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七月の季節

【タイムリミット】
 真夏にこんな冬のような日はない。しかし、冬には夏のような日が時々ある。そう、今日のような――。

 コートだけでなく、スーツのジャケットすらも脱いでしまう。まるで北風と太陽の旅人になった気分だ。
 けれどその暖かさはどこか心地よく、ベンチに腰掛けて公園を眺めながら、こんな穏やかな時間はいつぶりだろうか。

 通勤のときに使っているプレイリストからは好きな歌手の曲が軽快に流れる。

 こんな言い方をするのはおかしな話かもしれないが、自分は人生の分岐という選択の中でミスをした覚えがない。
 正解というものは正直わからない。けれど、昔から最善の選択というものがわかってしまう。他人からみれば失敗に見えても、それはその先にあることを含めると最善になる。

 ああ、しかしスマホの電池がこんなにも早く切れるのは想定外だ。時間としては充電器を買いに行くことも可能だろう。

 でも、本能がその必要はないと言っている。

 自分は今からとある存在に会いに行く。それを回避することも可能だった。しかし、本能が言ったんだ。会うことが最善だと……。

 そして、今から40分以内に自分は転落死するだろう。

 けれど県庁という場所は昔からどうにも苦手だ。
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