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のばらとモブ

春という季節が、とてもきらいだった。
なにもかも新しく変わっていく起点のようにおもえて、うまく馴染めない。毎年のことだった。今年もそうだろうな、とおもった。
外へ出る。冬の寒さから、だんだんと、なまあたたかくなる。すこしの気持ち悪さを抱えて、学校へと足を運ぶ。
新たな門出を祝うように、正門が飾られていた。騒がしい音が響いている。クラス替えの表を見る生徒でいっぱいだった。
ひととひととの間をすり抜けて、自分の名前を探す。文字を追いかけていくと、自分の名前を発見した。クラスを確認して、素早く校内へ逃げ込む。
あたらしいものに、浮き足立つ生徒たちであふれている。いやだな、とおもいながら、新しい教室へはいる。席の数の半分くらいの生徒がいた。
黒板に貼られた、座席表を確認して、自分の席へ座る。列は真ん中だが、1番後ろだった。悪くはなかった。時間が経つのを待った。予鈴がなる5分前には、ほぼ全員が教室に集まっていた。席が埋まっている。俺の目の前の席には、背の高い男が座った。かなり身長があるな、とおもっていると、目の前の男が顔をこちらに向けた。
「おはよう。はじめまして、俺はフリオニール。今日から1年間、よろしくたのむよ」
さわやかな笑顔と、ゆれる銀色の髪が、印象的な男だった。俺はあっけにとられて、目を丸くすることしか、できなかった。
「あ、いきなりすまない。驚くのも無理ないよな。俺、去年のクラスメイトから、でかくて黒板がみえない、ってよくいわれてたから、君にも迷惑がかかるとおもって、先に謝るために、声をかけたんだ」
申し訳なさそうに話す男の背格好を見て、だろうな、とおもった。座っていても顔の位置がすこし高い。顔の印象から細身に見えるが、体は思いのほかがっしりとしている。背の低い男だったら、みえないだろう。
「俺はみえるから、気にしなくていい」
「君が背の高いひとでよかったよ」
ほがらかな笑みは、春のゆううつをやわらげてくれるようだった。
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