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七月の季節

 これはぼくが小学校のプールの時間に体験した話。中学になってからは一度もない――。

 ぼくの学校のプールは隣の中学校と共同で使っていたから、水深が170センチはあるんじゃないかってくらい深めの50メートルプールだった。とくに小学一年生だったぼくからすると、海に来たんじゃないかって思うくらい広く感じてたんだ。

 小さな頃から水が好きだったぼくは、水面器に顔をつけたり、お風呂の中に潜ったりして遊んでたから、この学校のプールが大好きだった。
 どのくらい好きだったかというと、先生から「プールからあがりましょー」って号令があっても絶対に一番最後まで残って先生から怒られるくらい好きだったんだよね。

 だから一度だけ、息を命一杯吸い込んでプール底に張り付いて隠れてたことがあったんだ。

 誰もいない50メートルプールは端が見えなくて、本当に海に来れたような気がした。でも、少しすると波もなくなり、音もとても遠くに聞こえるだけ。
 そんなときにアレは突然現れたんだ!!

 どこからともなく「ギー、バタン!!」「ギー、バタン!!」って。木がきしむような音と水がかき混ぜられる音。今まで波一つなかったプールの中の水が音に合わせてかき混ぜられた。
 そこに現れたのはフジツボがたくさんついた古そうで汚い丸みのある木の板だったけど、ぼくにはそれが木製の船だってすぐにわかった。だって、少し前に見た海賊映画の船にそっくりだったから!!

 驚いて口を開けたら、口の中が泡がこぼれだしたけれど、木製のオールが水をかき混ぜる泡と一緒になって、自分のはいた泡がどれなのかなんてわからなかった。

 どのくらいの時間をかけてその船が通り過ぎていったかはわからない。だって、気が付いたときには保健室のベッドの上にいたから。

 こんな話はお母さんも、お父さんも、もちろん先生も信じてくれなくって病院に連れて行かれた。数回プールの授業を見学させられてる間に自分でも夢だったのかなって思うようになってた。だけど、やっとプールに入ることを許してもらえたとき、夢じゃなかったってわかった。だって、水の中に入ると、沢山の金魚が泳いでたから。赤かったり、黒かったり、出目金だったり。

 それからも、授業で学校のプールに入るたびに、壁にタコが張り付いてたり、マグロの群れが通過したり、ぼく以外は誰も気が付いてなかったけど、まっくろで大きなナマコを踏んだ感触は絶対に幻なんかじゃなかった!!

 だから、これは僕だけの秘密の思い出。

 そんな中で一番印象に残ってるのは5年生のときに25メートルのタイム測定をしているときのこと。隣のレーンを物凄いスピードで何かが通ったからそちらを見ると河童がニヤリと笑って折り返して戻って来たことかな。
 ついつい「河童ってなんだよ?!」って立ち上がっちゃって記録更新できるところだったのに、失格になっちゃったんだ。

 またプールに入れなくなったら嫌だから、この話は絶対に内緒にしてね。
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