大久保さんは、お琴さんにからかわれてげんなりしたのか、話題を変えた。
「そんなことより、お琴。情報収集に協力してくれるのはありがたいが、もう自重しろ。お前の身の安全の方が大事だ」

お琴さんは、芸妓さんらしからぬサバサバした感じで、声をたてて笑った。
「あら、相変わらず心配性だこと。おやさしいのね」

「お前だけのことなら心配せん」

「あら」
何か、面白がる口調。

「腹の子のことも考えろと言っている」


…。

……。

………。

その後のことはあんまり記憶にない。

どこをどう走ったのか、とにかく、私は逃げ帰るように藩邸に戻った。

部屋に帰ったら、何か急に涙が出てきた。
畳にへたり込んで、なんかもう、声を上げてわあわあ泣いてしまった。


なんか馬鹿みたい…。

私…何、変な期待してたんだろ…。

そうだよね。
あんな偉い人だもん。お琴さんみたいな美人にだって、ほっとかれないよね。

なのに…何でこんなに泣けてくるんだろ。

私…なんか今まで全然自覚なかったけど。

大久保さんのこと、こんなに好きだったんだ。…てか、まだ好きだよ…。

どうしよう…。

涙がまた、あふれてきた。止まんない。