お琴さんは大久保さんに会うと、何やら嬉しそうにいろいろ話しかけていた。
ここからだと、会話の内容は聞こえない。

でも。

京の川辺の柳並木を歩く二人は、いかにも美男美女のカップルって雰囲気で。なんか悔しいけど、風情があるっつーか。
大久保さん、私と一緒に歩くときは、引率って感じなのに。ピリピリしなくても歩けるんじゃん。

お琴さんが、大久保さんに何やらきれいな紙に書いた手紙を渡した。
大久保さんはためらいもせずに、懐に入れてしまう。
お琴さんが何か言って、軽く大久保さんの肩を叩くと、何が面白いのか、大久保さんは軽く笑った。

ちょと待て。
私の前では、あんなやわらかい笑い方、しないぞ。

あ…。
やばい。

こっちに来る。

私はあわてて、道を離れて物陰に隠れた。

だんだん二人が近づいて来ると、会話が聞こえてくる。

「…今日ね、噂のゆうさんをお見かけしましたよ。可愛いお方ですこと」
「…何が言いたい?」
うふふ…とお琴さんが笑う。
「大久保さんが何やら強引に手回しして、預かることにした身元不明の娘さんって言うのを、見てみたかったんですよ。よほどご執心とか」
「馬鹿なことを」
「もう、お口説きにはなったんですか?」
「ふざけるな。あれはまだ子供だ。そういう相手ではない…。冗談で口説いたことぐらいはあるが、まさか本気にはしとらんだろう」
ああら…とお琴さんが心外そうな声を上げる。
「おぼこ娘を甘く見て、痛い目を見ても知りませんよ」

ひっ…ひどい…。

何も、私の噂を…それも、そんなふうな言い方しなくとも。

冗談で口説いたって…冗談って…。
そりゃ、そうかもしれないなって、心の半分くらいでは感じてたけど…でも…。

しかし、本当のショックはこの後に来た。