第十章 炎上
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…なんかよくわかんないけど…。
つまり…。
大久保さん、戦の最中に私のことなんか助けに来ちゃって…。
本来なら、例の士道に反するってやつで、下手したら切腹ものだったと思うんですけど…。
とりあえず、結果オーライってことですか?
京都での戦が終わってからそんな話をすると、西郷さんは、笑って私にありがとうと言った。
「あの時、おいは薩摩の仲間のことしか頭になかった。
あれがゆうさぁだったからああいう結果になったが、おいはもう少しで取り返しのつかない残酷なことを、利通にしてしまうところだった。
利通は…あいつは…頭がよすぎて、他の人間より情勢がはっきり見えてしまうから…。
より大勢の人間を助ける方向に動こうとして…近しい人間でも切り捨てろと言われれば、自分の心を殺してやってしまう。
心の中では本人がいちばん傷ついているんだろうが、あの通り憎まれ口しか叩かないから、誰にも気づかれず、裏切り者、冷血とそしられる。
だから…すぐさま御所に駆けつけねば負けるかもしれないというあの状況で…。
あいつがゆうさぁを助けに走るとは思わなかった。
…これできっと…あいつの中で何かが変わっていくのだろうな。
日本にとって、それがいいことか悪いことかは知らんが…少なくとも、あいつにとっては、間違いなくいいことだ」
それからまた別の機会に、西郷さんが、そんなことを言ってたよと言うと、大久保さんは例によって、ふん、と鼻をならして言った。
「なんだ、その言い草は。
だいたいだな、私に言わせれば、あいつはいちいち情に流され過ぎる。
誰が見てもそっちの道に行けば、皆で自滅だろうという場合でも、せつせつと情に訴えられれば心中に付き合っちまうような馬鹿だ、あいつは。
本人はそれほど頭が悪いわけではないんだが…。
頭の悪いやつらに西郷どん、西郷どんと担ぎ上げられても、自分には人望がある、守ってやらねばと妙に使命感に燃えて、正義の味方になっちまうから始末が悪い。
ま、今回、私に向かって大砲をぶっ放せと、西郷には言ったがな。
正直、あいつが本当に撃って来たのには驚いた。
なんだ、あの野郎も、親友に向かって大砲が撃てるのか。ならまあ、情に左右されずに状況を判断する能力もあるじゃないか、とは思ったな。
あいつには、私のことならいくらでも切り捨ててもらってかまわんから、もっと情勢を冷静に判断できるように頭を鍛えろ、と言ってやれ。
この先も戦は続くからな。あいつが変に自分に酔って、取り巻きどもと暴走でもされたら、日本人全員の迷惑だ」
うーん…。
ふたりとも言うことが難しすぎてよくわかんないけど…。
どうやら、おたがい、親友のことを心配しあってて…今回のことでちょっと見直したってことなんですよね、きっと。
そして、ふたりとも、いつもなら絶対しないような行動を、今回選んじゃったっぽいんですけど…。
(あ、後で聞いたら、半次郎さんまで、西郷さんに逆らうなんて、いつもなら絶対しない態度、取ったらしいです)
それがうまく行ったことで、これから先、何かが変わるのかなって、私はちょっとだけ、そう思った。
あ、あと、それから…。
戦が終わって、私たちは伏見から引き揚げて、洛北にある二本松藩邸に移ったんだけど…。
その門のところで、にゃあと懐かしい声を出してお出迎えしてくれたのは、前よりもずいぶん太って中年オヤジ猫になってたトンちゃんだった。
後ろには、おんなじ模様のオスの子猫が1匹、ついて来てたけど…息子だったのかな。
女中頭さんとか、伏見藩邸で親しかった奉公人の人たちも、みな、一旦避難していたそうで、戦が終わると次々と二本松藩邸の方に顔を出した。
私は、みなの無事な姿を見てほっとして…泣きそうになってしまった。
つまり…。
大久保さん、戦の最中に私のことなんか助けに来ちゃって…。
本来なら、例の士道に反するってやつで、下手したら切腹ものだったと思うんですけど…。
とりあえず、結果オーライってことですか?
京都での戦が終わってからそんな話をすると、西郷さんは、笑って私にありがとうと言った。
「あの時、おいは薩摩の仲間のことしか頭になかった。
あれがゆうさぁだったからああいう結果になったが、おいはもう少しで取り返しのつかない残酷なことを、利通にしてしまうところだった。
利通は…あいつは…頭がよすぎて、他の人間より情勢がはっきり見えてしまうから…。
より大勢の人間を助ける方向に動こうとして…近しい人間でも切り捨てろと言われれば、自分の心を殺してやってしまう。
心の中では本人がいちばん傷ついているんだろうが、あの通り憎まれ口しか叩かないから、誰にも気づかれず、裏切り者、冷血とそしられる。
だから…すぐさま御所に駆けつけねば負けるかもしれないというあの状況で…。
あいつがゆうさぁを助けに走るとは思わなかった。
…これできっと…あいつの中で何かが変わっていくのだろうな。
日本にとって、それがいいことか悪いことかは知らんが…少なくとも、あいつにとっては、間違いなくいいことだ」
それからまた別の機会に、西郷さんが、そんなことを言ってたよと言うと、大久保さんは例によって、ふん、と鼻をならして言った。
「なんだ、その言い草は。
だいたいだな、私に言わせれば、あいつはいちいち情に流され過ぎる。
誰が見てもそっちの道に行けば、皆で自滅だろうという場合でも、せつせつと情に訴えられれば心中に付き合っちまうような馬鹿だ、あいつは。
本人はそれほど頭が悪いわけではないんだが…。
頭の悪いやつらに西郷どん、西郷どんと担ぎ上げられても、自分には人望がある、守ってやらねばと妙に使命感に燃えて、正義の味方になっちまうから始末が悪い。
ま、今回、私に向かって大砲をぶっ放せと、西郷には言ったがな。
正直、あいつが本当に撃って来たのには驚いた。
なんだ、あの野郎も、親友に向かって大砲が撃てるのか。ならまあ、情に左右されずに状況を判断する能力もあるじゃないか、とは思ったな。
あいつには、私のことならいくらでも切り捨ててもらってかまわんから、もっと情勢を冷静に判断できるように頭を鍛えろ、と言ってやれ。
この先も戦は続くからな。あいつが変に自分に酔って、取り巻きどもと暴走でもされたら、日本人全員の迷惑だ」
うーん…。
ふたりとも言うことが難しすぎてよくわかんないけど…。
どうやら、おたがい、親友のことを心配しあってて…今回のことでちょっと見直したってことなんですよね、きっと。
そして、ふたりとも、いつもなら絶対しないような行動を、今回選んじゃったっぽいんですけど…。
(あ、後で聞いたら、半次郎さんまで、西郷さんに逆らうなんて、いつもなら絶対しない態度、取ったらしいです)
それがうまく行ったことで、これから先、何かが変わるのかなって、私はちょっとだけ、そう思った。
あ、あと、それから…。
戦が終わって、私たちは伏見から引き揚げて、洛北にある二本松藩邸に移ったんだけど…。
その門のところで、にゃあと懐かしい声を出してお出迎えしてくれたのは、前よりもずいぶん太って中年オヤジ猫になってたトンちゃんだった。
後ろには、おんなじ模様のオスの子猫が1匹、ついて来てたけど…息子だったのかな。
女中頭さんとか、伏見藩邸で親しかった奉公人の人たちも、みな、一旦避難していたそうで、戦が終わると次々と二本松藩邸の方に顔を出した。
私は、みなの無事な姿を見てほっとして…泣きそうになってしまった。