七月の季節
【なければいい】
彼女はききわけもよく、非常に優秀な部下だ。しかし、一点だけ致命的と言える欠点があった。それは他人の目を見ながら話が出来ないこと――。
「まただ!! 何度言えばできるようになるんだ!!」
私は怒鳴る。上司としての責務だからだ。
「すみません」
彼女は本当に申し訳なさそうに謝罪をする。が、うつむき一切目をあわせない。
仕事は早いし、正確で、気遣いもできて真面目で正直者。この欠点さえなければいいのにとつい私も向きになってしまう。
その日も私は指導をしていた。一瞬、目が合いそうだったのに彼女はサッと目をそらしたんだ。他の仕事で少し苛立っていた私はつい手が出てしまった。
彼女の顔を掴んで、無理矢理に目を合わせたんだ。
恐怖に満ちた目をしていたのをよく覚えている。動物に近い目だった。怯えた猫のような目。
その口から出た声はとても落ち着いていた。というよりも感情がないような声で彼女はこう言った。
「なければいいんだ」
何が起きたか理解できなかった。痛みの前に視界が真っ暗になり、形容しがたい奇妙な音が今でも耳に残っている。
彼女はボールペンを突き刺し、私の目を潰してなくしたのだった。
彼女はききわけもよく、非常に優秀な部下だ。しかし、一点だけ致命的と言える欠点があった。それは他人の目を見ながら話が出来ないこと――。
「まただ!! 何度言えばできるようになるんだ!!」
私は怒鳴る。上司としての責務だからだ。
「すみません」
彼女は本当に申し訳なさそうに謝罪をする。が、うつむき一切目をあわせない。
仕事は早いし、正確で、気遣いもできて真面目で正直者。この欠点さえなければいいのにとつい私も向きになってしまう。
その日も私は指導をしていた。一瞬、目が合いそうだったのに彼女はサッと目をそらしたんだ。他の仕事で少し苛立っていた私はつい手が出てしまった。
彼女の顔を掴んで、無理矢理に目を合わせたんだ。
恐怖に満ちた目をしていたのをよく覚えている。動物に近い目だった。怯えた猫のような目。
その口から出た声はとても落ち着いていた。というよりも感情がないような声で彼女はこう言った。
「なければいいんだ」
何が起きたか理解できなかった。痛みの前に視界が真っ暗になり、形容しがたい奇妙な音が今でも耳に残っている。
彼女はボールペンを突き刺し、私の目を潰してなくしたのだった。