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のばらとモブ

新学期がはじまった。新しいクラスは、すこしぎこちなかったが、じょじょに、グループができていった。
たまに話しかけてくる、フリオニールは、おとなしそうなやつらとよくいるようだった。毎日、さわやかな笑顔を携えている。眺めているだけで、心が洗われそうだった。

今朝はいやに目が覚めて、いつもよりはやい時間に家を出た。
どの時間に出ても混雑する電車に乗る。窮屈ながら、揺られる。駅に着くたびに、乗り降りでひとが行き交った。
つり革をにぎって、ぼんやりとしていると、肩をたたかれた。押し込んでいたイヤホンを片方だけはずして、となりをみる。
「おはよう。きみも電車通学なんだ」
横に立っていたのは、フリオニールだった。
満員電車のなかでも、やわらかくわらっていた。
「いつもは3本くらい遅い電車に乗ってるから」
「そうなのか。よく間に合うなぁ」
「ぎりぎりだけどな」
「だろうな。きみはいつも朝礼ぎりぎりに教室へはいってくるから」
「朝は苦手だ」
「そんな感じがするよ」
フリオニールは声をおさえて、そっとほほえんだ。
「どこから乗ってたんだ?」
「さっきの駅」
「近いんだな」
「ああ。なるべく近いところを選んだんだ」
「家から?」
「いや、施設から」
「あ、わるい」
「いいんだ。気にしないでくれ」
あんな穏やかなフリオニールが、施設育ちなんて、想像がつかなかった。横顔を見る。なに不自由なく育った表情で、なぜか、胸が痛んだ。
「とても素敵なところで、家族同然に育ててくれて、感謝してるんだ」
痛んだ心を見透かしたように、フリオニールが俺を見て笑んだ。
なぜか、泣きそうになった。
「気を使わないでもらえると、うれしい」
「......わかった」
「ありがとう」
礼をいうのは俺のほうなのに、フリオニールが代わりに礼をいった。
その後すぐに学校の最寄りに着き、肩を並べて、電車を降りた。同じ制服が、ホームに列をなした。改札を出て、すこし歩く。
フリオニールは、昨日出た宿題の話をしたり、今日の授業についても話した。
だれかといっしょに門をくぐるのは、はじめてだった。新鮮な気持ちで、教室まで歩く。となりにいるフリオニールは、人懐っこい笑みを浮かべている。
「なぁ」
「ん?」フリオニールはこちらを見る。
「いいや、なんでもない」
すこしだけ、口角をあげる。
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