七月の季節
【ミステリーの始め方】
それを拾ったのは、元・国鉄の線路沿いだった――。
バス道でもあり、住宅も並んでいるのにその線路沿いの道を通る人はどの時間帯でも少ない。
一番近い駅から南北にのびる幹線道路に到達するまでは徒歩5分程。そこまでは北側に一戸建ての住宅並んでいる。僕は週の半分ほど、大体同じ時間帯にこの道を通るけれど平均的に4人程としか遭遇したことがない。
なにを言いたいのかといえば、この道には目撃者が簡単にいないということ。
けれど道は明るいし、玄関もこちらを向いている。それに南北にのびる幹線道路は交通量が多い。ので、どんなに人がいなくても気にすることはなかった。
そろそろ、僕がどうしてこんな説明をしているのかという話に移ろう。
いつものように誰もいない道でプチアカペラ大会を開催しているときだ。なぜか綺麗な西洋風の庭なのに、始めてこの家の前を通ったときからずっと赤く小さな鯉のぼりを大量に吊るしている家があり、その家の前でのことだった。
線路側の花壇の下に傷だらけの携帯電話が落ちていたのを発見したのだ。
それはスマートフォンではなく、折り畳み式の銀色の携帯電話。
未だに自分自身も折り畳み携帯を愛用しているものの珍しいと思い、僕はそれを拾い上げようとしゃがんだ。
すると、普段は早々に音を立ててもならない鍵束につけているお守りの鈴が大きな音を立てた。この鈴が鳴るときは何か事件が起きることが多い。
早くなる心拍数を抑えながら、携帯に手を伸ばした。開く前に妙に傷のが酷かったので見てみるとどうにも、真新しいのがわかった。
特にこの角だ。今さっきここの線路の壁にぶつかってできた傷に見える。
開いて画面を見た瞬間。全身を鳥肌が駆け巡った。
《505》
電話の発信画面にはその3文字の数字だけが押されていたのだ。
自分でも小説の読み過ぎだってわかっている。そんなわざわざSOSを求めるために505という数字を打つなんて現実的じゃない。本当にピンチなら110と打つだろう。
それでも……大きく一度深呼吸をすると、周りを見回した。
薄曇りの空。静まり返った住宅街、未だに1人も人が通らない道。そして、道路にはブレーキ痕。
そんな、まさか、こんなのはありえない。ここで誰かが車に押し込められて拉致され、何とか携帯にSOSの文字を残し、助けを求めているなんて現実は……あってもいいじゃにか!!
僕は緩み切った口元を片手で覆い、笑みを隠す。タイミングを計ったように、電車が駆け抜けた。携帯を開き《助手》という名前の番号に電話をかけ、合図の言葉を口にする。
「さあ、捜査開始だ」
それを拾ったのは、元・国鉄の線路沿いだった――。
バス道でもあり、住宅も並んでいるのにその線路沿いの道を通る人はどの時間帯でも少ない。
一番近い駅から南北にのびる幹線道路に到達するまでは徒歩5分程。そこまでは北側に一戸建ての住宅並んでいる。僕は週の半分ほど、大体同じ時間帯にこの道を通るけれど平均的に4人程としか遭遇したことがない。
なにを言いたいのかといえば、この道には目撃者が簡単にいないということ。
けれど道は明るいし、玄関もこちらを向いている。それに南北にのびる幹線道路は交通量が多い。ので、どんなに人がいなくても気にすることはなかった。
そろそろ、僕がどうしてこんな説明をしているのかという話に移ろう。
いつものように誰もいない道でプチアカペラ大会を開催しているときだ。なぜか綺麗な西洋風の庭なのに、始めてこの家の前を通ったときからずっと赤く小さな鯉のぼりを大量に吊るしている家があり、その家の前でのことだった。
線路側の花壇の下に傷だらけの携帯電話が落ちていたのを発見したのだ。
それはスマートフォンではなく、折り畳み式の銀色の携帯電話。
未だに自分自身も折り畳み携帯を愛用しているものの珍しいと思い、僕はそれを拾い上げようとしゃがんだ。
すると、普段は早々に音を立ててもならない鍵束につけているお守りの鈴が大きな音を立てた。この鈴が鳴るときは何か事件が起きることが多い。
早くなる心拍数を抑えながら、携帯に手を伸ばした。開く前に妙に傷のが酷かったので見てみるとどうにも、真新しいのがわかった。
特にこの角だ。今さっきここの線路の壁にぶつかってできた傷に見える。
開いて画面を見た瞬間。全身を鳥肌が駆け巡った。
《505》
電話の発信画面にはその3文字の数字だけが押されていたのだ。
自分でも小説の読み過ぎだってわかっている。そんなわざわざSOSを求めるために505という数字を打つなんて現実的じゃない。本当にピンチなら110と打つだろう。
それでも……大きく一度深呼吸をすると、周りを見回した。
薄曇りの空。静まり返った住宅街、未だに1人も人が通らない道。そして、道路にはブレーキ痕。
そんな、まさか、こんなのはありえない。ここで誰かが車に押し込められて拉致され、何とか携帯にSOSの文字を残し、助けを求めているなんて現実は……あってもいいじゃにか!!
僕は緩み切った口元を片手で覆い、笑みを隠す。タイミングを計ったように、電車が駆け抜けた。携帯を開き《助手》という名前の番号に電話をかけ、合図の言葉を口にする。
「さあ、捜査開始だ」