせて、横浜の港と海を眺めていると…。
やっぱり戻ってきてよかったな。私の居場所はこの人の隣しかないんだな、とそう思った。
あたり一面に広がる青い海と、蒸気帆船の真っ白な大きな帆。
旅の前途を思って、私はちょっとわくわくした。
「しかし、お前もいい場所を見つけたな」と、利通さんが言った。
「え?」
「いや…いくら大型客船とはいえ、総勢百人以上の大使節団では、船内に人目がありすぎる。
せまい船室には四六時中、仕事だなんだと人が訪ねてきて落ち着かんだろうと、思っていたからな」
「何の話ですか?」
利通さんが、鈍いやつだと言いたそうな目で、笑う。
「ここは逢引にちょうどいい」
そう言って、利通さんは私にキスをした。
同時に、船の汽笛がすぐ近くで大きく鳴り、横浜の丘でどんと祝砲が鳴った。
船のあちこちに止まっていたユリカモメの群れが、一斉に飛び立った。
大きな羽音を立てて、私たちを包むように空に飛んで行く。
何だか、一緒に、空に飛んで行くような気がした。
この瞬間がいつまでも続けばいいのに、と私は思った。
豆つぶサイズの利通さんがお怒り顔で、何かぷんぷん嫌味言ってるって感じで、ちょっと可愛い。
…と、思ったのが伝わったのかな。
利通さんはさっさとマストを登って来ると、私の座っている横木の上に立ち、私を見下ろして、ふん、と言った。
「いいんですか?お見送りのお客様の接待しなくても」
「ふん。そんなもの、私より愛想のいいやつは大勢いる。お前が足でも踏み外して、めでたい出航にケチでもつけられる方が迷惑だ」
「す…すみません…」
そして、太平洋を見渡して、ほう、と感嘆の声を上げた。
丸くカーブを描いた、青い水平線。
遠く、房総半島がぼんやり見えるけど、その向こうは太平洋だ。
「地球が丸いというのは、本当だな…」
「これから、その地球を一周するんですよね」
利通さんはすごくうれしそうに太平洋を見てたけど、横浜港をふり返ると、
「日本の町は…まだまだ小さいな」
と言った。
私の右手、ちょっと遠くの方には、海岸に沿って、工事の柱みたいのがたくさん並んでいて、それがずっと遠くの方まで続いてる。
「まだ、小さいけど…。私たちが帰るころには、横浜から東京は汽車で行けるようになってますね」
「ああ…そうだな。日本はもっと豊かにならんといかん」
そう言って、利通さんは、なんだかとっても愛おしそうに、海岸に貼りついたような小さな横浜の町を…日本の海岸線を見てた。
この人の夢を、いっぱいかなえさせてあげたいな。
私のできること、何でもしたい。
私が手を伸ばして、利通さんの手を握った。
利通さんは、なんだ、しかたないなって顔して、隣に座って肩を抱いてくれた。
私は、ここから見える横浜の小さな町に重ねるように、自分が未来に見た、石造りの洋館やレンガの倉庫の立ち並ぶ横浜の光景を思い描いた。
そして、東京に続く線路にそって、にぎやかに続く街並み。
あれは全部、この人や…この時代の人たちが、これから作っていくんだ。
これまでの苦しい道のりや、これからあるかもしれないいくつもの戦争や、たくさんのつらい出来事を乗り越えて。
そして私は、そうやっていつも未来を見て、皆のことを考えてる、この人が好きだ。
この時代のあったかい人たちが、みんな好きだ。
マストの横木の上で、利通さんの肩に頭をのせて、横浜の港と海を眺めていると…。
やっぱり戻ってきてよかったな。私の居場所はこの人の隣しかないんだな、とそう思った。
あたり一面に広がる青い海と、蒸気帆船の真っ白な大きな帆。
旅の前途を思って、私はちょっとわくわくした。
「しかし、お前もいい場所を見つけたな」と、利通さんが言った。
「え?」
「いや…いくら大型客船とはいえ、総勢百人以上の大使節団では、船内に人目がありすぎる。
せまい船室には四六時中、仕事だなんだと人が訪ねてきて落ち着かんだろうと、思っていたからな」
「何の話ですか?」
利通さんが、鈍いやつだと言いたそうな目で、笑う。
「ここは逢引にちょうどいい」
そう言って、利通さんは私にキスをした。
同時に、船の汽笛がすぐ近くで大きく鳴り、横浜の丘でどんと祝砲が鳴った。
船のあちこちに止まっていたユリカモメの群れが、一斉に飛び立った。
大きな羽音を立てて、私たちを包むように空に飛んで行く。
何だか、一緒に、空に飛んで行くような気がした。
この瞬間がいつまでも続けばいいのに、と私は思った。